毎日新聞 2014年07月16日 東京朝刊
政府が集団的自衛権の行使を認める閣議決定をしてから初の国会論戦が衆参の予算委員会で行われた。審議を通じて、集団的自衛権行使の歯止めについて、政府の恣意(しい)的な拡大解釈の余地があることが改めて明らかになった。
審議の焦点の一つは、政府が歯止めとする武力行使の3要件のうち「(国民の権利が)根底から覆される明白な危険がある場合」をどう解釈するかだった。
横畠(よこばたけ)裕介内閣法制局長官は、次のように定義した。
他国への武力攻撃が発生し、「国民に、我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻・重大な被害が及ぶことが明らかな状況」だと。
その上で、どういう事態が該当するかは「攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、規模、態様、推移」などを総合的に考慮し、「我が国に戦禍が及ぶ蓋然(がいぜん)性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断する」と。
つまり、日本自身が武力攻撃を受けたのと変わらないぐらい深刻な場合にのみ、集団的自衛権の行使が許されると言ったのだ。
それならば集団的自衛権の行使を認める必要はなかった。これまでの個別的自衛権で説明できる話だ。「我が国が武力攻撃を受けたのと同様な被害」という長官答弁を重く受け止めたい。
だが安倍晋三首相は少し違った。長官答弁と基本的に変わらないとしながらも、政府が武力行使の3要件に照らして判断すると強調した。首相は、中東のホルムズ海峡が機雷で封鎖され、原油供給が滞って日本経済が死活的な影響を受けた場合でも、集団的自衛権を行使して機雷掃海ができるとの考えを示した。
首相の目には、原油供給の停滞という経済的打撃が、日本自身への直接的な武力攻撃と同等の深刻さに映るようだ。これでは3要件は、政府の判断次第で拡大解釈でき、歯止めにはならない。
審議では他にも多くの論点が提起された。集団的自衛権の行使で自衛隊員が命を落とすリスクについては、首相はまたも語らなかった。行使には国会承認が必要だが、原則は事前承認でも、例外で事後承認でもいいとしていることの問題点もある。
閣議決定から2週間もたって、わずか2日間の閉会中審査では不十分だ。政府は関連法案の審議を、選挙への影響を考慮して、来春の統一地方選後に先送りする方針だが、姑息(こそく)な考えだ。引き続きの閉会中審査と、秋の臨時国会での徹底審議を求める。来春まで本格的議論をしないなら、そんな緊急性のない閣議決定は早急に撤回したほうがいい。