31日に公表された国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による地球温暖化の影響に関する新しい報告書は、このまま温室効果ガスの排出が続くと、世界的な食料不足や生き物の大量絶滅など深刻な未来が待っていることを示した。紛争に発展する可能性にも言及。国際社会に決然とした対策を迫る内容となっている。

「温暖化影響はもはや仮定の話ではない」。温暖化影響を担当する第2作業部会のフィールド共同議長は総会を終えて、横浜市で開かれた会見で述べた。

報告書は、水資源や農作物、生態系など「すべての大陸と海洋で影響が表れている」と指摘。前回の「影響を受けつつある」という表現よりも断定的になった。その上で食料や水、健康など八つを主要なリスク分野として挙げ、影響の深刻化を予測した。内戦など暴力的衝突を増加させ、国家の安全保障政策にも影響を及ぼすという。

世界の平均気温は、18世紀半ばの産業革命前から最近までに約0・6度上昇した。いまのペースで温室効果ガスの排出が続くと、今世紀末にさらに最大4・8度上がると見られている。

そうなると生物種の大絶滅のほか、農産物の減産による世界的な食料不足や、将来的に大幅な海面上昇を引き起こす極地の氷床消失など「深刻かつ不可逆な影響が起こる可能性が高まる」と指摘している。

3月25日に始まった会合では、英文で50ページほどの文書を、110カ国以上からの政府関係者が科学者とともに1文ずつ討議。5日間の日程を徹夜のうえ1日延長して承認にこぎつけた。

温暖化対策の国際交渉をにらんだ攻防もあった。一つは、気温上昇に応じて悪影響のリスクが上がることを説明する図だ。報告書の最終草稿では近年を基点に説明されていたが、途上国からの要望で産業革命前からの目盛りも併記することが決まった。先進国の歴史的な責任を強調したい思惑があったとみられている。逆に、「途上国で適応策を進めるためには毎年700億~1千億ドルが必要」といった数字が、支援が膨れるのを恐れた先進国側の反対意見で削られた。

しかし報告書のメッセージは明確だ。気温上昇が4度を超えるような事態は避けなければならないだけでなく、国際的に合意している2度を超えても広範な地域や分野で適応策がきかないものが増えてくる。

IPCCのパチャウリ議長は「地球上の誰一人として温暖化の影響を受けない人はいない。適応策と温室効果ガスの削減策でリスクは下げられる」と国際社会に行動を促した。(須藤大輔)

 

■報告書が指摘した温暖化影響の八つのリスク

海面上昇や高潮などによる沿岸部での被害

・洪水による大都市部での被害

異常気象による電気や水道などインフラの機能停止

・熱波による特に都市部での死亡や健康被害

・高温や干ばつなどによる食料供給システムの崩壊

水不足や農作物減産による農村部の経済被害

・漁業を支える海洋生態系の損失

・自然の恵みをもたらす陸域や内水生態系の損失