発言前、周囲を見渡してスーッと一度、息を吸い込んだように見えた。

米中関係は米国の最も重要な二国間関係の一つ。今後、何世代にもわたり国際情勢を形づくるだろう」

米上院の重鎮だったボーカス駐中国大使は3月18日、星条旗五星紅旗を掲げた米大使館の会見場で語った。

6日後、オランダのハーグでオバマ米大統領も似た言葉を口にした。「米中関係の重要性は、ほかのどの国との関係にも劣らない」。向き合うのは習近平(シーチンピン)国家主席である。

オバマ氏の習氏への期待は、ロシアのクリミア併合に反対する米欧への同調だった。しかし中国は、国連安保理決議案の採決で棄権した。米ロがともに中国を求め、引っ張り合う構図が続く。

クリミア情勢は世界秩序を揺るがせた。中東は混迷し、朝鮮半島では核危機の懸念が深まる。米国は戦争に疲れ、中国は軍備を拡大。新たな秩序は霧の中に沈んでいる。

中国の「富国強兵」路線は、すさまじい。国内総生産(GDP)と国防費は、過去10年で約4倍に膨張した。経済成長を最優先し、安定した国際環境を求めた外交方針も攻めに転じた。習氏が求めるのは、中国という国家への国際社会の「尊重」。政府当局者は「中国の台頭は誰にも止められない」と言い切る。

一方、戦後秩序を牽引(けんいん)した米国は超大国の地位こそ保つが、経済力も軍事力も相対的には低下した。かつて、世界の4割近くを占めていたGDPは今、2割に過ぎない。

米国の政治思想家フランシス・フクヤマ氏は、両国に違う「弱さ」を見る。

中国は「法の支配」や「説明責任」を欠き、劣悪な統治者の出現を阻む仕組みがない。米国は利益集団がはびこり、党派対立も激しく、民主制というより「拒否権政治」と化している。中国のほうが持続可能性が低いが、「中国を国際システムに組み入れる戦略が必要だが、米国はまだ見つけられていない」。

一方、清華大学当代国際関係研究院の閻学通院長は言う。「戦争の可能性は凍りついている。ただ、米中の価値観や文化がぶつかるのはこれからだ」

経済面では互いを必要とする。中国は米国債を大量に持ち、米国経済を支える。米中間の貿易は、日米間や日中間をはるかに超える。

ともに、ひかれあう側面も持つ。中国の悠久の歴史に憧憬(しょうけい)を抱く米国人は多い。米国に好感を持つ中国人も、世論調査で半数を超える。米国内の中国人留学生は23万人。10年間で約4倍に伸びた。

ニクソン訪中から40年余り。米中関係は不信と依存、憧憬と実利がないまぜの多面体である。その姿を「世界新秩序」で追いかけたい。

米中関係の実相を見極めることが、日本の針路を考えるうえで欠かせない、と思うからである。