TPPと日銀人事での失敗は歴史に禍根を残す
TPPと日銀人事での失敗は歴史に禍根を残す
二つの重要問題をさらに論じる。
TPPと日銀幹部人事だ。
日本はTPP交渉に参加するべきでない。
昨日付ブログ記事、メルマガ記事に記述したように、
米国の最重要ターゲットは次の三つだ。
1.医療・薬品・医療機器・医療保険
2.各種共済制度
3.農業
日本の国民にとっては、これ以外に日本国民の生命、健康を守る
ための各種規制、基準が取り払われることが重大な問題だ。
BSE、残留農薬、遺伝子組み換え食品、排ガス、などに関する
諸規制は国民の生命、健康に直結する重要問題だ。
国家主権の問題でもあり、これらの諸規制が外国資本の意思によって
改変されることは許されない。
自民党公約には「国民皆保険制度を守る」ことが示されているが、
守らねばならないのは、
「名目的な皆保険制度」
ではなく、
「だれでも、いつでも、どこでも、十分な医療を受けることについての
国民皆保険制度」
である。医療の自由化は、この部分での日本の優良制度を必ず
破壊することになるだろう。
さらに、ISD条項を受け入れることは、平成版の治外法権制度の
確立という重大な意味を持つ。
安倍晋三氏は国会答弁でも、「聖域なき関税撤廃を前提にする限り
TPP交渉に参加しない」の一点張りだ。
これは、TPP交渉に参加するための口実であるとしか見えない。
自民党の反TPP議連は、重要品目として、コメ、牛肉、乳製品、
砂糖、小麦の五品目をあげている。
「聖域なき関税撤廃」の除外項目として、最低この五品目が
入れられなければならない。
しかし、安倍晋三氏はこの点ではっきりとした姿勢を示さない。
示さないのは、これらの五品目でさえ、例外品目として取り扱う
ことを獲得できないと考えているからであろう。
それにもかかわらずTPP交渉に参加するというのは、
国民に対する背信である。
結局、例外品目が「ゼロではない」ということだけで、
TPP交渉に参加する腹づもりなのだと思われる。
安倍氏がこの行動を取るのは、米国によく思われたいからなのだろう。
日本では、政権が米国の命令、指令に隷属すると、圧倒的に有利な
環境を得ることができる。
つまり、首相自身の個人的な利益のためには、米国の命令に隷属する
ことが合理的な行動になる。
しかし、米国に隷属する姿勢に基く政権運営が、日本国民に巨大な
不利益を与える。日本の国益に多大の不利益を与える。
この意味で政治家の選択は二者択一だ。
自らの不利益を覚悟しても国民の利益、国の利益を優先するか。
それとも、
自らの利益を優先して、国民の利益、国の利益を犠牲にするか。
真の愛国者、真の為政者は前者の道を選ぶ。
TPPの内容を精査すれば、国と国民のためにはTPPに参加
すべきでないことは明らかだ。
安倍氏がTPP交渉に参加しないことを決断できるかどうかが
注目点だ。安倍氏が愛国者でないことが示されないことを強く願う。
日銀人事が大詰めを迎えている。
日銀総裁、副総裁の要件は、
1.金融政策の専門家であること
2.大蔵・財務省出身者でないこと
3.中央銀行の独立性を守り抜けること
の三つだ。もちろん、それ以前に「売国者でないこと」は必須だ。
大蔵、財務出身者を排除すべき理由はただひとつ。
日銀の責務と財務省の利害が相反するからだ。
財務省は激しいインフレで利得を得る。財務省出身者は日銀でも
財務省の利害に基づいて行動する「蓋然性」が高い。
したがって、ルールとして、財務省出身者を排除することを定めて
おくべきだ。
例外はあるかも知れないが、国の制度としては安全策を取るべきだ。
「みんなの党」がおかしなことを言っている。
岩田一政氏が2006年3月と7月の日銀による量的緩和解除と
ゼロ金利解除に関わったから、日銀総裁にふさわしくないと言っている。
その一方で、みんなの党は竹中平蔵氏を日銀総裁の候補者の一人に
挙げている。
本質を何も理解していない。
2006年に日銀が量的金融緩和を解除し、ゼロ金利を解除したこと
はまったく間違っていない。
消費者物価上昇率は2002年から2008年にかけて、着実に
上昇傾向を示した。
また、量的緩和解除、ゼロ金利解除を行っても、経済成長率は低下せず、
株価も下落しなかった。
その後に情勢が変わったのは、2008年後半以降に、
サブプライム金融危機を契機とする世界的な大不況が到来したからだ。
そのために株価が急落し、景気が急降下し、物価上昇率が再下落した。
2006年の金融政策決定は何も間違っていない。
これに対して、2000年8月にゼロ金利政策を解除したのは
間違っていた。
