毎日新聞 2014年07月26日 東京朝刊
ソウルを訪問した舛添要一東京都知事が、青瓦台(韓国大統領府)で朴槿恵(パククネ)大統領と会談した。朴大統領が韓国で日本の政治家と2人で会談するのは昨年2月25日の就任以来、1年5カ月ぶりだ。安倍晋三首相との日韓首脳会談はいまだに実現の見通しがたっていない。日韓関係打開への手がかりになれば、という期待が高まったのは当然のことだ。
実際には、朴大統領は会談冒頭から歴史認識に言及し、従軍慰安婦問題解決のための日本政府の努力を求めた。事実上、安倍政権批判にあたる発言もした。舛添知事との会談で展望が開けたという状況ではない。 しかし、日韓双方の識者や少なからぬ国民の間に「このままではいけない」という認識が高まっているのも厳然たる事実だ。
日本の「言論NPO」と韓国のシンクタンク「東アジア研究院」が今月発表した共同世論調査によれば、現在の日韓関係を「改善する必要がある」「望ましくない状況だ」などと考える人は日本で6割、韓国では7割に上った。首脳会談が開かれないなど政府同士では対立が続いているが、国民レベルではそうした現状への懸念と関係改善を求める声が強いことが明らかになっている。
厳しい摩擦があるにしても日韓関係を破綻させてはならないし、双方の国民が穏当な交流や冷静な競争を継続できる関係を維持すべきだという認識こそ、現時点での両国世論の確かな底流と見るべきだろう。
もちろん日韓摩擦の材料には事欠かない。今月だけでも中国の習近平国家主席訪韓に際し、歴史認識に関する中韓共闘と見られかねない発言があり、ソウルで毎年実施している自衛隊の創設記念行事が一部韓国世論の過剰反応のため会場変更を余儀なくされるという珍事も起きた。
しかしこの件では韓国内で批判の声が強い。ソウルで予定された日本の人気漫画「ONE PIECE」(ワンピース)の特別展が、やはり一部世論の反発で中止されそうになったが、裁判所は契約通り開催すべきだという決定を出した。しばらく前には韓国大手紙が日本政府に対して強硬すぎる外務官僚を厳しく批判したこともある。
韓国から日本に伝わってくる批判はしばしば一方的すぎるが、常にそうだというわけではなく、穏当な見解の持ち主も決して少なくない。
日本国内には日韓関係の前途を過剰に悲観する見解や反韓感情をあおる書籍などが増えてしまったが、そうした現象は事態を悪化させることはあっても改善させることはない。日本政府も一般国民も、韓国の過激な側面より穏当な側面に注目しつつ、日韓関係を見つめるべきだろう。