RCEP vs TPP

RCEP vs TPP

http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/opinion/201211/2012-11-5.html

富士通総研 2012年11月28日

2012年11月20日にカンボジアで開催された東アジアサミットで、アジアを束ねた地域包
括経済連携(RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership)の交渉開始が宣
言された。この出来事は日本の成長戦略に大きなインパクトを与えるにも関わらず、日
本の総選挙における政治家やメディアの議論は専ら環太平洋連携協定(TPP: Trans-Pa
cific Partnership)に集中している。日本国内ではTPPに関しては情報が錯綜しており
、国内意見も二分されたままであるのに対して、RCEPに関して情報は少ないが、反対意
見はあまり聞かれない。米国が主導するTPPでは、例外なき自由化のアプローチが日本
社会を混乱させてしまったが、ASEANが主導するRCEPでは、漸進的自由化というアジア
的アプローチになるだろうと見て、日本社会に安心感を与えているのかもしれない。

実際、RCEPが急速に台頭してきているのも、アジアでTPPに対する様々な懸念が生じて
いるからである。

1. 周辺化を懸念するASEAN

比較的に規模の小さい国々からなるASEANは、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を1992年に締
結し、段階的な貿易自由化を行った。2007年には2015年にASEAN経済共同体(ASEAN Eco
nomic Community:AEC)を目指す合意文章をも採択した。対外的に、中国(2002年11月
)、韓国(2007年6月)、日本(2008年12月)、インド(2010年1月)、オーストラリア
・ニュージーランド(2010年1月)と、それぞれFTAを締結し、発効させている。つまり
、ASEANは、ASEAN地域を軸とするアジア大のFTAネットワーク(ASEAN+1FTA)を構築し
たのである。相手国の間で締結しているFTAがなお少ない現状を考えれば、東アジア経
済統合において、ASEANは事実上、中核的な位置を占めている。ASEANがアジア地域の主
導権を取れたのは、アジア経済統合における日中の主導権争いを避けるため、ASEANを
立たせる配慮や、安定した経済成長で魅力が増してきたからと言えよう。

ASEANは、一部の加盟国によるTPP参加の動きが地域の結束を弱める方向に作用すると懸
念していた。さらに、米国によるTPP推進は、アジア経済統合の主導権が取られて、自
身は周辺化されてしまうのではないかと、ASEANは弱体化の懸念を増幅させている。実
際、ASEAN10のうち、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシアの4か国はTPPメ
ンバーになっており、米国の勧誘でタイもTPP参加の意向を表明した。ASEAN事務局や域
内大国であるインドネシアは、TPPでASEANが真二つに割れることに大きな懸念を抱き始
めた。本来なら、ASEANは1つの地域としてTPPに参加する選択も可能だと思われるが、T
PPが要求する「例外なき自由化」はASEAN諸国を二分させてしまった。インドネシアや
カンボジア、ラオス、ミャンマーなど、開発の遅れたメンバーはTPPのアプローチ方法
には賛同しなかったのである。また、タイとフィリピンにも、必ずしも主体的にTPPに
参加する態度は見られなかった。さらに、米国によるTPPの推進に加え、日中韓FTAに関
して交渉に入る準備が整いつつあることも、ASEANのRCEP形成の提起を急がせたと考え
られた。

2. RCEPの提起

域内の結束力が拡散してしまうと恐れたASEANは、中国が提案したASEAN+3(EAFTA:Eas
t Asia FTA)と日本が提案したASEAN+6(CEPEA:Comprehensive Economic Partnership
in East Asia)の間で取ってきた中庸な立場を改め、これまで築き上げてきた5つのAS
EAN+1FTAを束ねさせて自ら主導のRCEPを提起した。

【図表1】RCEPがカバーする地域(概念図)

実際、RCEPと同じ地域(ASEAN+6)をカバーする経済統合の構想、すなわちCEPEAは、20
06年に日本によって提起された。当時、CEPEAはEAFTAに対抗するためと言われ、「経済
政治両面で日本の影響力を維持・強化」しようとするものであったが、2010年頃からCE
PEAとEAFTAを統合していこうとする動きもあった。その後、米国によるTPP推進が加速
され、アジア経済統合について中国はTPPを警戒し、これまで以上にアジア域内での経
済統合を加速させようとする姿勢を見せているが、日本の議論がTPPに傾いたため、CEP
EAの推進力が急速に弱くなってしまった。したがって、日本の態度変化もASEANによるR
CEP推進を加速させた側面もあった。つまり、ASEANによるRCEP推進は、日本をアジア地
域統合に引き付けるためであるとも考えられる。

