南原繁と集団安全保障、自衛権問題について

森田さん

集団的安全保障と集団的自衛権の違いは国際関係論の授業の試験に出題されるほど常
識なので、異議はありません。

ただ、「私が関心をいだいているのは、このたび日本政府が集団的自衛権の行使を認
めた結果、日本が国連の「集団的安全保障」に参加する途が拓けたのかも知れないと

う側面です。これは南原先生が望んでいた全面講和に基づく集団的安全保障体制に基
づく日本の平和維持が可能になるかも知れない、もう一つの可能性が拓けたというこ
となのかも知れません。」
と仰るのは、日米同盟を前提とした集団的自衛権を半ば認めることになるので、同意
はできません。南原が考えた集団的安全保障への道は、マルティラテラルな外交政策
を通してのみ開かれるというのが私の見解です。

山脇直司

—–Original Message—–

Subject: [public-peace:13479] Re: 南原繁と集団安全保障、自衛権問題について

宮崎さま&山脇さま

森田明彦です。
私の理解では、集団的安全保障と集団的自衛権はまったく別物です。
全参加国が紛争解決の手段として武力行使を行わないと約束し、ある国が他国に武力
行使を行ったときには全加盟国に対する武力行使であると判断して、武力行使を行っ
た国に対して全加盟国が協力して制裁を課すというのが「集団的安全保障」ですか
ら、基本的に国連加盟国はその他の国連加盟国すべてを敵に回して戦う覚悟がない限
り武力を行使することは出来なくなります。
もちろん、実際には集団的安全保障のための国連の制度は完成していませんから実効
性はないわけで、それが現在の国連の最大の課題でもあるわけですが、理論的には
「集団的安全保障」と「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直
接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」である「集団的自
衛権」とは別物です。

南原先生が言っていることは、国連加盟国として「集団的安全保障」制度に参加する
のであれば、この制度のもとでの武力行使が可能な憲法改正が必要で今後必要になる
かも知れないということで、日米同盟に基づく相互防衛義務を対等化するために集団
的自衛権の行使を認めるべきという議論とはまったく論旨が違うと思います。

ただ、私が関心をいだいているのは、このたび日本政府が集団的自衛権の行使を認め
た結果、日本が国連の「集団的安全保障」に参加する途が拓けたのかも知れないとい
う側面です。
これは南原先生が望んでいた全面講和に基づく集団的安全保障体制に基づく日本の平
和維持が可能になるかも知れない、もう一つの可能性が拓けたということなのかも知
れません。

—–Original Message—–

宮崎文彦様

今、手元に南原著作集がないので、私なりの雑駁な見解を申し上げます。

南原繁は、当初(ヒットラーのような)暴君が侵略した場合に、非武装中立では東洋
的な諦観主義に通じるが故に(日本共産党と同様)憲法9条に疑念を呈し、「軽武装
中立主義」を採っていたように思います。
また、下記の「集団的安全保障」に関する言明については、もしヒットラーのような
暴君が他国を不法に侵略した場合に、(アメリカ中心主義でない形での)国連安保理
が満場一致で要請したのであれば、武力以外の協力を行うのが妥当という声明のよう
にも読めますし、現在では小沢一郎や公明党が考えている第9条に第3項を加えるとい
う「加憲」論に近い考えのようにも読み取れます。
しかし「全面講和」を唱えた南原は、アメリカと二国同盟(安保条約)を結ぶないし
続けることには賛成しえなかったはずであり、「アメリカの交戦相手への参戦権」に
他ならない「集団的自衛権」など決して認めなかったはずで、その点で苅部氏の今回
の論説は誤謬も甚だしい、というのが私の見解です。

山脇直司

—–Original Message—–

Subject: [public-peace:13475] 南原繁と集団安全保障、自衛権問題について

公共哲学ネットワーク、公共民フォーラム
地球平和ネットワークのみなさま

引き続きまして千葉大学の宮崎です。シンポジウムでは
南原繁の平和論についてお話させていただくことになって
おりますが、昨今の状況との関係では先に言及しておくべき
ことがあるかと思われます。

すでにお読みになられた方もおられるかと思いますが、
集団的自衛権に関する閣議決定がなされた、その7月1日
に東大の苅部直氏(日本政治思想史)による「『右傾化』の
まぼろし――現代日本にみる国際主義と排外主義」と題する
論説がインターネット上に公開されました。
http://www.nippon.com/ja/in-depth/a03201/

