集団的自衛権の行使容認を急ぐ安倍首相。政権は、朝鮮半島の有事や日本経済を支える海上交通路(シーレーン)での紛争などが起きれば、米国などから日本に行使の要請がありうると想定し検討を進めている。

しかし安倍晋三首相は最近、国会などで行使の具体例を問われると、こうした事例でなく、主に二つの例の説明を繰り返す。いずれも北朝鮮が弾道ミサイルを発射する想定で、米軍のイージス艦を日本の自衛艦が守る例と、日本のイージス艦が米国を狙うミサイルを撃ち落とすケースだ。

イージスとは、ギリシャ神話の「神の盾」。強力なレーダーを備え、100以上の航空機やミサイルを同時に探知・追跡し、装備する迎撃ミサイルなどで撃ち落とす能力がある。改修型の艦には北朝鮮の「ノドン」(射程約1300キロ)のような弾道ミサイルを迎え撃つ能力(弾道ミサイル防衛=BMD)もある。

 

■米への攻撃、自衛艦が迎撃

3月14日の参院予算委員会。首相は、米イージス艦が日本への弾道ミサイルを公海上で警戒している状況を一例に挙げ、集団的自衛権の行使の必要性を説いた。「米国のイージス艦が(警戒)機能を上空に設定していることで、自分の身の回りの防衛力がおろそかになる。イージス艦に(敵から対艦)ミサイルが発射された場合、近くの(海上自衛隊の)イージス艦が撃ち落とさなくていいのか」

高機能の米イージス艦を日本の自衛艦が守るとの想定がなぜ成り立つのか。

100キロ超の高度を飛ぶ弾道ミサイルを追跡する際、イージス艦は本来なら全方向を監視できるレーダーの照射対象をサーチライトのように一方向に絞る。

このため自らの艦周辺の警戒が手薄になり、敵の航空機や潜水艦からの攻撃については友軍の艦に対処してもらう必要がある。自衛艦の元艦長は「日本を狙う弾道ミサイルは絶対に探知しないといけない。イージス艦はBMDに集中した方が確実」と語る。

首相答弁で出たもう一つの集団的自衛権行使の想定は、日本のイージス艦が米国を狙った弾道ミサイルに対処するケースだ。2月10日の衆院予算委では「日本は将来技術的に可能となった場合、グアム、ハワイに向かうミサイルを撃ち落とす能力があるのに、撃ち落とせないのか」と主張した。

イージス艦は弾道ミサイルを追跡しながら「SM3」と呼ばれる迎撃ミサイルを発射する。SM3は赤外線で弾道ミサイルを追尾し、大気圏外で体当たりして破壊する。日本は自前のイージス艦などBMDシステムの整備に1兆円超を投じてきた。日本のほぼ全域に届くノドンについては「迎撃率は8~9割」(防衛省幹部)と自負する。

日米は現在、SM3の改良型を開発している。2月の首相答弁は、迎撃ミサイルの能力が高まれば、日本だけでなく同盟国の米国も守るのが集団的自衛権の意義だと強調したものだ。

 

■脅威を強調、理解得る狙い

弾道ミサイルの攻撃だけが集団的自衛権の行使例ではないと想定しているのに、北朝鮮の脅威を強調する首相。その姿勢からは、憲法解釈変更の閣議決定を急ぐために「北朝鮮という分かりやすい例を出すことで、国民の理解を得る」(政府高官)との狙いがうかがえる。

首相が挙げる二つのケースはいずれも、日本が米国に肩を並べる能力を持つことを前提にしている。

米海軍海上自衛隊はすでに、多くの装備や戦術を共通化。双方の艦隊情報を瞬時に共有する通信システム「リンク16」で結ばれ、海自幹部は「海自は米海軍と世界で一番うまく共同作戦できる」と語る。首相は持論である「対等な同盟関係」の実現に向け、集団的自衛権の行使容認をアピールしやすい例を選んだ、とも言えそうだ。

首相答弁の下敷きになっているのは、私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が2008年にまとめた報告書だ。法制懇は近く新たな報告書をまとめるが、首相が今も強調する2類型はそこでも、行使容認を支える「主要な想定例」として位置づけられそうだ。ただ首相答弁の背景や実態を検証すると様々な問題点があり、その点は次回で読み解く。(其山史晃、谷田邦一、鶴岡正寛)