さらに、ASEANを軸に、5つの「ASEAN+1FTA」が結ばれているが、関税削減や原産地ルー
ルなど、多様な自由化ルールが内包されているので、実際の運用上複雑で効率が悪いと
いう現場の声も多く聞かれる。むしろ、5つの「ASEAN+1FTA」を束ねてルールが統一さ
れた統合体の方が効率的であるという思惑がASEANにあると推測される。

このように、大国の狭間で中庸の態度を取ってきたASEANは、TPPを警戒しながらCEPEA
とEAFTAの流れをうまく汲み上げ、アジア経済統合の主導権を握り、2011年11月に開催
された東アジア首脳会議(EAS)でRCEPを提案し、2012年11月に開催されたEASでRCEP交
渉開始を合意させたのである。

ただし、ASEANが狙うとおりにRCEP交渉を運ばせたのは、世界経済規模第2位と第3位の
中国と日本のサポートと深く関わっている。特に、中国のサポートは極めて積極的であ
る。

【図表2】RCEP対象メンバーのGDPシェア

3. RCEPで「一石三鳥」を狙う中国

筆者は、オピニオン「TPPに対する中国の懸念は杞憂に過ぎないか」(2011年9月21日)
で述べたように、アジア域内統合を積極的に推進している中国も、米国によるTPP推進
によって「東アジア経済統合に対する遠心力が生まれるのではないか」というASEANの
抱く懸念を共有している。

さらに、中国の専門家や世論では、「中国排除の目的を達成するために中国がTPPに参
加し難いような条項を数多く設けようとしている」という声がよく聞かれる。実際、米
国のメディアも、TPPはアジア地域における中国の経済的影響力に対抗するために用い
られると示唆しており、オバマ大統領も選挙の演説で中国に国際貿易ルールを遵守する
プレシャーを与えるためにTPPを推進すると言明している。これらの言動は中国の懸念
を深めさせているに違いなく、中国の悩みは一層深まるだろう。

したがって、ASEANによるRCEPの推進は、中国にとって「渡りに船」となり、ASEANとと
もにRCEPの流れを加速させるのは、中国にとって自然の選択となろう。ASEAN主導とな
れば、米国と直接対決する状況も解消できるし、ASEAN主導であれば、米国からの横槍
も行われにくくなると中国は戦略を練っているかもしれない。実際、2012年11月に開催
されたEASで、中国の温家宝首相がASEAN主導のRCEPを全面的に支持し、交渉に積極的に
参加すると表明したのは、そのような背景があったからであろう。

さらに、RCEPには、豪州、日本、インドも加わっている。中国は、これらの国々とニか
国間FTAを結ぶようアプローチしていたが、実を結ぶには至っていない。ASEAN主導でこ
れらの国々とFTA関係に入るのは、むしろ中国の狙っているところであり、RCEPで「一
網打尽」の効果が期待されているかもしれない。

もっとも、「参加国の特殊かつ多様な事情を考慮しながら」推進するというRCEPを交渉
する基本原則(Guiding Principles and Objectives for Negotiating the Regional C
omprehensive Economic Partnership)は、アジア経済統合推進における中国の主張と
合致しており、参加しやすい環境にもある。

このように、RCEPを通じて中国は「一石三鳥」の効果を狙えるため、ASEANを積極的に
支え、RCEP形成にとって縁の下の力持ちとも言えよう。

4. RCEP vs TPP

RCEPとTPPとも交渉段階にあり、参加メンバーや自由化の度合いなどについて妥協の結
果を見なければならないが、予測を含めてまとめると、【図表3】に示すように、両枠
組みは伯仲しているように見える。

【図表3】RCEPとTPPの概況

ジェトロのヒアリングによると、インドネシアの通商政策担当幹部は、「RCEPはTPPに
対抗するものとなるだろう」と言及しており、また、ウォールストリートジャーナル誌
は、RCEPの台頭が、「米国主導のTPPプロセスをスローダウンさせ、引いては破壊させ
る可能性がある」と警鐘を鳴らしている。特に、RCEPには米国が含まれていないのに対
して、TPPには中国が含まれていないため、特にメディアでは、「RCEP vs TPP」を、「
中国 vs 米国」に写して報道されている。しかし、米中両国の通商担当大臣はともに、
RCEPとTPPは補完的な枠組みであり、両方とも、太平洋地域全体の経済統合に寄与する
とコメントしている。

上述したように、RCEPはTPPに刺激された側面が大きく、競合する側面も否めない。む
しろ、アジア・太平洋地域は、両枠組みとも前進し、APECで目指している環太平洋地域
経済統合が実現されるのを期待したいものである。

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