紅林進です。
私も関わっています社会主義理論学会の第24回研究集会が
「未来社会と社会主義を考える」を統一テーマに、4月29日に
専修大学で開催され、聴濤弘さん(社会主義問題研究家・元
参議院議員)が「福祉国家と社会主義」と題して、藤岡惇さん
(立命館大学教授)が「大地への回帰を軸にした社会」と題して
ご報告され、34名の参加の下、興味深い報告と活発な質疑が
展開されましたが、その報告者の一人の聴濤弘さんは5月4日
(土)に大阪でも下記の会で報告をされるとのとこです。
大阪や関西で、聴濤弘さんのご報告を聴きたい方は、下記の
会に参加されてみたらいかがでしょうか。
以下、[civilsocietyforum21] のMLより転載させていただきます。
(以下転載)
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市民社会フォーラム第102回例会
資本主義のオルタナティブの可能性
日 時 5月4日(土)14:00~17:00
会 場 シアターセブン BOXⅠ(大阪市・十三)
講 師 聽濤弘(きくなみ ひろし)さん
詳細 http://civilesociety.jugem.jp/?eid=20735
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の、レジメをいただいたので、事前に紹介します。
ぜひお越しください。
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「資本主義のオルタナティブの可能性」(レジュメ)
参考文献:拙著『マルクス主義と福祉国家』(大月書店)
2013年5月4日 聽濤 弘
はじめに―――安倍強権政治に抗して護憲の共同を
安倍政権の改憲の狙い。
・9条改憲「国防軍」創設、「戦争する国」にする。9条2項の全面改訂。
・前文も全面改訂。
・それだけではない。日本のあり方を根本から変える。
・「公益」、「公の秩序」概念を基礎とする。
・「基本的人権」は認めるが国民 は「自由及び権利には責任及び義務が伴う
ことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」(12条)。現憲法
にこの規定なし。
「公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う」とのみ規定。
・「幸福追求権」は認めるが「公益及び公の秩序に反しないかぎり」(13条)。
現憲法「公共の福祉に反しないかぎり」としか規定していない。
・「公共の福祉」がみな削除されている。「公共の福祉」とは個々人の利益・
権利が相互に矛盾した場合の「基本的人権の総体」を意味する。憲法学者
の一致した見解(拙著48ページ参照のこと)。
・「結社の自由」についても。
・「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを
目的として結社をすることは、認められない」(21条 2を新設)。現憲法になし。
・「政党」条項を新設:政党活動の自由は保障するが「政党に関する事項は、
法律で定める」(62条の3)。現憲法になし。
・戦前国家への回帰。護憲以外、国民の選択肢なし。
・その意思、選挙に反映させなければならない。
・「政治のアルテ」(芸術)の活用(グラムシ)。レーニンの選挙戦。あの
ツアーリ・ロシア国会選挙で左派が絶対多数(200議席)を獲得。
一.時代的思想の転機を読む
・加藤典洋『ふたつの講演』(岩波書店 2013年1月)を読む。
「戦後民主主義」否定の立場から「大きな物語」の必要へ―――「個」から
未来構想の必要性へ。
・雑誌『世界』(2013年5月号)を読む。
リベラル派には「対抗軸」がなかった。「世界観」がなかった。「保守か革新か」、
「改憲か護憲か」、「安保か反安保か」、「資本主義か社会主義か」なにも
無かった(「お任せ主義を超えていま“リベラル”を獲得し直す」 山口二郎対
寺島実郎)。
