2014年12月17日05時00分
この衆院選で、沖縄は二つの異例な経験をした。
まず、安倍晋三首相率いる自民党が圧勝したなか、沖縄では4選挙区とも自民党の候補が敗れ、米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する非自民候補が勝ち抜いた。11月の知事選で、移設反対を掲げた翁長雄志氏が圧勝した流れが続いたのだ。「辺野古ノー」の民意は強固で、移設はいっそう難しくなっている。
もう一つは、解散表明から全国を飛び歩いた安倍首相も、沖縄問題を統括している菅義偉官房長官も、沖縄に入らなかったことだ。国の方針に反対する意見が強い地域にも飛び込んで対話を進めるという姿勢は見られなかった。
消費増税を先送りしたい安倍首相は、財務省や与野党の増税派を抑え込むために解散に打って出た。自民圧勝を受けて増税は延期される。しかし、普天間問題のように、解散して与党が勝ったからといって解決できない難問を、いまの日本は山ほど抱えている。
原発再稼働、財政赤字削減、少子高齢化対策、そしてアベノミクスでも成果が出ていない成長戦略……。
これらは首相が一つ一つ論点を明確にして関係者を説得していかなければ解決に向かわない。気の遠くなるような地道な作業が求められる。ならば丁寧に合意形成を進めるしかない。そのための場所が国会だ。
圧倒的な数を手にしたいまこそ、安倍首相には熟議と説得の政治をリードする責任がある。思い起こすのは、竹下登氏や宮沢喜一氏ら首相経験者が在任中に口にしていた言葉だ。「首相の仕事は、坂道で荷車を押し続けるようなものだ。手を緩めれば坂を転がり落ちる」。安倍首相には、その覚悟をかみしめてほしい。
来春には、集団的自衛権行使容認に伴う関連法案の審議が控える。安全保障政策の転換となる議論を数で押し切ることはないだろうか。首相の試金石だ。経済や安全保障の懸案は、政権が全精力を注いでも片付けるのは容易ではない。並行して憲法改正にも力を振り向けるほどいまの自民党がエネルギーを蓄えているとは、私には思えない。
一方、衆院選で見えたのは野党のひ弱さだった。民主党は下野から2年、候補者発掘と新しい政策作りという地道な作業を怠った。小渕優子前経済産業相の政治資金スキャンダルは追及したのに、選挙区では対立候補を擁立できない。有権者はそこに力不足を見て取ったのだ。2大政党の一翼を担う覚悟があるなら民主党は政策や野党共闘をめぐって党内討議を尽くし、その後は団結して政権と向き合わなければならない。この党は力を合わせて荷車を押す作法を身につける時である。
▼3面に関係記事