太平洋の真ん中にあるハワイで、環太平洋合同演習(リムパック)が開かれている。今年は中国海軍が初参加した。その狙いは何か。日米中の関係は、戦争の記憶が折り重なる太平洋からどう見えるのか。ハワイの有力シンクタンク、パシフィックフォーラムCSIS(戦略国際問題研究所)のラルフ・コッサ所長に聞いた。

――リムパックへの中国海軍の参加にどんな意義があるのでしょう。

「中国が、海上での連携をもう少し学ぶことが重要です。他国の将校と、偶発的な衝突をどう回避するか議論するよい機会でもあります。人民解放軍は、米国が敵になりつつあると見ているフシがある。こちらが扉を開くことで相互理解が進むのなら、それはよいことです」

――中国軍を利することにはならないですか。

「少しは心配な部分もありますが、彼らをコントロールセンターに招き入れて、指揮の技術を提供するわけではない。逆に、米国に挑もうとするような軍人は、空母の飛行甲板で演習を見れば、米国に敬意を持つようになると思います」

――日米の連携ぶりを見せれば、中国が尖閣諸島などでの挑発行為を控えるとの期待もあるようですね。

「それが中国を招いた主な理由ではないと思いますが、一つのメリットではあると思います。中国軍は、日米との格差をはっきりと目の当たりにするでしょう」

「一方で、私はアジアの人々に『オズの魔法使い』効果に注意するように言っています。皆が巨大な魔法使いを恐れていたが、スクリーンの裏をのぞいたら小男が大きな影を映していた、というあの物語です。いまの中国は『巨大な姿に見せかけている小男』です。将来は軍事的脅威になる可能性はあるが、あと10年、20年はそこまで行かない。米国の同盟国が、米国や日本と、中国との差を実感することも重要です」

――尖閣をめぐる日中の偶発的な衝突を懸念していますか。

「過度な心配はしていませんが、少々不安に感じるのは、日中双方が、この問題をうまく取り扱えるという根拠のない自信を持っているように見えることです。脅しあいを続けながら、実際の衝突を避けられるのではないかと。しかし、何が起きるかはわかりません」

「事故や衝突が両国の戦争につながるのかといえば、それはないと思います。事件が起きたら、双方が事態をコントロールするでしょう。ですが、そうした事態は間違いなく、相手への反発を呼び起こします。両国の関係はより複雑で困難なものとなり、建設的な関係に向かうことが難しくなると思います」

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――南シナ海でも、中国の攻撃性が目立っています。

「中国側と話すと、問題を起こすのはベトナムフィリピンだと非難し、フィリピンが攻撃性を増しているといいますが、おかしな話です。2002年の『南シナ海行動宣言』で、各国は現状を変えないと約束しました。フィリピンベトナムが行動宣言に違反する行為を全くしなかったとはいえませんが、中国側の違反行為の多さは明白です。第1段階としては、02年までさかのぼり、それ以降の変更点を元に戻すべきです。中国の誠実さの試金石になると同時に、マレーシアベトナムフィリピンの誠実さも試されます。これこそが必要なことです」

――ヘーゲル米国防長官は、「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」で、中国の南シナ海での活動を「一方的な行動だ」と批判しました。

「中国に対する非難を強めたものでした。中国が自己主張にとどまらず、米国の信用を傷つけようとしているのではないか、と見たためではないかと思います。私が最も心配しているのは、中国が南シナ海東シナ海で、米国の同盟国を標的にしているようにも見受けられることです。中国の行動が、米国の衰退や弱さを示すためのものだと米国が結論づけた場合、米国は強硬な態度を取らざるをえません」

――オバマ米大統領の「アジア重視」は単なるスローガンだと批判する人もいます。

「スローガンであることは間違いありません。米国は政権が代わるたびにスローガンを変えていますから。米国がアジアに焦点をあわせる政策は、冷戦終了後、ブッシュ(父)政権からの一貫した政策です。1990年に、21世紀はアジアの世紀になると予想した人々の予言は正しかったのです」

「しかし、政権は、ハワイ生まれのオバマ氏が『初の太平洋(パシフィック)大統領』として、この政策を新発見したかのようなイメージにする必要がありました。これは事態の混乱を招いたと思います」

