6月4日、東京・永田町自民党本部。非公開で開かれた経済産業部会で、新潟県選出の衆院議員、細田健一が声を張り上げた。

「みなさんには毎週土曜日、官邸前で1万人くらい集まってほしい」

耳を傾けていたのは、日本経済団体連合会など17の経済団体の代表らだ。細田の地元には、東京電力柏崎刈羽原発がある。6、7号機は再稼働の前提となる審査を申請済みだ。

細田は経済産業省出身。安倍政権が誕生した2012年の総選挙で初当選し、原発は重要な電源だと繰り返し訴えてきた。官邸前で「脱原発」集会が頻繁に開かれるように、目に見える行動で再稼働を求めていこうと呼びかけたのだ。

終了後、経済団体の幹部らは経産相茂木敏充を訪ね、早期の再稼働を求める要望書を渡した。茂木は「安全性を最優先で取り組む」と応じた。「脱原発」が多くの支持を集めるなか、政権としては再稼働で前面に立ちたくはない。そんな政権の意をくんで、経済団体や自民党が前のめりに動いている。

民主党政権から安倍政権に代わり、原発の位置づけは大きく転換した。

経産省は政権交代後、原発を含めたエネルギー政策を検討する審議会の人選で、委員の大半を原発維持派に入れ替えた。4月に閣議決定した「エネルギー基本計画」は、原発を「重要なベースロード電源」として再稼働させる方針を明記した。

基本計画には、再稼働の次のステップも仕掛けられている。古くなった原発の建て替えや、原発を新たにつくる新増設だ。

昨年12月、首相のおひざ元、山口県庁の幹部が資源エネルギー庁を訪れた。中国電力は県内で上関原発の新設を計画している。「新増設の書きぶりはどうなるのか」。エネ庁幹部にそう尋ねると、率直な答えが返ってきた。「官邸に止められているから『新増設する』とは書けない。でも否定しないから大丈夫だ」

幹部の言葉通り、基本計画には「確保していく規模を見極める」と盛り込まれた。古くなった原発は原則、稼働40年をめどに廃炉にすることになっている。国内の原発は48基。再稼働を進めても原則通り40年で廃炉にするなら、13年後に半分を切り、23年後に5基だけになり、35年後の49年にゼロになる。「確保していく規模」とは、ゼロにならないよう建て替えや新増設を進めることを前提とした表現だ。

自民党の「電力安定供給推進議員連盟」。元官房長官細田博之が会長を務め、原発維持派の議員約150人が集まる。党のエネルギー関連の役職を歴任し、原発推進の立場を取ってきた重鎮だ。3月から12回の会合を重ね、電力各社から意見をきいた。

「新増設の方針を明確にしないと、上関原発が前に進められない」。中国電力の幹部はそう訴えた。非公開の会合では、原子力規制委員会の審査や原発停止による経営の厳しさなど電力業界の率直な物言いが相次いだ。議連は近く原発政策の提言を首相官邸に提出する。そこには、「技術や人材の維持・育成のためにも、原発の新増設・リプレース(建て替え)は不可欠」と明記している。

経産省では、川内原発が秋にも再稼働するのを待って、将来の原発比率を決める議論を始める。ある幹部は「新しい原発の方が圧倒的に安全。まずは建て替えから認めないと」と語る。

原発は必要だと訴えてきた側にとって再稼働は既定路線になった。次の焦点となる新増設や建て替えも、「福島の教訓」をあいまいにしたまま、政権の「別動隊」が着々と地ならしを進めている。(敬称略)