毎日新聞 2014年07月04日 東京朝刊
<1面からつづく>
北富士演習場の富士訓練センター(FTC)。レーザー光線が命中した隊員は、受信装置で「死亡」「重傷」などと自動的に判定される。仲間が次々に被弾するのを見たある隊員は「実戦でなくてよかった」と率直に語った。
ただ、FTC企画班長の橋本啓之2等陸佐は「訓練の目的は隊員に死を意識させることではない。同じ失敗を繰り返さないように、何が起こったのかを理解させるためだ」と明言する。
今年1〜2月、FTCの評価支援隊が渡米し、アジア地域の国として初めて米陸軍ナショナル・トレーニング・センター(NTC)の訓練に参加した。米軍の訓練評価体制の視察が主な目的とされたが、防衛省幹部は「日米間の相互運用を向上させる意義があった」と語る。9日間に及んだ実戦訓練では、潜伏したテロリスト役から攻撃を受ける場面もあったという。
NTCで陸自部隊を評価した米側担当者の多くはアフガニスタン戦争やイラク戦争などの実戦経験者。参加した陸自幹部は「学ぶことは多かったが、われわれが考えた作戦が実戦で使えることも確認できた」と話す。
FTCでの訓練は日本への武力攻撃を想定したものだ。しかし、イラク復興支援のため南部サマワに陸自部隊を派遣していた2004〜06年には、演習場内に宿営地に見立てた模擬施設をつくり、派遣前の部隊の警備訓練を実施したこともある。
安倍晋三首相は1日の記者会見で「海外派兵は一般に許されないという原則は変わらない。自衛隊が湾岸戦争やイラク戦争の戦闘に参加するようなことはこれからも決してない」と断言した。それでも将来、対テロ戦争のような本格的な戦闘に自衛隊が参加することがないかといえば、現時点では不透明だ。
実際、国連安全保障理事会の武力行使容認決議を受けた集団安全保障への自衛隊参加を巡っては、1日の閣議決定前まで、自民、公明両党で激しい議論が交わされた。
首相の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は、国連の集団安保への参加に「憲法上の制約はない」として、積極的な貢献を提言した。自民党の国防族議員や外務省の一部にもこうした考えは根強い。与党協議会の座長を務める自民党の高村正彦副総裁は1日の党会合で、「公明党が集団的自衛権の党内合意をとるので手いっぱいだというので、集団安保は閣議決定しない。しかし、『いつの日かやらざるを得ませんよ』ときちんと伝えてある」と協議の舞台裏を明かした。
ある制服組幹部は「われわれを動かすのは政府であり国会だ。国民が支持して国益につながるのなら納得できる」と語る。しかし、6月の毎日新聞の世論調査では、今回の憲法解釈変更に「反対」との回答が60%に上った。国民の理解が進んだとはいえず、「派遣先で隊員が不幸にも死亡したら、国民は敬意を払ってくれるのだろうか。そこだけは心配だ」と不安もよぎる。=つづく