会談を求めたのは米国大統領オバマの方だった。

3月25日夜、オランダ・ハーグの米大使公邸。オバマが仲介して実現した日米韓首脳会談の後、日本の首相、安倍晋三とオバマが部屋に残った。同席者は通訳のみ。オバマが話したかったのは環太平洋経済連携協定(TPP)だった。

「国内外の目は今回の訪日をTPPの成否で評価する。そこはわかってくれ」

ふだんは冷静なオバマが強い調子で日本の妥協を迫った。安倍はその場で日本の立場を即答せず、深入りを避けた。安倍は次の予定を理由に、わずか10分で会談を打ち切った。

安倍がオバマに即答できなかったのは、米側が求める牛・豚肉などの農産物「重要5項目」の関税撤廃に対し、自民党の反発が強いからだ。しかし、オバマの言葉は安倍にしっかりと刻み込まれていた。

安倍が帰国後、首相官邸の高官から自民党執行部に「TPPで党をまとめてくれ」と指示が出た。重要5項目の関税をめぐって日米の開きは大きく、両国の交渉当事者さえ「合意は絶望的」と語っていたのが、オバマ・安倍会談以来、急速に動き始めた。

昨年4月、衆参農林水産委員会は重要5項目は「段階的な関税撤廃も認めない」と決議。そのため安倍も米国との交渉で慎重な姿勢をとり続けてきた。

しかし、安倍には負い目があった。昨年末の自身の靖国神社参拝だ。冷え込んでいた日韓関係はさらに悪化。日米韓連携を重視するオバマ政権がアジア外交の「礎石」と位置づける日本が、逆に米国の「リスク」になってしまった。

だから米国は「失望」を表明した。糸口が見えなかった韓国との関係改善もオバマが取り持った。その日米韓首脳会談が実現した当日にオバマから出されたTPPの要求は、安倍にとって重い意味を持った。

日米はぎりぎりの交渉を続ける。TPP担当相の甘利明は16日、ワシントンに飛び、米通商代表部代表のフロマンと交渉した。しかし、17、18日と続いた交渉でも、フロマンは強硬姿勢を崩さないまま。「まだ相当、距離はある」。そう記者団に語る甘利の顔には疲労の色が浮かんだ。

安倍が18日に大阪府門真市で、オバマ訪日への期待を問われてあげたのも、やはりTPPだった。「TPPを始めとする経済において日米のきずなを強くしていきたい」=敬称略

(円満亮太、ワシントン=藤田知也)

 

(2面に続く)