ニューヨークタイムズ紙:「冷温停止宣言の裏の疑問」

■ニューヨークタイムズ紙:「冷温停止宣言の裏の疑問」(EX-SKF-JP 2011年12月15日)
http://ex-skf-jp.blogspot.com/2011/12/blog-post_15.html

ニューヨークタイムズ
マーティン・ファクラー
2011年12月14日

日本政府が原子炉制御成功を宣言しても、その裏には重大な疑問

東京発-壊滅的な地震と津波が福島第1原発の原子炉冷却システムを破壊し、3つの原子炉でメルト
ダウンを起こしてから9ヶ月、日本政府は近々、原発の過熱した原子炉を再び制御することに成功した、
と宣言すると見られている。

しかし、そのような宣言が出る前から、専門家は深い疑念を表明している。

金曜日に、野田佳彦首相率いる災害対策本部は、福島原発の壊れた3つの原子炉が「冷温停止」と
同様の状態になったと発表するかどうかを採決する予定だ。冷温停止とは技術用語で、通常は壊れて
いない原子炉で炉心が安全に安定している状態を指す。専門家は、政府が予想されるように冷温停止
を宣言するとすれば、それは原発の冷却システムを年内に復旧するという約束を守ろうとする政府の
努力を反映しているだけで、真の原発の状態を表したものではない、と言う。

対策本部が冷温停止を宣言すると、次のステップは使用済み燃料をより安全に貯蔵するために共用
冷却プールに移し、いずれは原子炉自体を開けることになる。

しかし、多くの専門家が恐れるのは、政府の勝利宣言は事故についての国民の怒りを和らげるため
だけのもので、原子炉の安全性を脅かす危険から注意をそらすのではないか、ということである。そ
んな危険の一つ-3月11日のマグニチュード9の地震の余震で、福島原発の運転者である東電が
事故後に応急措置として急いで構築した新しい冷却システムが損傷してしまう -は、可能性が大き
いものとして多くの地震学者が指摘する。

専門家はまた、冷温停止という言葉自体、壊れた原子炉が安定しているかのような印象を与えかね
ない、と言う。壊れた原子炉の燃料炉心はメルトダウンを起こしただけでなく、圧力容器を溶融貫通し
て圧力容器の外側の格納容器のコンクリート製の構造物の床を侵食しているのだ。

「政府は、すべては制御されている、と言って人々を安心させたい。それで年末までにそうする、とい
っている」、というのは、九州大学原子力工学科の工藤和彦教授。「私が知りたいのは、本当にそん
なこと言ってしまっていいのか、ということです」

おそらく多少の余地を残すためだろうが、日本政府はあいまいな表現を使い、3基の破壊された原子
炉は「冷温停止状態」にある、と宣言すると思われる。実際上は原子炉の温度を水の沸点以下に安
全に保つことが出来るようになり、溶融した炉心が再び原子核連鎖反応を起こして再び原子炉の温
度が制御不能の状態で上がってしまう危険性はすでにない、という主張に過ぎない、と専門家たちは
言う。

専門家は確かに、壊れた原子炉を再び制御するための東京電力による作業が進んでいる、と評価
している。福島第1原発のにわか造りの原子炉冷却システムは米国、フランス、日本の企業の協力
で造られたが、今のところ炉心を冷やすことが出来ている、と評価している。

また彼らは、大破した1号機の原子炉建屋を覆う小屋のような構造物が原発からの放射能の大気
中への拡散を抑えている、と言う。1号機建屋は3月の水素爆発で破壊された3つの原子炉建屋の
一つで、この爆発のために東日本、北日本の広範囲にわたって危険な放射性粒子が拡散した。

それでも専門家たちは、[冷温停止という]用語は通常は健全な原子炉に対して使うもので、原子炉
が十分に安全で格納容器を開いて中の燃料棒を取り出すことが出来る状態を示すものである、と
言う。しかし、福島第1原発の壊れた原子炉から溶融した燃料を取り出すには、日本政府が予定す
る3年よりもよほど長い期間が必要かもしれない、と警告する。一部の専門家は、冷温停止の宣言
は福島原発があたかも収束に近づいているというような誤解を招きかねない、と言う。

「福島第1原発の原子炉のような壊れた原子炉に対して冷温停止を宣言しても、さほどの意味はな
い」と言うのは、International Access Corporationの原子力工学コンサルタントの中尾昇だ。

実際、数十年前にメルトダウンした原発からでさえ損傷した炉心を取り出せていないのだ、と専門
家は指摘する。チェルノブイリ事故の場合、1986年の爆発後ソ連政府は損傷した原子炉をコンク
リの石棺で固めただけである。冷温停止の話は環境の放射能汚染というより深刻な問題から人々
の注意をそらしている、という専門家もいる。特に、建屋の地下に溜まっている、あるいは原発の
敷地内に保管されている9万トンの汚染水が太平洋に漏出する危険がまだある、と言う。

「現時点では、原子炉の中がどうなっているかよりも汚染の状況の方が心配だ」、というのは
Murray E. Jennex、サンディエゴ州立大学の原子力封じ込めの専門家である。

原子炉自体が安定している、という日本政府の主張、、特に、核分裂と呼ばれる熱を発生する連
鎖反応の再発はすでに不可能である、という主張は信用する、とJennex氏は言う。福島第1原発
の原子炉の一つで先月、核分裂の副生物であるキセノンガスが検出され、連鎖反応が再開した
のではないかとの危惧があったが、Jennex氏は、3月の事故から既に十分な量の核燃料[内の放
射性物質]が崩壊しているので、それはまずないだろう、としている。

それに反対する専門家もいる。九州大学の工藤教授は、核分裂の再開、これは再臨界と呼ばれ
る現象だが、原子炉を開いて中の溶融燃料を調査できるようになるまでは、その可能性を除外す
ることは出来ない、と言う。しかし、教授を含めた専門家の一番の危惧は、地震や津波が再び襲
って、東電の間に合わせの原子炉冷却システムを使用不能にしてしまう可能性である。冷却シス
テムは地震安全基準に従って造られたものではない、と彼らは指摘する。このシステムは、原子
炉と2キロ以上の長さの[プラスチックの]ホースでつながっている水の浄化装置やその他の脆弱
な装置に頼っているのだ。

「地震か津波が一つ来ただけで、福島第1原発はまた振り出しに戻ってしまいます」、と工藤教授
は言う。「このような危ない状態を、冷温停止、と本当に呼べるのでしょうか?」
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