2012年公開の米映画「バトルシップ」は、ハワイ沖で合同演習中の日米のイージス艦が、地球を侵略するエイリアンの宇宙戦艦と戦う物語だ。俳優の浅野忠信さんが演じる海上自衛隊イージス艦「みょうこう」艦長が自らの艦を撃沈されながらも、残った米イージス艦に乗り組んで反撃する――。

集団的自衛権の行使が認められれば、日米が映画のように協力して敵と戦う事態が起きるのだろうか。海自幹部は本音を語る。「世界最強の米海軍が、簡単に自衛隊に助けを求めるとは想像しにくい。とはいえ、万一の時に『日本は助けられません』で済むとも思えない。防衛の現場にとって、集団的自衛権の行使は理屈というより義理人情の世界と言える」

実際、安倍晋三首相もこれまで、自衛隊も米軍や米国を守らなければ、米国との同盟関係が損なわれるとして、行使容認を急ぐべきだと繰り返し説いてきた。

 

■想定例作り、外務官僚黒衣

ただ、首相の主張を支える、公海上での米艦防護や米国向けの弾道ミサイルへの対処といった想定事例(類型)を黒衣としてまとめたのは、有事の際に前線に立つ防衛省・自衛隊ではなく、歴代の外務省幹部らだ。

複数の政府関係者によると、第1次安倍内閣集団的自衛権の行使容認を検討した際には、外務事務次官だった谷内正太郎・現国家安全保障局長や、外務省国際法局長の小松一郎・現内閣法制局長官らが、首相の意向を受けて行使の想定例を作成。第2次安倍内閣でも、やはり外務官僚出身の兼原信克・内閣官房副長官補が想定事例の検討や調整を仕切る。

積極的平和主義を掲げる安倍首相のもとで、安保政策の一大転換を狙う外務官僚たち。彼らの宿願は憲法9条の「制約」を外したうえで、国連や米国の要請に応え、軍事的な活動も含めて国際貢献を果たすことだ。外務省幹部は「今の政権で実現を逃したら、当分チャンスはない」と話す。

ただ、そんな外務省の姿勢に対しては、ともに安全保障政策を担う防衛省内から「自衛隊を『外交カード』としか見ていない」(幹部)との批判があがる。外務官僚主導でまとめた集団的自衛権行使の想定例についても、防衛省関係者は「米国から『やってくれ』と頼まれたことはない。想像の産物だ」と突き放す。

 

■迎撃難しい、弾道ミサイル

そもそも、日本周辺の有事に対応する米艦を自衛隊が守るために、集団的自衛権の行使は不可欠なのか。

元防衛官僚の柳沢協二氏は「もし日本海で米艦を攻撃するような国がいたら、日本国内の米軍基地も攻撃されるだろう。そうなれば日本自体が攻撃される有事なので、集団的自衛権で米艦を守る議論をすることにどれだけ意味があるのか」と疑問を示す。

柳沢氏は第1次安倍内閣で官房副長官補を務めた際、安倍氏にも同様の説明をしたが、納得はしてもらえなかったという。

一方、北朝鮮がハワイやグアムなど米国に向けて弾道ミサイルを発射したとの想定で、安倍首相らが「日本のイージス艦が撃ち落とすためには集団的自衛権の行使が必要」と説明していることには、政府内でも「物理的に不可能だ」との批判が出ている。

防衛省関係者によると、日米のイージス艦が現在装備している迎撃ミサイル「SM3」では、グアムや米本土を狙った弾道ミサイルを撃ち落とす能力はない。北朝鮮は3500~1万キロ超の射程をもつ弾道ミサイルを開発しているが、その飛行高度は大気圏外の600~1千キロに達し、SM3の追尾能力を上回るからだ。

日米両国はいま、より高性能の新型SM3を共同開発している。だが、弾道ミサイル防衛に詳しい政府関係者や軍事専門家は、新型が完成しても日本のイージス艦を着弾点に近いグアムや米本土付近に配置しない限り、射程が長い弾道ミサイルを撃ち落とすのは難しいと指摘する。

弾道ミサイルを迎撃できる米海軍イージス艦は約30隻、海自は4隻。日本を守る「虎の子」を米国の防衛にあてる余裕があるのか。香田洋二・元自衛艦隊司令官は「海自のイージス艦が日本近海を空け、グアムやカリフォルニア沖に出かけることはありえない」と語る。(谷田邦一、其山史晃、園田耕司)