「一人ひとりの市民の強靭な思想をつくりだすしかない。その討論を」(寺島)。
・「貧困を生み出す構造は現在の資本主義市場経済下では容易に解決できない」
(内橋克人。湯浅誠との対談、同誌)。「共生の社会」(内橋氏の主張)。
二、時代の本質を掴む―――資本主義の危機
・資本主義経済の三つの危機:「金融・財政の危機」、「福祉の危機」、「経済
成長の危機」(注1)。とくに「経済成長の危機」について
①現実の問題として「アベノミックス」の「三本目の矢」、オランド政権の「成長戦略」
は成功しているのか。デビィト・ハーヴェイ「経験的にも伝統的にも資本主義が十分
に機能する上で必要なものは、・・・三%成長が最低ランイン」(『「資本の“謎”』
339ページ)。イノベーションの連続は可能なのか。
②理論的には過剰資本の投資先がない。金融投機にまわる。グローバル化
(アフリカがある式思考―――新興国とのフラット化。例UNILOの世界統一賃金
制導入(注2)。
・レーニン「絶対に出口のない危機はない」(注3)。反動的打開あり。
・安倍政権の「危機突破内閣」の本質:対内的・対外的要因。憲法改正の意図。
・“なんとなく平和”、“なんとなく経済成長”、“なんとなく暮らせる”時代の終焉。
・「全般的危機論」の誤りの根本は「変革の主体」形成の遅れの無視。
・資本主義の対抗軸の明確な理論を!―――社会主義論の必要性。
・しかしいま社会主義を実践課題にすることは不可能。
・中間目標の設定(第一の対抗軸)とその発展としての新社会(第二の対抗軸)
の構想
・「福祉国家」(社会保障と完全雇用)をキーワードとして考える。
・ 理由:「福祉」は①「生活一般」として普遍的意味をもつ。②日本の政治・社会
変革の契機となりうる。③多数を結集しえる。
三、マルクス主義と福祉国家
・「福祉国家」の原点「エルフルト綱領」(1891年)。エンゲルス指導、カウツキー
とベルンシュタインが執筆。ドナルド・サスーンも認めている(注1)。
・現実の運動と福祉国家の成立も(デンマーク社会民主党政権誕生(1924年)、
スエーデン社会民主党政権誕生(1932年))(注2)。
・コミンテルンが攻撃(注3)。「シャミン」と蔑視。共産主義者と社会民主主義者の
深い国際的対立。日本の特殊性。しかし保守にたいする左翼の「受け皿」の形成
の障害。
四、「中間目標」としての国家像は何か
・資本主義の歴史で福祉国家が国民生活の面で資本主義の一発展段階をつくった。
・いまその破壊進行。防衛・再建・拡大が当然の課題。
・どうやるか:「ゼロ成長」(経済成長至上主義の否定)のもとでしかできない。
・従来の「福祉国家」は経済成長が前提条件――その意味で「新しい福祉国家」。
・財源は? 現代資本主義の特徴。巨大多国籍企業化と金融資本主義化した
資本主義。
そこからとってくる以外ない。
・ 具体的には? 賃上げ等々。同時に金融取引税、為替取引税、ヘッジファンド、
タックス・ヘイブンの規制・禁止。金持ちの利用ではない。大金融機関、大企業が
利用。(志賀桜『タックス・ヘイブン』(岩波新書 2013年3月)ほか(注1)。
・政治がよくなるまで待てない―――市民の自力組織の意義
・福祉:介護その他のNPO、「労働者協同組合」(注2)協同含む各種組合、
社会的起業、コミュニティー、「地域循環型社会」、「共生と自治」等々。
・これは現代の特徴
・A(大企業の規制)とB(市民的運動)の結合。
・運動の理念は憲法25条、第13条―――生存権を初めとする基本的人権。
・運動の経済的内容。社会のなかに非資本主義的要素を作っていく―――市場
経済の計画的規制。
・こうして第一の対抗軸としての「新しい」福祉国家を形成。
・このこと自体、難事業。
五、「実現可能な社会主義」を提起することは間違いか
・第一の対抗軸は「自己循環型資本主義」をつくることではない(できない)。
・「国民と大企業との共存社会」はありえない(ヨーロッパを見よ)。
・「労働者・消費者永続論」はありえない。
・カジノ的金融資本主義をやめモノ作りの資本主義にもどしても資本主義が
