安倍政権が特定秘密保護法の12月施行に向けて、チェック機関や、秘密指定・解除の基準を示した。チェック機関は「身内」である官僚で作られ、権限も限定的だ。特定秘密が、首相や大臣ら「行政機関の長」の裁量で幅広く指定されるおそれも残っている。▼1面参照

 

「法律の適正な運用を図る仕組みが盛り込まれた。秘密の取り扱いの客観性と透明性が一層進展する」。安倍晋三首相は17日の情報保全諮問会議で胸を張った。

その「仕組み」として新設するのが、「独立公文書管理監」や「情報保全監察室」だ。だが運用基準を見れば、特定秘密に触れる困難さの方が際立つ。

管理監が調査に乗り出す端緒は省庁から送られる目録(特定秘密指定管理簿)か、内部通報に限られる。

目録には、秘密指定の日付や指定期間、秘密の概要などが記録されている。だが、「秘密の概要」は中身が分からない程度しか書かれないため、管理監が不正の「におい」をかぎつけるのは容易でない。

管理監が「不正の疑いあり」と判断した場合は、資料提出を要求できるが、今度は省庁の「拒否権」が立ちはだかる。

政府関係者は「要求に応じないのは本当に機微に触れる秘密の場合で例外的」と説明するが、運用基準では「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」があると判断すれば拒否できるとされる。「おそれ」の解釈は省庁の自由だ。

管理監が特定秘密にアクセスし、不正を見つけた場合もハードルは残る。管理監は秘密指定解除を要求できるが、省庁は「適切な措置を講じる」とされるだけで要求に従う義務はない。

もう一つ、不正な情報隠しを暴く端緒が、管理監や省庁への「内部通報」だ。

だが、この場合、通報者は秘密の中身に触れずに通報しなければならない。窓口の職員が特定秘密を扱う資格を持っているとは限らないため、詳しく通報すると「秘密を漏らした」と問われかねないのだ。

管理監の権限が限定的な上、罪に問われるリスクがある仕組みでは、内部通報者を尻込みさせるだけだ。

「重層的な」チェック体制として、別に内閣官房に「内閣保全監視委員会」を置く。だが、監視委も官房長官や省庁の事務方トップである幹部官僚らによる「身内」の組織だ。第三者的なチェック機能は期待できない。

 

■指定基準―範囲・期間、省庁に裁量

運用基準は、秘密指定の範囲や期間を定めている。「拡張解釈の禁止」「報道・取材の自由の尊重」に留意するというが、役所の裁量が大きく、歯止めの役割を果たせそうにない。

秘密の指定対象について、法律は防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野で23項目を挙げた。運用基準では、透明性の確保のためとしてさらに55項目に細分化した。

しかし、例えば「スパイ活動の防止」で、秘密法が「国民の生命の保護に関する重要な情報または外国からの情報」とした項目は、運用基準で(1)電波情報、その他手段を用いて収集した情報(2)外国から提供された情報(3)以上を分析した情報と、見かけ上三つに分割されただけだ。「その他」という文言も多く、特定秘密の範囲は省庁の解釈次第でいかようにも広がる。

特定秘密の指定期間は「適切と考えられる最も短い期間」とされた。これも解釈は各省庁に委ねられ、秘密指定が半永久的に続いても防止策はない。

秘密指定は原則5年ごとに見直すが、その都度延長できる。秘密指定の期間が30年を超えた文書は「歴史公文書」として国立公文書館への移管を義務づける一方で、30年以内の文書は首相の同意を得て廃棄もできる、とされる。今月14日の最高裁判決は、沖縄返還の密約文書が秘密裏に廃棄された可能性があるとした二審判決を維持したが、こうした廃棄が完全に禁止されたわけではない。

政権にとって不都合な情報を隠す「裏技」として、「重要でないのに特定秘密の状態を半永久的に延長し続ける」「重要な文書なのに、あえて30年以内に指定して廃棄する」といった、両極端の抜け道が残される。

諮問会議委員の清水勉弁護士はチェック機関について「十分とは思わない」と指摘。「秘密指定が恣意(しい)的かどうかは、事後的なチェック機能にかかっている」とクギを刺した。

運用基準は秘密を扱う公務員らに対する適性評価の実施方法も定めた。余計なプライバシーに立ち入らないために統一した書式を使うが、飲酒によるトラブル、借金の状況から家族の国籍まで調べ上げ、記録は10年保存する。(相原亮、久木良太)

 

■特定秘密保護法施行の流れ

<2013年>

12月13日 特定秘密保護法公布

<2014年>

1月17日 第1回情報保全諮問会議

7月17日 第2回情報保全諮問会議

運用基準と政令の素案提示

約1カ月 パブリックコメント(意見公募

秋 運用基準・政令を閣議決定

12月 秘密法を施行

その後 年1回、情報保全諮問会議を開催

 

■運用基準・政令案のポイント

・指定省庁は外務省防衛省など19機関

・指定対象を55項目に細分化

・指定日や指定期間などを記した管理簿の作成義務づけ

・指定期間30年超の特定秘密は解除後に国立公文書館に移管。30年以下は首相の同意を得て廃棄可能

・独立公文書管理監が省庁の大臣らに特定秘密の提出や指定解除を要求。大臣らは拒否が可能

・独立公文書管理監と省庁に内部通報窓口を設置