毎日新聞 2014年06月10日 東京朝刊
集団的自衛権の行使容認など安全保障法制整備のため、政府が今国会中を目指す閣議決定の原案が9日、判明した。集団的自衛権は「自国の存立を全うするために認められる必要最小限度の武力行使」に含まれるとの考え方を表明。その上で「集団的自衛権を行使するための法整備について今後検討する」と明記する。行使は認められないとしてきた現行憲法解釈を事実上変更し、日本の武力行使を個別的自衛権に限ってきた長年の憲法9条解釈を根本から転換する内容だ。
原案は、1972年の政府見解が示した「(憲法は)自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を取ることを禁じているとは到底解されない」との考え方を強調。必要最小限度の自衛権の行使は可能だとの見方を示し、その範囲内であれば集団的自衛権の行使が容認されるという「限定容認論」を採用する。
原案は「集団的自衛権の行使は国際法で認められている」と「集団的自衛権」の文言を盛り込む一方、行使容認には直接言及せず、「(行使に必要な)法整備について今後、検討する」との表現にとどめることで、慎重な公明党の理解を得たい考えだ。しかし、法整備の方針表明により「集団的自衛権の行使は(必要最小限度の)範囲を超え、憲法上許されない」とした81年の政府答弁書の内容は、実質的に書き換えられる。
自民党から「行使容認の根拠になる」と主張があった「砂川事件」の最高裁判決は公明党から異論が相次いだことを踏まえ、行使容認の根拠に採用しない。閣議決定には▽日本への武力攻撃には至らない「グレーゾーン事態」▽国連平和維持活動(PKO)での自衛隊の活動拡大などの国際協力分野−−の法整備を進める方針も盛り込む。
◇20日案浮上
閣議決定は20日にも行う案が政府内で浮上しており、政府高官は「調整局面に入ってきた」と述べ、公明党の理解は得られるとの期待を示した。また政府は「自国の存立を全う」できなくなる事態や、集団的自衛権の行使に必要な手続きを示す指針も策定する。
安倍晋三首相は9日の参院決算委員会で、集団的自衛権の行使容認について、「長い間の(政府答弁の)積み重ねもあり、今回は閣議決定をもって最終的な判断としたい」と明言した。一方、行使を容認した場合の歯止めは「(自衛隊の活動を定める)個々の法律を作る場合、国会の関与、それぞれで歯止めがなされていく」と強調。他国領域で戦闘を行うための自衛隊派遣はしないとし、自衛隊法などの法律▽自衛隊活動の国会承認▽その事態が日本の安全保障と密接な関係があるかの判断−−が歯止めになるとの考えを示した。【田所柳子、青木純】
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◇閣議決定原案 骨子
・国際法上、集団的自衛権の行使は認められている
・自国の存立を全うし、国民の命と暮らしを守るための必要最小限度の武力行使は認められる
・集団的自衛権を行使するための法整備について今後検討する
・グレーゾーン事態への対応など、切れ目のない対応を可能とする法整備を進める