――「アジア重視」は、中国に対抗する狙いがあるのでしょうか。

「米政府の正直な答えは、『いまのところはノー』です。中国に対抗するものではない。目的は、アジアにおける米国の国益の追求です。それを中国が侵そうと決め、アジアから米国を追放しようとするなら、『アジア重視』政策は、中国の動きへの対抗となるでしょう」

「米国の中国への期待は明白です。法の支配を受け入れ、対立を平和的に解決する、建設的で協力的な国家です。ところが、中国は東シナ海南シナ海で腕力を見せつけようとしている。平和的に台頭する国ではないと思わせることになり、長期的に見て中国の利益にはならないと思います」

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――オバマ大統領が訪日の際、尖閣に日米安保条約第5条が適用されると明言したことをどう見ますか。

「5%は中国に対しての抑止効果ですが、残りの95%は念押しで日本を安心させるためのものでしょう。尖閣問題は、日中間で平和的に解決すべきだと、米国は思っています。しかし、もし中国が攻撃を仕掛け、島々を奪おうとしたら、日米同盟が適用される。日本がこれについて疑念を抱き、何度も繰り返し質問をする理由が理解できません」

――安倍晋三内閣が、集団的自衛権の行使容認を閣議決定したことについて、どう見ていますか。

「私たちが主催した会議で、米ハーバード大のジョセフ・ナイ教授は『集団的自衛権の政策パッケージは正しいが、その包装の仕方、売り出し方はお粗末だ』という趣旨の発言をしました。私は的を射たコメントだと思いました。北朝鮮が発射したミサイルが日本を飛び越えてハワイに向かったとしても、いまの解釈では撃ち落とせない。それでは良き同盟国とはいえません」

「そうはいっても『包装』は適切にする必要があります。第2次世界大戦の歴史について『日本は、東南アジアを解放しようとした』といった見方をしたり、河野談話の再検証の議論がはじまったりすると、日本に批判的な人々に『そらみろ、日本の再軍国化だ』と叫ばせる材料を提供してしまう。日本は自らを不利な状況に置くことになります」

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――賢くない議論だと。

「日本が1945年以前の話を持ち出したら、分が悪くなります。南京大虐殺が30万人規模ではなく5万人だったとしても、旧日本軍従軍慰安婦問題で強制性がなかったとしても。『悪かった』『ひどく悪かった』『ものすごく悪かった』の違いで議論に勝てたとしても、『悪かった』ことには変わりはない。でも、歴史は1945年で終わっていません。20世紀後半に日本ほど優れた足跡を残した国はありません。平和主義を追求し、世界の多くの国の再建に尽くしてきたのは日本です」

「安倍首相はPRの仕方を改善すべきです。歴史を修正したがっている人たちとは距離を置き、紛争解決の手段として武力行使をしないという立場を、もう一押し明確にすべきだと思います」

Ralph A.Cossa パシフィックフォーラムCSIS所長 1943年生まれ。米空軍士官、スタンフォード大学フェローなどを経て、2002年から現職。

■取材を終えて

連合国の軍高官が乗り込み、日本の降伏文書調印式が行われたのは、1945年9月の東京湾、米戦艦ミズーリの甲板上だった。

ミズーリ号は退役後、ハワイの真珠湾につながれ、博物館となっている。すぐそばには、日本の奇襲攻撃を受けた戦艦アリゾナ。米兵千人以上の遺体とともに沈んでいる。

ミズーリ号からは、リムパックに参加する米軍や日本の自衛隊中国軍の艦船がよく見えた。

各国で異なる戦争の記憶。ハワイはその交差点でもある。新たな戦争の芽を摘むために、政治家、軍人、私たち有権者はどう行動すべきか。真珠湾は、その問いを私たちに突きつける。(アメリカ総局長・山脇岳志)

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環太平洋合同演習(リムパック)> 米海軍が主催し、ハワイ沖で行われている大規模な軍事演習。1970年代から原則2年に1度、開かれてきた。今年は6月末から8月1日まで、日本の自衛隊を含め22カ国が参加。米国の招待を受け、中国軍が参加したことが話題になっている。他の参加国はオーストラリア、韓国、カナダフランス、ノルウェー、インドなど。

◆英文は朝日新聞の英語ニュースサイトAJWに掲載しています。http://ajw.asahi.com/