「健全化」するわけではない。資本は本質的に投機性をもつ。
・「権利」だけで福祉が完全に実現できるものではない。
・マルクス「権利は、社会の経済構造およびそれによって制約される文化の発展
より高度であることはけっしてできない」(『ゴータ綱領批判』)。
・ベーシックインカム論でも(村岡到氏の観点 注1)。
・マルクスは福祉(生存権)を完全に実現するには“社会的総生産物から翌年の
生産に必要なものを控除したあと、分配にあたって福祉部門をあらかじめ控除
できる経済システム”を構想(同前)。経済的社会構成体と無関係ではない。
・ここから「完全福祉国家」としての「社会主義」を第二の対抗軸として提唱する。
もちろん社会主義の一構成要素として。これは実現可能である(注2)。
・「マルクスは資本主義から社会主義への移行は数世紀かかる(『フランスに
おける内乱第一草稿』。(注3)、よってこのような「壮大な」展望からすれば
社会主義の「青写真」を描くことは誤りである」とする説あり。
・しかし、①「コンミューン形態の政治組織によって一挙に巨大な前進ができる」、
②マルクス自身「青写真」を描いた(注4)。
結論:改良・改革・変革の弁証法。その過程での「知的道徳的優位性」を発揮
しなければ社会変革はできない(グラムシ)。
参考文献
二、(注1)経済理論学会『経済理論』(2013年1月)特集「ヨーロッパ資本主義
モデルの行方」(イギリス、スエーデン、デンマーク、ドイツ)。
水野和夫『君はグローバリゼーションの真実を見たか』、『世界経済の大潮流』。
(注2) 「朝日新聞」2013・5・23)。
(注3)「共産主義インターナショナル第二回大会」全集31巻 219ページ)。
三、(注1)ドナルド・サスーン「ドイツ社会民主党のエルフルト綱領(1891年)で
は、共通の中期的目標がはっきりと定められ、政治的民主主義(参政権)の拡大、
福祉国家(医療、教育、社会保障、年金)の確立、そして労働市場の規制(八時間
労働制)のために闘うことが決められた」(『EU時代の到来』 拙著 47ページ引用)。
(注2)拙著 74――81ページ。デンマークについては藤岡惇氏「下からの目線
の『平和な社会』の創りかた」(季刊『Plan B』41号 2013.3号に詳しい)。
(注3)拙著 81――83ページ 『コミンテルン資料集』第五巻)。
四、(注1)ニコラス・シャンクソン『タックスヘイブンの闇』(朝日新聞出版 2012年)
(注2)協同総合研究所『協同の発見』2013年1/2号)「グローバル経済危機の
なかで資本主義社会が転換期にきたことを確認した。新しい社会の基礎となるの
はなにか、『協同』がキーワード」。
五、(注1)村岡到『ベーシックインカムで大転換』
(注2)A・ブズガーリン『スターリンとソ連崩壊』;“なぜソ連は70年間もったか”。
抑圧政治の強固さだけではない。「全般的社会保障」(年金、医療、教育、住宅、
雇用等)の確立にある。
(注3)「現在の『資本と土地所有の自然諸法則の自然発生的な作用』を『自由
な協同労働の社会経済の諸法則の自然発生的な作用』とおきかえることは」、
農奴制から資本制に移行するほど「長い過程をつうじはじめて可能になる」
(全集17巻 518ページ)。
(注4)「青写真」問題 拙著 補論「マルクスと社会主義の『青写真』問題」。
補足:エンゲルスからコンラッド・シュミットへの手紙
「“社会主義社会”は不断の変化と進歩をたどるものとしてではなく、
不動の、それっきり変らないもの、したがってまた、それっきり変らない分配方法
をもつべきだと思われているのです。だが、分別をもってやれることは、ただ(一)、
はじめに採用する分配方法を発見しようと試みること、(二)、それ以後の発展の
たどる一般的傾向を見だそうとつとめること、だけです。しかし私は、討論をつうじて、
この点にふれることばをひとつも見つけません」(全集37巻 380ページ)。
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