Global Ethics


そこが聞きたい:戦争と科学者の責任は 益川敏英氏 by limitlesslife
September 18, 2014, 2:07 am
Filed under: 真理=因縁生起=倫理, 科学(分科学:知)

毎日新聞 2014年09月17日 東京朝刊

益川敏英さん=森園道子撮影
益川敏英さん=森園道子撮影

 ◇核兵器の怖さ、次世代に−−日本パグウォッシュ会議諮問評議会委員・益川敏英氏

世界の科学者が参加し、戦争廃絶を目指す「パグウォッシュ会議」=1=が戦後70年の来年11月、長崎市で開かれる。防衛と民生両用の技術開発の動きが進む。準備を担うノーベル物理学賞受賞者、益川敏英さん(74)に科学者の責任を聞いた。【聞き手・千葉紀和、写真・森園道子】

−−戦後70年に「パグウォッシュ会議」を日本で開く意義は。

二つあります。一つは被爆70年に長崎で開催することで、改めて被爆を現実の問題として世界にアピールできる。もう一つは、若い世代への継承です。戦後70年を迎え、戦争と核兵器の怖さを本当に知る世代が、科学者の中でも少なくなっています。ヒロシマ・ナガサキの後、太平洋での米軍の水爆実験で日本の漁船員が被爆した事件(1954年)が起き、反核運動が高まります。そうした機運の中で、核兵器を生み出した科学者が自らの責任を問いかけ、核廃絶と平和的な紛争解決を目指すパグウォッシュ会議が発足しました。日本からも高名な先生が参加し、若造だった私は手伝いました。ですから、その時代の雰囲気を感じてきた世代なんですね。次の世代を引っ張り込み、受け渡す任務が我々にあります。我々が非常に重要だと思います。

−−安倍政権の国家安全保障戦略や防衛計画大綱では、安全保障分野の産官学連携や、防衛にも応用可能な民生技術(デュアルユース技術)で、大学との共同研究も期待されています。

私に言わせれば、なめられているんだと思います。そういう変なことは、以前ならつぶされたでしょう。今も個々人はおかしいと思っているかもしれませんが、社会の中に勢力として顕在化しなくなりました。特に研究者は軍事研究に対するアレルギーがはっきりありました。でも、若い世代は抵抗感が薄くなっているのかもしれません。背景に、研究費の問題もあります。近年は競争的資金が増え、研究者が資金を獲得するために作文して、成果を出すようになりました。研究者は研究できないと食べていけない。お金の面で研究者の意識が変わるし、実質的にそうなっていますね。

−−研究者の意識、倫理観が改めて問われていると。

科学技術というのは使おうと思ったら何でも使えます。研究者の手をいったん離れたら、簡単には制御できません。防衛に限った共用は軍事研究ではないという考え方もあるようですが、それは違います。例えば、レーダーに探知されにくいステルス技術の戦闘機は防衛とも言えますが、先制攻撃できる兵器です。意識の問題は、研究者個人に期待してもダメだと思います。もっと全体の層として、あなた方はそれで良いのかという問いかけと、それに対する反応に期待するしかありません。パグウォッシュ会議は間接的ですが、問いかけの機会になるでしょう。

−−今会議の主要議題は「被爆70年、核なき世界の実現を」です。来年は核拡散防止条約(NPT)再検討会議も開かれますが、核廃絶には程遠い現実があります。

パグウォッシュ会議がノーベル平和賞を受賞してから20年になります。東西冷戦下では部分的核実験禁止条約への貢献をはじめ、実際に政府関係者を呼ぶなど、難しい局面を地ならしするような役割もありました。時代が変わり、超大国中心の問題から、今や発展途上国にまで核兵器が拡散しています。北朝鮮が持つような状況を、この会議は想定していなかった。今は地域紛争も大きな問題です。時代に対応した運動やメッセージが必要だと思います。

−−福島第1原発事故は新たな核の被害者を生み出しました。

会議では「福島の教訓と科学者の社会的責任」も議題になる予定です。今、手っ取り早い答えは「原発はもう使うな」でしょう。私は危険性を十分理解し、安全対策のためのコストも払って、覚悟を持って使うべきだと考えています。その間に、早く次の安全なエネルギー源を確立しましょうと。有限な化石燃料を使いまくって、後は知らんよというのはないと思うからです。理論物理学者の大先輩、武谷三男(1911〜2000)は、安全性とは「許容量」だと言いました。利益と不利益のバランスの問題で、社会の監視力が問われていると思います。ただし、原発利用はプルトニウムを生み出し、日本も核兵器を製造できる量を保有しています。難しい問題だからこそ、正直に語り合うことが必要です。

−−継承という意味で、後進の科学者に伝えたい思いは。

私は名古屋大時代の恩師で核廃絶運動に注力した坂田昌一(1911〜70)の姿勢に影響を受けました。坂田先生は若手に対して直接何も言いませんでしたが、見よう見まねで、あるべき姿を教わりました。「ラッセル・アインシュタイン宣言」=2=も一字一句精読しました。核によって人類が滅びるという危機感に満ちた文章です。でも私は、抽象論と感じ、米海軍の原子力空母が佐世保に入港する事件(68年)などを踏まえ具体的にとらえようとしてきました。若い科学者は、現実の地球で起こっている問題に目を向けてほしいと思っています。

 ◇聞いて一言

宇宙開発、ロボット、情報通信……。最先端研究を取材していると、科学技術がもたらす恩恵に驚く半面、時折不安が募る。日本学術会議は99年の報告書で、科学者の責任について「自己の研究が新たな平和問題をもたらす危険性を絶えず自覚し、反省して研究することが大切」と記した。歴史を顧みれば、研究者の手を離れた科学技術がどう使われるかは、時代の空気と不可分だ。戦後70年を迎える今、その空気は変質していないだろうか。益川さんの語る「継承」と共に、メディアとして問い直す責任を感じた。

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■ことば

 ◇1 パグウォッシュ会議

東西冷戦下で核開発競争が激化した1957年、第1回会議がカナダの漁村パグウォッシュで開かれたことから命名された。世界の学者が個人の資格で参加する会議で、核や大量破壊兵器の廃絶を目指して具体的提案を続けている。第1回会議には湯川秀樹、朝永振一郎両博士ら10カ国22人が参加した。95年、当時のロートブラット会長と共にノーベル平和賞を受けた。日本では95年と2005年に被爆地・広島で開催された。

 ◇2 ラッセル・アインシュタイン宣言

1955年に英国の哲学者で数学者のバートランド・ラッセル卿(50年ノーベル文学賞)が起草、物理学者のアルバート・アインシュタイン博士(21年ノーベル物理学賞)や湯川秀樹博士(49年同)ら11人が署名し、世界に発表した宣言。核兵器廃絶と平和的手段による紛争解決を訴え、世界の科学者や市民に賛同を求めた。

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■人物略歴

 ◇ますかわ・としひで

1940年生まれ。京都大基礎物理学研究所長を経て、京都産業大益川塾塾頭、京大名誉教授。日本パグウォッシュ会議諮問評議会委員。

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