消費者物価上昇率は1999年からマイナスに転じていた。
日銀のゼロ金利解除を契機に株価は急落し、景気も急降下した。
物価上昇率は下落したままだった。
このゼロ金利解除を積極推進したのが竹中平蔵氏だった。
したがって、竹中平蔵氏の日銀幹部への登用に反対し、岩田一政氏の
登用には反対しないというのが、金融政策を本当によく理解している者
の見解である。
竹中平蔵氏は2000年に完全に間違った政策主張を示している
のである。
すでに多くの名前が挙げられているが、上記した三条件を満たす人を
選ばねばならない。
今後の日本で意図的な「インフレ誘導政策」が実行される可能性が
生まれている。
この点を踏まえると、大蔵省、財務省の出身者を起用することを、
制度として禁止するべきだ。リスクが大きすぎる。
しかし、安倍氏は財務省出身者を日銀幹部に起用する可能性が高い。
それは、安倍政権が半分以上、財務政権であるからだ。
官僚が支配する日本を打破するというのは、具体的に言えば、
財務省支配構造を壊すことだ。
財務省はいま、安倍政権が誕生して、新しい財務王国を再建しようと
沸き立っている。
日本郵政の最高ポストを財務指定席とし、
新たに日本取引所CEOの指定席化を狙っている。
公取委員長ポストも握って離さない。
さらに、日銀幹部ポストの奪還をすでに皮算用に入れている。
結局、「シロアリ退治」どころか、「シロアリ増殖」に転じて
しまっている。
名前の挙がっている学者では、岩田一政氏が消去法的には
もっとも無難である。
竹中平蔵氏は金融政策の判断力が乏しく、かつ、国益に反する
行動を取る可能性が極めて高い。もっとも不適任な人材であると言える。
伊藤隆敏氏は財務省との関係が深すぎる。
財務省寄りの政策を取るリスクが大きい。
岩田規久男氏は、もっともラジカルな金融緩和論者である。
脱デフレをはるかに超えて、ハイパーインフレを招きかねない。
武藤敏郎氏、黒田東彦氏、渡辺博史氏などは、財務、大蔵出身者であり、
除外して考えるべきだ。
中原伸之氏は金融政策の専門家でなく、ハイパーインフレを引き起こす
リスクが大きい。
岩田一政氏と日銀出身の副総裁二人、あるいは、岩田一政氏と日銀出身者、
そして植田和男氏を起用するのが、いま名前のあがっている人々の
なかでは無難であると思われる。
本来は、白川方明氏の再任がもっとも適切な人事である。
我々が知っておかねばならないことは、現在の円ドルレート、
円ユーロレートが、すでに「円高」ではなく「円安」ゾーンに入って
いることだ。
それでも、円の金利は低く、円で資金調達してドルで運用すれば、
金利差と為替差益の両方で利益が上がる。
この資金移動でドルがますます上がる傾向を持つことになる。
問題は、為替レートの水準が「円安ゾーン」にあると、いずれかの時点で
為替変動が逆転する可能性が高いことだ。
そのときに、急激な円高が生じる。
金融市場では大きな波乱が広がることになるだろう。
順序としては、その前に日本金利が跳ね上がるのだろうか。
さらに、日銀の独立性を低下させ、通貨価値維持という日銀の本分を
重視しない人物に日銀の運営を任せることになれば、インフレに本当に
火がついてしまうかも知れない。
そのときは、円安が続くかもしれないが、このときにはすでに
「悪い円安」になっているはずだ。
政権発足前後に円安・株高が進行したことで、安倍氏が自信過剰に
陥っていることが危惧される。
「好事魔多し」である。
自戒が求められる。
TPPについても、国内の真摯な訴えにしっかりと耳を貸さずに、
日米首脳会談での手土産にばかり気を取られて、交渉参加に前向きな
考えを表明すれば、帰国後の混乱は避けられないだろう。
安倍氏が提唱する追加金融緩和策の真価は、3月19日の新体制発足後
に問われることになる。
目を見張るほどの追加金融緩和政策が示されなければ市場は納得しない
だろう。
この環境によって、「行き過ぎた金融緩和政策」が実行されてしまう
リスクが浮上する。
せっかく好調な出足を示すことができたのであるから、ここはむしろ、
一歩引き下がって、謙虚に全体を再点検するべきであると私は思う。
安倍政権がすべての重要事項に抜かりなく目配りをして、
ものごとの本質、最重要のポイントを押さえて行けば、大きな成果を
上げるチャンスは存在すると思う。
しかし、ごく一部の人の意見だけを鵜呑みにして、自戒と自制を忘れて
暴走傾向を示すなら、好循環の崩壊も遠くはなくなると思われる。
TPPと日銀幹部人事は、国の命運を左右する重大事案である。
このことを踏まえた、奥行きの深い、偏りのない、バランスのとれた
政策運営が強く求められている。