(集団的自衛権 読み解く)岐路、突き進む首相

2014年3月3日05時00分

 安倍晋三首相は、憲法解釈の変更で集団的自衛権を行使できるようにすることを目指している。時の内閣の判断で憲法解釈を変え、自衛隊の海外での武力行使を可能にするものだ。日本の安全をどう守るかを超えて、戦後日本の国家としてのあり方の根幹が問われる問題だ。▼1面参照

■2001年 安保専門家が「照準」

「最高の責任者は私です」。2月12日の衆院予算委員会。安倍は、民主党議員が憲法解釈の変更が許されるのかを内閣法制局に問い続ける質問にいらだっているように見えた。やっと指名を受けると、自ら強い口調で言い切った。安倍は20日、「今までの解釈のままでいいのか」とも発言。解釈変更を閣議決定で決める意向も示した。

かつて安倍は、行使を認めない政府見解をこう批判していた。「『禁治産者』は財産に権利はあるが、行使できない。我が国が禁治産者と宣言するような極めて恥ずかしい見解だ」

大きな影響を受けているのが、祖父で首相を務めた岸信介だ。岸は日本での内乱を米軍が鎮圧することを許した旧日米安全保障条約を「不平等だ」と考え、安保改定に踏み切った。集団的自衛権の行使が実現できれば、日本も米国を守ることができる。安倍にすれば、日米同盟がより対等な関係となり、真の「独立国家」へと一歩近づくというわけだ。

1991年の湾岸戦争と北朝鮮の核開発疑惑をめぐる93~94年の朝鮮半島危機。官房副長官という政権中枢で二つの危機にかかわった石原信雄は振り返る。「『集団的自衛権の行使にあたる』という法制局の9条解釈が壁になってほとんどの協力はできなかった」

安倍のめざす行使実現を長年後押ししたのが、90年代の対米外交で苦い経験を味わった人たちだ。外交安保に携わった彼らにとって安倍は「金の卵」だった。

01年初夏。元駐タイ大使の岡崎久彦は、集団的自衛権研究の第一人者、佐瀬昌盛の自宅に電話した。元防大教授の佐瀬は当時、新書「集団的自衛権」を出版したばかり。「あなたの本で政治家教育をしよう」。岡崎は佐瀬に提案した。「どうやるんだ」と尋ねる佐瀬に岡崎は「各個撃破だ」と答えた。「誰からやるのか」。岡崎は衆院当選3回のホープの名を即答した。「安倍晋三だ。あれは、ぶれない」

■1次政権 立ちはだかった法制局

安倍は2006年、首相に上り詰めた。安倍に近い外務省幹部は、当時の内閣法制局長官宮崎礼壹(れいいち)に言い放った。「あなたたちの間違った解釈をどんなに我慢したか。やっとここまで来た」。行使容認を求める人々にとって、「憲法の番人」と呼ばれ、行使を認めてこなかった法制局は長らく「敵」だった。

首相になった安倍は、宮崎をたびたび官邸に呼び出した。話題は集団的自衛権。安倍は憲法解釈の変更を求めたが、宮崎は「理屈が通りません」と突っぱねた。安倍は「なるほどなあ」と応じたものの、納得した様子ではなかった。

「国会答弁で解釈を変更したい」。宮崎とのやりとりに業を煮やした安倍は、国会で解釈変更を宣言する考えを漏らした。だが事務方のトップの官房副長官、的場順三は止めた。「足場を固めてからの方がいい」

的場は安倍が行使容認に踏み切れば、宮崎が抗議の意味で辞任する意向を聞いていた。そうなれば、閣僚の失言や不祥事が続いていた第1次政権の致命傷となりかねないと考えた。

安倍は的場の助言を受け入れる一方、行使容認に向けて有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)を準備。メンバーに岡崎や佐瀬らを指名した。だが、ここでも異論が出た。

07年4月、安倍は防衛省出身の官房副長官補の柳沢協二を呼び出した。安保法制懇の事務方の取りまとめ役を指示するためだった。安倍は、集団的自衛権の行使が必要かどうか、安保法制懇に諮問する具体例を示した。米艦船に対する攻撃に自衛隊が応戦できるか。安倍に柳沢は「個別的自衛権でもやれます」。米国に向かう弾道ミサイルを撃ち落とせるかとの問いにも「そもそも今の技術では物理的に撃ち落とせません」。防衛の現場の観点から不要論を唱える柳沢に安倍は言った。「ミサイルは将来可能になった時の話で良いんだ」

柳沢はいまも「米国にミサイルを撃ち込めば、米国から報復を受け、その国は壊滅する。どこの国がミサイルを撃ち込むのか」と疑問を持つ。安倍が挙げる具体例も「現実的な事態ではない」と指摘する。

結局、安倍自民党は07年の参院選で大敗。安倍は体調の問題もあって法制懇の結論を待たずに退陣した。

■2次政権 容認へ側近重用

昨年6月、官邸を訪ねた岡崎に、安倍は法制局長官に行使に前向きな元外務省国際法局長の小松一郎を据える人事を打ち明けた。50年以上にわたって内部昇格が続く法制局長官人事の慣行を打ち破るものだった。

行使容認のためのスタッフも側近で固めた。

昨年12月に立ち上げた安倍肝いりの国家安全保障会議(日本版NSC)。事務局トップには、元外務事務次官、谷内正太郎を迎えた。谷内は小松と共に、1次政権の安保法制懇で米艦防護などの具体例を作った安倍の「知恵袋」だった。

1次政権後の6年の空白を埋めるように憲法解釈変更に向けた動きを加速させ、強気の国会答弁を重ねる安倍。法制局長官OBの秋山収は「集団的自衛権の行使は9条の範囲を超える」と批判し、こう言う。

「行使を認めれば、憲法解釈を権力者が自由に変える前例になる。憲法には基本的人権の尊重や言論の自由政教分離といった根幹もある。時の政権は、それらも好き勝手に変えたくなる誘惑が出てくる。そこが最も心配だ」

安倍が行使の理由とした米国との関係も微妙だ。

オバマ政権は日本の集団的自衛権行使を基本的に「歓迎する」との立場だ。しかし、昨年末の安倍の靖国神社参拝が影を落とす。安倍の靖国参拝をオバマ米政権は「失望した」と批判。これに対し、安倍側近が「米国の『失望』に失望した」と応酬するなど日米関係はきしんでいる。

オバマ政権は昨年、ワシントンを訪れた韓国政府高官に日本の集団的自衛権行使に理解を求めた。しかし、「安倍首相自身の靖国参拝が隣国との緊張関係をつくりだした」(ベーダー元NSCアジア上級部長)ことで、米国の取り組みも一層困難になっている。

アジア・太平洋担当の次期国防次官補に指名されたデビッド・シーアは2月25日、議会承認のための公聴会で、こう証言した。「国防総省は日米韓の健全で開かれた関係を促している。強固な3カ国関係は北朝鮮の挑戦を抑止するためにも重要だ」

同盟国との安保協力強化を急ぐオバマ政権は、4月の大統領の日韓訪問に向け、もう一度日韓関係の改善に取り組む構えだ。日本がどのタイミングで集団的自衛権の議論を進めるかは、米国にとっても難しい問題になっている。

=敬称略

(蔵前勝久、園田耕司、ワシントン=大島隆)

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コメント:禁治産者の比定は「軍隊を持っていたら使いたい」と言うこと。

手助けを理由に自分で軍隊を動かしたいというのが動機。無智・無恥・無謀・無礼・・・

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