社説:周辺事態法の改正 根底覆す乱暴な提案だ

毎日新聞 2015年02月21日 東京朝刊

 これは、政府が日本の安全のために必要と判断すれば、いつでもどこでも米軍やオーストラリア軍に補給や輸送などの後方支援ができるようにするという提案だ。

政府は20日の安全保障法制に関する与党協議で、現行の周辺事態法を改正し、「周辺事態」という事実上の地理的制約を撤廃する方針を示した。法律名も変更するという。米軍など他国軍への自衛隊の後方支援が際限なく拡大し、地球規模で米国の戦争を手助けすることになりかねない。改正とは名ばかりで、法律を作り替えるような内容だ。

 ◇地理的制約を維持せよ

政府は協議で、他国軍への後方支援などをめぐって3本の法律を整備する考えを示した。

一つは「国際社会の平和と安定」のための後方支援や人道復興支援の法整備だ。これまで時限立法の特別措置法をその都度、制定してきたやり方を変え、新たに恒久法を制定し、随時、自衛隊派遣を可能にする。

二つ目の「日本の平和と安全」を目的とした後方支援では、周辺事態法を改正し、地理的制約を撤廃するとともに、支援対象を米軍以外の他国軍にも広げる。支援内容も弾薬の提供を解禁するなど大幅拡充する。

三つ目の国連平和維持活動(PKO)をめぐっては、PKO協力法を改正し、武器使用権限を正当防衛のようなものにとどまらず、任務遂行のためにも認めるようにする。

周辺事態法は、朝鮮半島有事や台湾有事を想定し、米軍への自衛隊の後方支援を可能にしたもので、1999年に制定された。日本への武力攻撃はないが、日本周辺で日本の平和と安全に重要な影響を与える事態を「周辺事態」と規定し、武力行使をする米軍に対し、自衛隊の支援内容を定めている。日米安保条約を効果的に運用し、日本の平和と安全を確保するのが目的だ。

政府は、周辺事態は地理的概念ではないと説明してきたが、当時の小渕恵三首相が「中東やインド洋で起こることは想定されない」と国会で答弁するなど、事実上の地理的制約と考えられてきた。

今回の提案で政府が念頭に置くのは、中国が海洋進出を強める南シナ海などで、米軍やオーストラリア軍への後方支援を可能にすることとみられる。

米第7艦隊のトーマス司令官は先月、ロイター通信のインタビューで、自衛隊が東シナ海で行っている監視活動を将来的には南シナ海でも行うよう期待感を示した。

司令官発言は平時の監視活動に関するものだが、日米両政府が改定作業を進める防衛協力の指針(ガイドライン)の中間報告は、自衛隊と米軍が平時から緊急事態まで切れ目のない協力を行うとしている。地理的制約が撤廃されれば、自衛隊の後方支援は南シナ海だけでなく、インド洋や中東でも可能になるだろう。

米国と中国の力関係が変化し、国際情勢は多極化とも無極化とも指摘される。米国は日本やオーストラリアなど同盟国との安全保障協力の強化を目指し、日本は安倍政権の積極的平和主義のもと自衛隊の海外活動を拡大しようとしている。今回の安保法制整備にはそんな背景がある。

 ◇際限なくなる米軍支援

安倍晋三首相が強調する「切れ目のない安全保障法制の整備」は平時から有事までという時間軸をイメージしていたはずだった。ところが今回の提案をもとに法整備が実現すれば、地理的にも切れ目なく地球規模で自衛隊が活動できることになる。

そもそも周辺事態法はまだ一度も適用されたことがない。

周辺事態法には賛否両論あるが、朝鮮半島有事を考えれば、自衛隊が武力行使と一体化しない範囲で米軍に補給、輸送、医療などの後方支援を行う事態はあり得るだろう。さらに国民の十分な理解があれば、支援内容などを一部見直して必要最小限の法改正をすることも検討していいだろう。だが今回の提案のような無制限の拡大は受け入れられない。

恒久法については、国連決議を条件に、事前国会承認など厳格な歯止めをかけたうえで、多国籍軍への自衛隊の後方支援を可能にする新たな法整備を検討する必要性は理解できる。だが、それはあくまでも地理的制約がかかる周辺事態法を維持したうえでの話だ。

いつでもどこでも自衛隊の後方支援が可能になるように周辺事態法の抜本改革をしておいて、さらに「国際社会の平和と安定」を目的に後方支援や人道復興支援の恒久法を整備しようというのは、重複する法律を整備することにもなりかねない。

しかも政府の提案では、恒久法で認める後方支援は国連決議を条件にしないという。これではイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)と戦う有志連合への後方支援も、法律上は可能になり、あとは政府の政策判断次第になってしまう。

与党は3月末までに安保法制の骨格をまとめ、それを受けて政府は5月の大型連休明けに関連法案を国会に提出するという。

政府の提案は自衛隊の役割を根底から覆すものであり、国民の理解なしに期限を切って拙速に結論を出すべきではない。

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