高原さま
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梅林さん、川崎さん、内藤さん、
MLでのやりとり、味読させていただきました。ありがとうございます。
一点だけ、内藤さんの書かれた次の一文について。
>NPTと違って禁止条約は国益的にはメリットのない条約のようにも思われます。
そうでしょうか。禁止条約によって、現存する核兵器がいっそう使われにくくなる
ことは、日本をはじめとする非核兵器国の平和と安全にとってだけではなく、内藤さ
んの書かれている「核兵器保有国や核兵器を保有したい国」のため、とくに後者のた
めに、利益になると考えます。この点を今後、前に出していくのも必要かと思います。
舌足らずの走り書き、お赦しください。
2014.4.14 高原孝生
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川崎さま
梅林さま
第一の非人道性の議論は団結を崩すものになってはならない(「結束のための触
媒」)というのは、昨年10月の国連総会の非人道声明の後から日本政府がくり
返し述べてきているフレーズです。直接には、昨年10月に非人道声明が二つ出
てしまい対立的な関係になってしまったことが残念であった、対立を避け結束し
なければならない、というような意味合いがあると考えられます。あるいはまた、
日本政府が最近よく言っている「核兵器国と非核兵器国の溝が深まっている。こ
れを埋めなければならない」という意味合いも感じられます。
「結束のための触媒」のフレーズは、今年1月20日の岸田外相の長崎大学にお
ける政策演説に登場します。そのときの説明として、核の非人道性は「いかなる
核軍縮アプローチをとる際にも考慮されなければならない」としています。日本
政府は2012年に非人道声明が提起されたときにそれに署名しない理由として
「非人道性の声明が、核兵器禁止条約という特定のアプローチと結びつけて議論
されているから」ということを言ってきました。だからこそ昨年10月に初署名
したときに「すべてのアプローチが大事」という文言を挿入させたのです。
この頃から日本政府は、非人道性の話となると必ず「結束のための触媒」と言っ
ており、そのフレーズは政府の政策説明資料にもたびたび登場しています。2月
のナジャリット会議での野口課長の発言(数分間)も、まさにそのことに触れて
いました。
これらのことから考えて、「結束のための触媒」というのは「非人道性の議論は、
核兵器禁止条約という特定のアプローチにリンクするのではなく、すべてのアプ
ローチを支持するものでなければならない。そしてこの議論が、核兵器国との対
立や、あるいは非核国の間での対立(「核の傘」の国vsそうでない国)を生み出
してはならない」というメッセージとして理解することができます。端的にいえ
ば、少数国が核兵器禁止条約に向けて加速して行動することを牽制するという政
治的メッセージです。
第二に、非人道性の国際会議に関して「事実に基づく議論」云々としている問題
についてです。そもそも非人道性の議論は、(1)人道上の影響を事実に基づいて
議論するという面と、(2)非人道兵器を国際法で禁止していく方向で議論すると
いう面の2面があります。第一回オスロ会議はノルウェー政府の明確な方向付け
により(1)に限定するものとして行われました。第二回ナジャリット会議は、(1)
のみでやると言って会議を始めたのですが、会議終了時に出てきた議長総括は(2)
も含まれるような内容になっていました。そこで第三回ウィーン会議が(2)を含
むものになるのかどうかが注目されているわけです。
こうした中で発出された今回のNPDI広島宣言は、(1)の重要性をことさらに
強調し、ウィーン会議については「会議の計画がどのようなものになるかを注目
している」という趣旨を述べています。これは、「会議の議題が(1)だけだった
らいいが(2)に入るならボイコットもあるよ」というメッセージとして理解でき
ます。
これまでオスロ会議やナジャリット会議について、5核兵器国のうちいくつかは、
(1)だけの議題であれば参加することも検討するという姿勢を見せてきました
(公式、非公式に)。これらの核兵器国は、議題のなかに(2)があるのかないの
かにきわめてナーバスになっていました。去る4月12日の中国新聞は、来日し
たローズ・ゴッテムラー米次官のインタビューを掲載していますが。その中で同
次官はウィーン会議について「教育のための、事実に基づく会議であれば、参加
を検討するに値する」というようなことを述べています。今回のNPDI広島宣
言は、非人道性については「事実に関する議論に限定し、行動に関する議論はし
ない」という核保有国ならびに「核の傘」国の希望を色濃く反映したものになっ
ているといえます。
というわけで、第一点、第二点ともに、日本政府の働きかけにより入れられた
「非人道性の議論は大事だが、核兵器禁止条約に突っ走るようなことはすべきで
ない」というメッセージであるといえます。
川崎哲
On Sun, 13 Apr 2014 21:37:49 +0900
“yuu” <yuu@ivy.ocn.ne.jp> wrote:
> 梅林宏道様よりのメールを転送します。(管理人)
>
> ___________________
> From: Hiro Umebayashi [mailto:cxj15621@nifty.com]
> Sent: Saturday, April 12, 2014 11:23 PM
> To: abolition-japan
> Subject: 広島宣言の注目点
>
> 皆さま
>
> 今日のNPDIの広島宣言について、第26節と27節に
> 注目しました。(他にもいろいろありますが)
>
> 2月のナヤリット会議(核兵器の非人道性に関する第
> 2回会議)でメキシコの議長サマリーが、「法的拘束力
> のある国際文書による規範に向かって外交交渉を開始す
> べき時が来た」と述べ、「ナヤリットは後戻り出来ない
> 地点である」と結んだことで関心を集めました。ところ
> が広島宣言第26節は「非人道性の議論は団結を崩す場
> になってはいけない」という趣旨を述べ、第27節はオ
> スロ会議、ナヤリット会議が「事実に基づく会議」と限
> 定して持たれてきたことを踏まえて、「事実に基づいた
> 議論が今後も重要だ。この観点からオーストリアで今年
> 中に開催される第3回会議の動向に注目している」とい
> う趣旨を述べています。
>
> メキシコを含む12か国をまとめる宣言として、日本
> 政府は重要な政治的メッセージを出したと理解されま
> す。
>
> 梅林宏道
> 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)
> ピースデポ特別顧問
> (ピースデポ事務所)
> 〒223-0062 横浜市港北区日吉本町1-30-27-4 1F
> tel:045-563-5101 fax:045563-9907
> e-mail: <mailto:cxj15621@nifty.ne.jp>
> cxj15621@nifty.ne.jp
> <mailto:umebayashi@nagasaki-u.ac.jp>
> umebayashi@nagasaki-u.ac.jp
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