毎日新聞 2014年06月10日 東京朝刊
政府は安全保障法制を巡る与党協議の結論を待たずに、集団的自衛権の行使を事実上容認する閣議決定の原案をまとめた。党内論議が追いつかない公明党に配慮し、10日の与党協議会での提示は見送るものの、安倍晋三首相は今国会中の20日にも閣議決定する構え。政府・自民党が公明党に早期の決断を迫る構図に変わりはなく、22日の会期末に向け、与党の綱引きは正念場を迎える。【青木純、高本耕太】
首相が閣議決定を急ぐのは、今年後半にかけて景気回復が鈍化し、高い内閣支持率を維持してきた政権の勢いがそがれる事態を懸念しているためだ。安倍政権の命運がかかる経済政策では、政府が今月まとめる新たな成長戦略と「骨太の方針」に対する市場の反応が見極めにくい。首相は今年末に消費税率10%への引き上げの判断も迫られる。
今国会閉会後の内閣改造と自民党役員人事をカードに、政権内で行使容認への慎重論が広がるのを抑える狙いもある。与党関係者は「首相は内閣支持率が高いうちに、悲願の行使容認で公明党を押し切ろうとしている」と解説する。
首相は5月上旬、訪問先のリスボンで、閣議決定の時期について「与党で一致することが極めて重要。時間を要することもあるだろう」と語っていたが、その後、与党協議が入り口から難航したことで、姿勢を変えたとみられる。
自民、公明両党は9日、10日の与党協議会を前に政府から個別に説明を受けた。10日に原案を提示しないことについて、政府高官は「公明党も『首相が行使容認を絶対に譲らない』と分かってきた。急がば回れだ」と語り、遅くとも20日には閣議決定する考えを強調した。
一方、公明党の井上義久幹事長は6日の記者会見で、閣議決定について「だらだら協議しても仕方ない。一つ一つの結論が出るよう突っ込んだ議論が大切だ」と述べ、結論を急ぐ政府・自民党に一定の理解を示した。与党協議会で決定的な対立を避けたい公明党メンバーには「首相の意向はある程度尊重しなければならない」という声もある。
しかし、日本への武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」や国際協力への対応についても、公明党内で議論が続いている。この時点でさらに集団的自衛権に関する閣議決定を受け入れれば、党内への説明と意見集約は一層難しくなる。