安倍内閣集団的自衛権の行使容認をめざす理由に、海上交通路(シーレーン)の安全確保や朝鮮半島での「有事」を挙げる。具体的にどんなケースで集団的自衛権が行使されたり、検討されたりするのか。安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)での議論や政権幹部らの言葉などから、いま考えられる三つのケースを想定、検証した。▼1面参照

 

■ケース1 ペルシャ湾 戦闘中も機雷除去

20××年、中東のA国は主要各国の経済制裁に対抗するため、原油輸送などの海上交通路(シーレーン)であるペルシャ湾の海峡に機雷を敷設し、海上封鎖をした。米国は同盟国などと多国籍軍を結成。日本には集団的自衛権の行使を求め、機雷除去を要請した。

安倍内閣は昨年10月、集団的自衛権の行使容認に向けた議論を続けている安保法制懇に対し、次のような想定事例を示した。

日本が輸入する原油の大部分が通過する重要な海峡で武力攻撃が発生し、攻撃を仕掛けた国が敷設した機雷で海上交通路が封鎖されれば、原油供給の大部分が止まる。放置すれば、国の存立に影響を与えることにならないか――。

複数の政府関係者によると、安倍内閣集団的自衛権行使の一例として念頭に置くのは、日本の輸入原油量の8割が通過するペルシャ湾・ホルムズ海峡が封鎖されたケースだ。実際、イランは核開発問題などで国際的な緊張が高まるたび、最も狭い場所で幅34キロしかない海峡の封鎖を再三示唆してきた経緯がある。

海上自衛隊は2012年から米海軍がペルシャ湾で行っている「国際掃海訓練」に参加し、掃海能力の高さを示している。仮に湾岸のある国が機雷で海上封鎖をした場合、米国が日本に掃海を求める可能性は十分にあるという。

しかし、機雷を除去することは武力行使にあたる。集団的自衛権の行使を認めない今の憲法解釈では、戦争後も残る機雷を「遺棄物」とみなすことで、日本の海自による除去が可能になる。1991年の湾岸戦争でも日本は停戦後に海自をペルシャ湾に派遣し、イラクの機雷を除去した。

集団的自衛権の行使を認めれば、戦闘中でも日本は機雷を除去できるようになる。ただそれは、戦争に加わることにほかならない。防衛省幹部は「集団的自衛権の行使とは、米国と一緒に他国と戦争をすることだ」と言い切る。

 

■ケース2 朝鮮半島 米艦と一緒に反撃

20××年、北朝鮮は韓国をミサイルなどで攻撃した。韓国は反撃を開始し、両国は戦争状態となった。同盟国の米国も相互防衛条約に基づいて参戦。米国は安全保障条約を結んでいる日本の支援を得るため、韓国と協議。韓国は日本に対し、集団的自衛権の行使を要請してきた。

朝鮮半島が厳しい情勢になったとき、ミサイルが発射されるかもしれないという可能性があるなか、米国の艦艇に対する攻撃を(日本の)自衛艦が阻止できなくていいのか」

安倍首相は2月10日の国会答弁で、朝鮮半島が戦争状態となる「有事」を念頭に、集団的自衛権の行使が必要になると訴えた。

1999年に成立した周辺事態法は、朝鮮半島の有事を想定した米軍への後方支援を定めた。ただ、今の憲法解釈では、自衛隊が他国の戦闘行為に直接関与する「武力行使との一体化」を禁じている。このため同法は「そのまま放置すれば、我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」が起きた場合に限り、現在の憲法解釈の枠内で自衛隊が米軍を後方支援する補給や輸送、医療といった項目を定めた。

安保法制懇の北岡伸一座長代理は周辺事態法では不十分とする理由の一つに、米艦艇への補給が日本の領海内などに限られ、「前線」に近い公海上では原則認められていない点を挙げる。「日本は米艦を助けられないどころか、補給もできない。それでいいのか」

集団的自衛権の行使が認められれば、「武力行使との一体化」を禁じた憲法上の制約は解かれる。自衛隊の艦艇が公海上で米軍艦艇に補給ができるようになるだけでなく、首相が主張するように、米艦が攻撃を受けた際には、近くの自衛艦が一緒に反撃することも可能になる。

では、もし朝鮮半島で戦争が起きた時、日本はどこまで関わることになるのか。安倍内閣は、行使容認に際し、原則として他国の領土・領海・領空には自衛隊を派遣しない考えだ。

しかし、政権内には「戦況次第で韓国から強く求められれば、自衛隊が朝鮮半島に上陸することもあり得る」(政権幹部)と指摘する声もある。自衛隊が出口の見えない地上戦に参戦する可能性は残る。

 

■ケース3 南シナ海 東南アジアへ拡大

20××年、南シナ海の島々の領有権をめぐり、中国と東南アジア諸国との緊張が高まった。安全保障分野で関係強化を深めてきた日本と、ベトナムフィリピンなどの諸国は、有事の際の集団的自衛権の行使も念頭にさらなる防衛協力を進めることで一致した。

集団的自衛権は「自国と密接な関係にある外国」が攻撃を受けた場合に行使される。安倍内閣は行使の対象として、安全保障条約を結んでいる同盟国・米国に加え、隣国で北朝鮮との緊張関係が続く韓国も視野に入れている。

一方、首相周辺や自民党内には行使の対象国を広げようとする考えもある。礒崎陽輔首相補佐官は3月のラジオ番組で行使の対象としてオーストラリアフィリピン、インドを挙げた。

石破茂・党幹事長は3月の講演で「日本にとって米国だけが密接(な関係がある国)ではない。フィリピンマレーシアインドネシアは入ってくる可能性がある」と述べた。

こうした発言の背景には、尖閣諸島をめぐり中国と対立する日本が中国の海洋進出に直面する国々と手を組めば、抑止力になるとの思惑がある。ただ、日本が集団的自衛権の行使対象を広げれば、戦争に加わる可能性が増すのは確実だ。(園田耕司)