安倍晋三首相が目指す集団的自衛権の行使を容認する閣議決定が遅れる可能性が出てきた。政権側は公明党に配慮を見せることで譲歩を引き出すねらいだ。しかし、閣議決定の方針は変わらず、時期を大幅に譲るつもりもない。政権の配慮は、公明党に決断を迫る圧力ともなっている。▼1面参照

 

「与党で一致していくことが極めて重要なので、場合によっては時間を要することもあると思う」。首相は7日の記者会見のほか、3日や6日にも会見などで、閣議決定の時期にこだわらない考えを繰り返した。

首相の「譲歩」は、ひとえに公明党に向けられている。首相は今国会の閣議決定を目指す考えを強調してきた。「先送り」は自らの発言を後退させることだ。そのリスクをとっても、「国民合意なしには憲法解釈の変更はできない」とする公明党の意見をのんで、時間をかけることは約束し、閣議決定への同意を引き出す考えだ。

閣議決定を今国会以降にすれば、秋の臨時国会で関連法案を審議することも難しくなる。しかし、この点でも首相側は「審議を急ぐべきではない」とする公明党に妥協しつつある。自民党石破茂幹事長は、自衛隊が防衛出動できる段階に至っていない「グレーゾーン事態」=キーワード=に関する法案審議を秋の臨時国会で先行させる可能性に言及した。公明党が「集団的自衛権よりも、この問題を優先させるべきだ」と主張することに配慮してのことだ。

一方で首相は欧州の集団安全保障を担う北大西洋条約機構NATO)本部での演説で、「憲法集団的自衛権集団安全保障、PKOなどとの関係について議論を進めていく」と力説した。行使容認の検討を「国際公約」した形だ。

首相は臨時国会前には閣議決定に踏み切る構えで、「集団的自衛権が行使できるよう憲法解釈を変更する」という中身はまったく譲っていない。首相は閣議決定を歴史的転換点と位置づけることで、その達成にこだわりを示す。首相側近はこう語る。「閣議決定さえ達成できれば、あとはどうにでもできる」(冨名腰隆)

 

■譲れぬ公明、判断難しく

集団的自衛権で自民、公明両党の協議の中心となる2人が北京市内で向き合った。自民党高村正彦副総裁と公明党北側一雄副代表。ともに日中友好議員連盟のメンバーとして4日から訪中した際に意見を交わした。高村氏が集団的自衛権を必要最小限の行使にとどめる、として理解を求めたのに対し、北側氏は「今の憲法の解釈で出来ることからやりましょう」と譲らず、平行線に終わったという。

公明党にとって、安倍首相がこだわる集団的自衛権が行使できるよう憲法解釈を変更する閣議決定は、受け入れられない一線だ。

漆原良夫国対委員長は7日朝、自民側が「グレーゾーン事態」に関する法案審議を先に行う可能性を示したことについて「一つのアプローチの仕方として乗れる」と歓迎した。これを先行させれば、集団的自衛権の関連法案の審議が先延ばしになり、「来年は統一地方選があるから、どんどん先延ばしになる」(別の党幹部)という思惑がある。また、政府が想定する集団的自衛権を行使するための具体的な事例を提示させて、その一つ一つを「個別的自衛権や警察権で対応できる」と論破する作戦も練っていた。

しかし首相側は「朝鮮半島有事の際、韓国から避難する米国人や日本人を運ぶ米航空機を護衛する」など、より現実的な事例を公明側に次々と提示。ある公明党幹部は「政権側から『助けを求める国を何で助けないのか』と主張されたとき、明確に反対できなければ状況は苦しくなる」と打ち明ける。

山口那津男代表は「政策的な違いで(連立)離脱は到底考えられない」と明言する。連立離脱の「カード」を使わずに、どう妥協点を見いだすのか。難しい判断を迫られている。(岡村夏樹)

 

■今後の主な政治日程

<5月中旬>

・安保法制懇が報告書提出

・「政府方針」を提示

<6月22日>

通常国会会期末

<閉会後?>

集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定

内閣改造と党役員人事

<秋>

臨時国会召集、安全保障関連法案を審議

<年末?>

・日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改定

<2015年1月>

通常国会召集

<春>

統一地方選

 

キーワード

<グレーゾーン事態> 日本は相手国から組織的・計画的な武力攻撃を直接受けない限り、自衛隊が武力を使うことはできない。これ以外は、警察権で対応しなければいけない。

しかし、警察権での武器使用は制限されているため、重武装の相手に対応するには限界がある。自衛隊が武力を使う個別的自衛権と警察権のはざまにあり、現行法での対応があいまいな事態を「グレーゾーン事態」という。

政府が問題にしているのは、尖閣諸島の周辺海域で、中国の公船や潜水艦が日本の領海内に侵入し、退去の要請に応じず、徘徊(はいかい)を続けるような事態だ。装備が十分ではない海上保安庁では対応できない可能性があり、自衛隊も強制的に退去させることはできない。こうした事態に自衛隊が対処するには、憲法解釈の変更は必要なく、自衛隊法の改正で対応できる。