安倍内閣は22日、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を認めた1日の閣議決定時の議事録を公開した。安倍晋三首相は「我が国の平和と安全を一層確かにし、歴史的な重要性を持つ」と述べ、関連法整備に着手するよう指示。ただ、首相は閣議決定後の14、15日の国会で、閣議決定や与党協議で明示しなかった点の見解を相次ぎ表明した。国会で法整備が議論される前に、政府方針の既成事実化が進んでいる。

1日夕の臨時閣議は23分間で、世耕弘成官房副長官がA4判8枚の全文を読み上げた。安倍首相は、年内をめどに見直す日米防衛協力のための指針(ガイドライン)について「見直しと安全保障法制の検討は表裏一体。米国との協議を加速化してほしい」と指示。岸田文雄外相ら3大臣も所信を述べたが、行使に慎重だった公明党太田昭宏国土交通相は発言しなかった。

閣議の最後には、全閣僚が決定書に署名。閣議後の閣僚懇談会での発言はなかったという。

■8事例「要件満たせば行使」

閣議決定は、公明党の太田氏が署名できるよう、自民、公明両党の協議での対立点をあいまいに表現し、結論を先送りした部分も少なくなかった。しかし政府は、閣議決定後の首相答弁や、答弁を受けた内閣官房のホームページの「一問一答」では、公明党が難色を示したケースでも武力を使う道を開いた。このため、関連法案が提出されるまでに、政府・与党内で改めて議論が再燃する可能性もある。

与党協議では、集団的自衛権を使う想定例として示した八つの事例に対し、公明党が「警察権や個別的自衛権で対処できる」と反発。溝が埋まらず、8事例をめぐる議論は途中で棚上げされた経緯がある。しかし、首相は今月14日の衆院予算委員会で、野党から「集団的自衛権の8事例はクリアできるか」と問われると、閣議決定した武力行使の新3要件に「あてはまれば、武力行使ができる」と答弁。8事例はいずれも集団的自衛権を使えるケースとの考えを示した。

国連決議などに基づき、複数の国が侵略国を制裁する集団安全保障をめぐっても、公明党は武力を使える対象にはならないと主張していた。しかし、首相は14日、政府・自民の考えに沿う形で「新3要件の範囲で、集団安保でも(行使は)可能だ」と明言した。

公明党が激しく反発していた中東・ペルシャ湾のホルムズ海峡での機雷除去についても、首相は国会答弁で「経済に与える打撃で、中小企業も相当の被害を受け、多くの倒産も起き、多くの人たちが職を失う状況につながるかもしれない。そういうものも勘案しながら総合的に判断していく」と繰り返し強調した。

■歯止め効果、なお公明に異論

閣議決定に盛り込まれた武力行使の新3要件は「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」事態に限定し、さらに公明党の要求を受けて「明白な危険」がある場合にのみ、行使が許されるとした。しかし、同党内ではそれでも「歯止めにならない」との異論がくすぶる。

このため、首相は14、15日の国会答弁で「明白な危険」について新たな見解を示した。答弁によると、(1)攻撃国の意思、能力(2)事態の発生場所(3)その規模、態様、推移――などの要素を総合的に考慮し、(4)我が国に戦禍がおよぶ蓋然(がいぜん)性(5)国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから、客観的、合理的に判断する――という内容だ。

首相答弁が(4)や(5)に触れたことについて、公明党幹部は「地理的な制限は事実上できた。日本の周辺で起きる事態でしか、集団的自衛権は使えない」とし、歯止めになったと評価する。政府の見解を説明する内閣官房ホームページの「一問一答」でも「明白な危険の有無は、どのような基準で判断するのか」との問いに、首相答弁と同じ回答を載せた。

しかし、新たな見解でも「総合的に考慮」「合理的に判断」などあいまいな文言が含まれており、政府の裁量で武力行使をするかしないか判断できる余地は残っている。首相が「(解釈の)最高の責任者は私だ」と国会で答弁したように、最終的な決定権は内閣に委ねられているのが実態だ。

■ガイドライン、法案に先行

安倍首相は閣議の中で関連法案の立法作業について「直ちに作業に着手」するように指示した。しかし実際には、関連法案の国会提出は秋の臨時国会ではなく、来春の通常国会に先送りされる方針だ。

理由は二つある。一つは政治的なタイミングだ。安倍内閣支持率閣議決定後、報道各社の世論調査で下落傾向にある。直後の滋賀県知事選でも与党推薦候補が敗北し、自民党幹部は「敗因は明らかに集団的自衛権だ」と影響を認める。

安全保障政策をめぐり、政府・自民党との隔たりが目立つ公明党への配慮もある。公明は元々、集団的自衛権の問題が来春の統一地方選に影響することを避けたいと考え、法案審議を統一選後に先送りするよう求めていた。政府内では「秋の臨時国会に出来た法案から順次提出する」(官邸関係者)との方針も当初検討されたが、公明側に配慮することを決めた。

一方で、関連法の整備に先行して進むのが、今年末をめどに再改定される日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の協議だ。

ガイドラインは日本やその周辺で起きる有事(戦争)を想定し、自衛隊と米軍の具体的な役割分担を定める。1997年以来の改定だが、今回は日本が集団的自衛権を使える前提で、日米の連携や自衛隊の任務を固めるものになる。

安倍政権が描くスケジュールでは、ガイドラインの見直し協議後に関連法案を提出する見通し。このため来春以降の国会で野党が法案の修正などを求めても、政権側は米国との「約束」を理由に抜本的な見直しを拒む可能性がありそうだ。(久木良太、今村尚徳、園田耕司)

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集団的自衛権の8事例>

(1)邦人輸送中の米輸送艦の防護

(2)武力攻撃を受けている米艦の防護

(3)強制的な停船検査

(4)米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイル迎撃

(5)弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護

(6)米本土が武力攻撃を受け、我が国近隣で作戦を行う時の米艦防護

(7)国際的な機雷掃海活動への参加

(8)民間船舶の国際共同護衛