このなかで南原繁も取り上げられ、1946年8月27日貴族院
本会議における質問演説(著作集第9巻所収)が引用され、
憲法が前文で掲げる国際協調主義の原則を貫くならば、集団
安全保障の実行に日本も加わることができるようにしなくて
はいけないという主張として紹介されています。
苅部氏の議論は、一般的にカントを範とする平和思想を
唱えた南原繁でも、集団安全保障や集団的自衛権も認めて
おり、決して現政権が右傾化しているわけではないという
主旨で南原が取り上げられています。

しかしながら、このような取り上げ方には疑義が生じます。
まずはこの発言は、貴族院における貴族院議員としての南原繁
の「質問」であるという点。「質問演説」とされていることから、
「演説」に重点を置き、南原の主義主張を示すものと解釈され
ているようですが、質問は何かしらの意図、あるいは期待される
回答を念頭においてのものです。

ではこのような質問の趣旨がどこにあったのか、その手がかり
を知るには、さしあたり2つの資料が役に立ちます。一つは、
『南原繁著作集』(岩波書店刊)の第7巻に収録された1951年3月
28日東大卒業式における演述「平和か戦争か―日本再建の精神的
混乱」です。
このなかで南原はこの質問に触れ、吉田首相並びに幣原国務相
の答弁を紹介したうえで、次のように述べています。

「かようにして、戦争放棄と軍備撤廃の現在の憲法は、議会のほとんど全一致に
よって承認、成立したのであった。それゆえに、目下、問題となっているところ
の、わが国の再軍備が憲法違反であるか否かの憲法論は、たといそれが自衛権行
使のためであっても、否定的に解釈されねばならない」(379頁)

また、もう一つ、より詳細に言及されているのが、著作集第9巻
に収録された「第九条の問題」です。これは政府の「憲法調査会」
とは別に、有志学者・思想家によって組織された自由の団体である
「憲法問題研究会」において昭和37(1962)年1月13日での報告に、
少し加筆されたものです。

実はこの中で南原は集団安全保障については積極的な姿勢を見せて
おり「不法の暴力に対しては、国内的にも国際的にも、何らかの実力
をもって、これを阻止し、防禦する必要があるのではないか」と述べ、
国際連合に加入した場合、「今後国際警察のごときものが組織され、
戦争と同質の国際的暴力行為を抑制する場合、日本はいつまでもこれに
参加し、寄与する義務を免れることはできないであろう」とまで言及を
しています。

この発言だけを取り上げると苅部氏の解釈も妥当であるとも思える
のですが、しかし南原はこれに続けて次のように述べています。

「新憲法が議会を通過、成立した後、私は憲法上の疑義の残っている自衛権の問
題は暫く措いて、新しい教育の関係も考慮し、むしろ憲法にかかげる平和の根本
精神を生かすことに主力をそそぎ、政治的には積極的中立の立場を取るとともに、
日本の再武装を防ぎ、非武装の原則がやがて世界の全面的軍縮への道であること
を説いた。ここに一、二の誤解または曲解する人があって、私の意見が変って、
急に平和論者に転向したと言うものもあったようであるが、私の根本の立場に変
更はない」(131~132頁)

南原にとって永久平和は理想であり、その一方で現実としての不法行為
に対する警察的対象の必要性は考えられるべきであるというのが、イデアル・
レアリスト (理想主義的現実主義者)としての姿勢を表したものですが、
彼にとっての理想と現実を読み誤ると苅部氏のような解釈につながるのでは
ないかと思われます。南原の貴族院における質問演説は、新憲法制定過程に
おいて第9条の意義を問いただし、それが連合軍からの押し付けではない
ものとして「言質」をとるという意図をもってなされたものとして解釈
されるべきではないかと私は考えます。

シンポジウムでは、このような議論も含めつつ、南原繁の政治哲学から、
彼の理想としての「天の国」と現実の「地の国」の関係についてお話し
できればと考えております。

宮﨑 文彦  MIYAZAKI Fumihiko
千葉大学法政経学部非常勤講師
人文社会科学研究科特別研究員
博士(公共学)
f-mt@restaff.chiba-u.jp
♪♪

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