「たった1人の行為がNHKに対する信頼のすべてを崩壊させることもある」「自らの行為の影響や責任の重さは昨日までとは全く違う」

NHKの入局式で籾井勝人会長はそう語り、新人の職員らに自覚を求めた。

1月の就任以来、まさにその自覚を問われてきたのは会長自身である。その言葉は職員や視聴者にどう響いただろう。

2014年度NHK予算案が3月末に国会で承認された。

会長が視聴者への説明責任を果たしたかどうかは、国会承認が一つの目安になる。会長を任命した経営委員会はそんな見解を示してきた。

だが、国会での会長の言動は信頼を取り戻したとは、到底言えないものだった。

「政府が右ということを左というわけにはいかない」「(特定秘密保護法は)通っちゃったんで言ってもしょうがない」

就任会見での政府に寄り添うような発言については国会で、「会見の場で個人的な見解を言ってしまった」と陳謝した。だが、それ以外は「放送法に基づいてやっていく」とメモを棒読みするような答弁を繰り返すばかり。真摯(しんし)な反省は伝わってこなかった。

議員は再三、理事全員に書かせた日付なしの辞表を返すよう促した。強権的な経営手法と財界も疑問視する問題だ。だが会長は「人事権の乱用はしない」と言い張り、拒んだ。

辞表を出させるというのは、それ自体が人を萎縮させる行為である。それをとがめられても改めないトップのもとで、伸び伸びした番組づくりができるのか、健全なジャーナリズム精神は守られるのか。そう心配するのは当然だ。

広く集める受信料でまかなうNHK予算は、与野党の理解を得て承認されるのが原則だ。しかし今回は野党6党が反対し、8年ぶりに全会一致が崩れた。

付帯決議には「役員の言動に厳しい批判が寄せられていることから、信頼の回復に努めること」という注文までついた。異常な形での予算承認だ。

経営委はこれまで会長に2回注意し、さらに「2度も注意せざるを得なかったのは遺憾」との文書を発表した。それらを会長が真剣に受けとめているかどうか、心もとない。

会長の罷免(ひめん)権を持つ監督機関である経営委は、辞表を返還させ、厳しく向き合うべきだ。自らの任命責任を問われることを恐れ、会長を律する手を緩めるようであれば、責務を果たしているとはいえない。