◇The New York Timesから

 

私たちは子どもの頃から、米国は世界一強い国だ、世界一豊かな国だ、世界で最も自由で恵まれた国だ、とたたえながら育ってきた。

確かに厳密には、ノルウェー人のほうが1人当たり国内総生産(GDP)では豊かだし、日本人のほうが長生きかもしれない。でも世界中がNBAのプロバスケットボールの試合を観戦し、歌姫ケイティ・ペリーにうっとりし、iPhone(アイフォーン)を使ってフェイスブックに投稿し、我が空母におののき、何でもかんでも米中央情報局(CIA)のせいにしている。我々は世界一なのだ!

いろいろな意味で、私たちが世界一であることに議論の余地はない。だが、132カ国を対象とした暮らしやすさに関する最新のランキングを見ると、米国はあろうことか16位である。思ったほどよくないのは、経済力や軍事力が一般市民の豊かさにつながっていないからだ。

社会進歩指標(ソーシャル・プログレス・インデックス)で、米国は高等教育の普及の面では群を抜いているが、健康では70位、生態系の持続可能性では69位、基礎教育では39位、衛生の普及では34位、個人の安全では31位である。携帯電話やインターネットの普及率でさえ、期待外れの23位。それは5人に1人がネットへの接続手段を持たないせいでもある。

この指標を統括するNGOの統括責任者マイケル・グリーン氏は「シリコンバレーを擁する国で、情報へのアクセス不足で危険信号がともるとは驚きだ」と指摘する。これまで米国は「子どもたち」より「無人機」にお金をかけてきた。社会サービスの削減は、社会の骨組みを一層もろくしてしまいかねない。

社会進歩指標の1位はニュージーランドスイス、アイスランド、オランダと続く。いずれも1人当たりGDPでは米国よりやや低いが、国民のニーズにこたえるという点ではうまく機能しているようだ。

この指標は、ハーバード大学の著名な経営学教授で、かつて「世界競争力リポート」の作成に尽力したマイケル・ポーター氏が考案したものだ。ポーター氏は共和党員で、経済の指標に重点的に取り組む研究を続けてきた。「私には旅のようなものだった」という。税政や規制はもちろん、学校教育や健康も経済の展望に影響を与えること、つまり社会的な要因が経済成長を支えているのだということに、次第に気付くようになったのだという。

自殺、財産権、学校の出席率、移民への態度、女性の地位。その他の多くの要素を反映した膨大なデータに基づき、ポーター氏らは2年を費やして、この指標を作成した。

メディケイド(低所得者向け医療制度)やフードスタンプ(低所得者向け食料配給券)、公共サービスの削減を求める共和党の提案を支持する人の多くは、こうした削減が米国の競争力を高めると信じている。しかし、この指標を見ると実際はその逆のようである。

たとえばアイルランドだ。19世紀に多くの人が逃げだし、チャンスを求めて米国に渡ったこの国が、今や15位。米国より一つ上なのだ。「機会」のランキングでも米国より上につけている。

カナダは、主要7カ国(G7)で最上位の7位。ドイツは12位、英国は13位、日本は14位である。最下位はチャド。そのすぐ上に中央アフリカ、ブルンジ、ギニア、スーダン、アンゴラが名を連ねる。

アラブの春」の国々は「機会」の項目で低スコアとなる未解決の課題を長年抱えてきた、とポーター氏は指摘する。そのことが混乱の予兆であるならば、ロシアや中国、サウジアラビア、イランは用心すべきだ。どの国も、「機会」のスコアは振るわない。

一方で、自国の実力をはるかに超える力を発揮している国もある。コスタリカは、もっと裕福な国々よりも上位につけ、フィリピンエストニア、ジャマイカも同様に上をいく。アフリカでは、マラウイ、ガーナ、リベリアが特に順位がよい。バングラデシュ(99位)は、より豊かなインド(102位)よりも上にランク入りし、ウクライナ(62位)もロシア(80位)をしのぐ。

中国は90位と振るわず、より貧しい隣国モンゴル(89位)を下回る。中国は基礎教育は良好だが、個人の権利や情報へのアクセスなどの領域で後れを取っている。

これらすべてを見ると、我々はどんな国になりたいのか、我々がGDPを信用しすぎているのではないか、という問いに行き着く。

1975年から2006年までの間、米国は経済全体でみればフランスよりも良好だった。だが実際には、フランス人の99%はその間、米国人の99%よりも所得が増えた。上位1%を除けば、平均的なフランス市民は、平均的な米国市民よりも豊かだったのだ。繁栄と機会を分かち合えないことが、米国の社会的進歩を妨げてきたのである。

手っ取り早い解決策はない。だが基礎教育と医療、とりわけ生まれて数年の子どもへの医療に真っ先に着手すべきなのは言うまでもない。見返りが最も大きいのだから。

機会や社会サービスを広げようという議論はいつも、社会的に公正か、公平かという話になる。社会進歩指標は、私たちの社会が健康か、世界における私たちの競争力が健全かが問われていることを思い出させてくれる。

 

◇コラムニスト、ニコラス・クリストフ

59年生まれ。NYタイムズ元東京支局長。天安門事件報道などで2度ピュリツァー賞受賞。