日米の首脳がカウンターに並んですしをつまむ場面は以前にもあった。1993年7月、時の宮沢首相とクリントン米大統領は東京・虎ノ門のホテルオークラで夜の10時前から会った。日本の巨額の貿易黒字問題がこじれていた▼会食前、交渉の首尾を問う記者を、クリントン氏は「我々はすしを食べることに合意した」と煙(けむ)に巻いた。実は、この場で双方の溝を埋めたのだと回顧している。宮沢氏は後で「結果に貢献したのはすしよりも日本酒だ」と冗談を飛ばしたそうだ▼今回のオバマ大統領の滞在で多くの人の印象に残った場面といえば、やはり銀座の有名店「すきやばし次郎」だろう。安倍首相が大統領に酒をつぐ写真だ。2人とも人生で一番おいしいすしだったそうだが、結局、TPP交渉は片付かなかった▼首脳外交にはしばしば供宴がともなう。17世紀のフランスの外交官カリエールは『外交談判法』で指摘している。〈人々の間のしこりをときほぐし、会食仲間の間に親しみを湧かせ、胸襟を開かせるところに、おいしいごちそうの面目がある〉▼安倍、オバマ両首脳の会話の本当のところはうかがいしれない。個人的な信頼関係は深まったのかどうか。「画期的な共同声明になった」と高揚を隠さない首相に対して、大統領の方は心なしか憂い顔と見える場面が目についた▼「尖閣」での成果もいいが、オバマ氏がかなり強くくぎを刺していたことを銘記すべきだろう。要は、近隣とあまり事を荒立ててくれるな、と。