初期キリスト教の教父たちは、ギリシア人は哲学のほとんどは、エジプト人から学ん
だことを知っていた。（エジプト人はメソポタミアやペルシアから学んだ。）
１５世紀生まれの天文学者、コペルニクスは、古代ギリシアのアリスタルコスらの地
動説を復活させたが、彼は地動説（太陽中心主義）は、エジプトの太陽神信仰に由来し
、ギリシア文化がエジプト文化をふまえていることを心得ていた。
しかし、１７世紀頃から、大転換が始まる。
ヨーロッパ人がアメリカ大陸、アフリカ大陸を植民地化し、黒人を奴隷化しはじめた
時期から、ヨーロッパ中心主義、人種差別思想が形成されるようになる。
「自分たちは唯一正しい普遍的な文化文明を持ち、他の人種からは無関係で無影響。」
「他人種は野蛮で自力では進歩できない。」
「他の人種を支配、指導するのは当然かつ正当な権利であるどころか、義務である。」
といった考え方である。
さらに、ジョン・ロック、ヒューム、モンテスキュー、ルソー、マルクス、マックス
・ウェーバーら人種差別を正当化する思想家が、次々に登場し、
「アフリカやアメリカ原住民は農耕をしていない、すなわち土地を活用していないから
奪ってもよい」
「アフリカは文明がない暗黒大陸である」
「アジア人は信用できない」「アジアは停滞している」
といったことを言うようになった。基本的人権、自由、平等、民主といった近代思想
は、このような人種差別思想とつながっていた。
■現在も続く歴史の改竄
人種差別思想を決定的にしたのは、インド＝ヨーロッパ語族の発見であった。ギリシ
ア語、ラテン語、ヨーロッパの諸語、サンスクリット語が同じ語族だという「発見」で
ある。（この「発見」は、人種差別思想が生んだ「発明」である疑いが濃厚である。）
いつしか、語族は、人種と同一視され、かつてアーリアン人という優秀な人種がコー
カサス山脈あたりにいて、西のヨーロッパ、東のインドを支配するようになったのだ、
というアーリアン仮説が生まれる。
（ナチス・ドイツは、このアーリアン仮説と自分たちはアーリアン人の唯一正当な後
継者だという「思いこみ」に基づいて戦争とユダヤ人撲滅を開始する。）
ヘーゲルらドイツの歴史学者の影響は大きい。ナポレオン戦争で惨敗したドイツ（当
時のプロイセン）は、政治・教育改革に際し、古代ギリシア文化を理想とし、ギリシア
語がなぜか必修科目になってしまう。そして、いつの間にか、古代ローマ文明は古代ギ
リシア文明よりも劣っている、というようなギリシア文明礼賛主義が、定説になってし
まった。（日本の歴史教育はドイツ歴史学の影響を受けている。）
現在も、インド＝ヨーロッパ語、ギリシア語学者はエジプト語とギリシア語の関係を
無視し、宗教学者はエジプトとギリシアの宗教が共通の神々を持っていたことを認めた
がらないなど、「アーリアン・モデル」による歴史の改竄は続いている。
（例えば、アテネAtheneは、エジプトの女神At Neit、スパルタSpartaはエーゲ海のエ
ジプトの地名Spataに由来している。また、ヘロドトスは、ギリシアとエジプトで同じ
ような儀式が行われており、偶然の一致とは思えないと言っている。）
■偏ったままの日本の歴史教育
古代エジプト人や古代ギリシア人が白人か黒人かどうか、といったことは、今後、仮
説の検証を続けて明らかにすればいいと思うが、問題に思うのは、未だに歴史教育が、
ほとんど偏見としか思えないヨーロッパ中心主義のままになっていることだ。
日本の世界史の教科書は、上記で指摘したような偏った歴史観で書かれているし、歴
史以外の学問研究でも、例えば哲学といえばギリシア哲学から、美術といえばギリシア
彫刻からはじめることになっているのが当たり前の状況に象徴されるように、悪影響が
残されたままである。
（心ある日本の歴史学者の中には、新しい歴史的発見があるにもかかわらず、未だに、
教科書の中身が６０年前のナチス・ドイツのアーリアン思想の頃から変わっていないこ
とを指摘、嘆いている方もいるようだ。）
http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=87087
MLホームページ: http://www.freeml.com/public-peace
地球倫理：Global Ethics 