特集ワイド:集団的自衛権の行使容認 閣議決定文の「ごまかし」 憲法専門家らがキーワードで読み解く

毎日新聞 2014年07月03日 東京夕刊

集団的自衛権行使の憲法解釈変更を決定した閣議後に記者会見する安倍晋三首相(奥中央)=首相官邸で1日午後6時14分、藤井太郎撮影
集団的自衛権行使の憲法解釈変更を決定した閣議後に記者会見する安倍晋三首相(奥中央)=首相官邸で1日午後6時14分、藤井太郎撮影

戦後日本の平和国家としての歩みを支えてきた憲法9条。集団的自衛権の行使を認める閣議決定で、その解釈を一変させ、自衛隊が海外で武力を行使できるようになった。政府や与党は「しっかり歯止めをかけた」と胸を張る。だが、その言葉を疑問視する憲法の専門家は少なくない。閣議決定文のごまかしをキーワードから読み解いた。【浦松丈二】

 ◇「明白な危険」に政府判断の余地 「安保環境変化」はトリック

 ◇紛争地での「駆け付け」に壁 「国家に準ずる敵対組織」は現れない?

<我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使すること……>。集団的自衛権の発動が憲法上容認される3要件を示し、約7000字からなる閣議決定文の核心とされる部分だ。

「従来、政府は一貫して『外国から我が国への武力攻撃』を自衛隊の武力行使の発動要件としてきた。それは一義的で分かりやすい基準だった。しかし閣議決定の『明白な危険』という文言では、どうしても判断の要素が入ってきてしまう」。そう懸念するのは2004〜06年に小泉純一郎政権の内閣法制局長官を務めた阪田雅裕さんだ。時の政権が「明白」のハードルを下げれば、武力行使への道は簡単に開かれるというのだ。「そもそも国家の正当防衛というべき個別的自衛権と、戦争参加権というべき集団的自衛権は本質が異なる。憲法解釈の変更で対応できるテーマではない」とも。

決定文は<「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれる>と戦争参加を想定しながらも、参加国の交戦権には言及していない。阪田さんはここにも疑問を投げかける。「憲法9条により交戦権を持たない日本には、他国のような(非戦闘員の保護など)戦時国際法の権利が認められないと解される。それなのに、どうやって他国と同じように戦争に参加するのか」。敵国に拘束された自衛隊員は捕虜としての権利を主張できず、軍人ではなくテロリストとして扱われる恐れがある。

「憲法は海外での武力行使を想定していない。今までですらぎりぎりの解釈をしてきたのに……」。憲法の重さを知る元法制局長官は嘆く。

憲法9条の解釈変更は、どのように導き出されたのか。閣議決定文は1972年の<政府見解の基本的な論理に基づく>と説明する。この72年政府見解は、幸福追求権を定めた憲法13条などを根拠に個別的自衛権を認めたが、集団的自衛権の行使は「憲法上許されない」とした。ところが今回の決定文では<我が国を取り巻く安全保障環境>を理由に、結論を<憲法上許容される>と逆転させた。

これを批判するのは小林節・慶応大名誉教授(憲法学)だ。「例を挙げれば『あなたは美しいから好きだ』と言っていた人が『あなたは美し過ぎるから嫌いだ』と言い始めるようなものだ。要するに政府にとって論理などどうでもいい。やりたいことをやると言っているに等しい」

本来は「改憲論者」である小林さんが続ける。「『安保環境』の変化を持ち出すのはトリックに過ぎない。従来の憲法解釈では尖閣諸島を守れないから集団的自衛権の行使を可能にし、日米同盟を強化すると安倍晋三首相は訴えるが、尖閣は日本の領土だから個別的自衛権で対応できる。強迫観念をあおる手法に惑わされてはならない」

ごまかしはまだある。

閣議決定文は、国連集団安全保障措置の後方支援や国連平和維持活動(PKO)の<駆け付け警護>についても、従来は憲法9条に抵触するとして非戦闘地域に限っていた自衛隊の活動範囲を拡大し、武器の使用もしやすくした。

国連職員として紛争地で武装解除の経験を持つ伊勢崎賢治・東京外国語大教授(平和構築学)は「武装した組織を紛争地に派遣すれば、住民に対する誤射などの問題が必ず起きる。そのため、問題を処理する軍事法廷を持たない軍隊は使えないというのが国際社会の常識だ」と言う。自衛隊にも軍事法廷はない。

「問題はここだよ」と決定文を指した。<「国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場することは基本的にないと考えられる>。PKO派遣された自衛隊員が武器を使用しても紛争に巻き込まれないとする論拠だ。「現実は正反対だ。『国家に準ずる』敵対組織は、外国の軍隊が駐留していること自体を理由に、民衆の中から次々に出てくる。戦争終結後のイラクを見れば明らかだ」。伊勢崎さんはそう喝破する。

今後、政府が例示した米艦防護や機雷掃海など8事例が認められれば自衛隊の活動範囲は広がっていく。衆議院憲法審査会で参考人を務めた南部義典・元慶応大講師は「決定文を読むと、政府は新3要件を満たせば8事例全てが認められると判断しているようだ。問題は、8事例に対応できる『実力』を備えた自衛隊が『戦力』に該当し、戦力不保持を定めた憲法9条2項に抵触する恐れが高まるということだ」と解説する。

これまで政府は「自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められる」としてきた。だが、集団的自衛権の行使に向けて自衛隊が目指す国際標準の装備や組織の姿は「戦力」そのものではないのか。「閣議決定文に書かれた内容を突き詰めれば、自衛隊を『国防軍』『自衛軍』と改組しなければ対応できない事例が出てくる。今後、政府が関連法整備を進める段階で、自衛隊の派遣事例を積み重ねれば、『いよいよ改憲を』という声が必然的に強まるだろう」

閣議決定による憲法解釈の変更は「内閣の職務権限を越えており、無効だ」との声は根強いが、南部さんは「今回の閣議決定は政権交代が再び実現し、新解釈を否定する新たな閣議決定がなされるまでは現実に通用することになる。政府が憲法解釈を変更する場合には、憲法改正発議と同様に両院総議員の3分の2以上の賛成を成立要件にするなど高いハードルを設けるべきだ」と提案する。

閣議決定文の前文はいう。<我が国の平和国家としての歩みは、国際社会において高い評価と尊敬を勝ち得てきており、これをより確固たるものにしなければならない>。だが、憲法9条の熟議を抜きに強行した閣議決定は、平和国家としての歩みを後退させるものではないのか。

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