福井新聞 論説 2015年2月28日
日本は過去の過ちを正視せずして、未来に進むことは許されない。安倍晋三首相が今
夏発表する戦後70年談話に注目が集まる。首相は「平和」と「国際貢献」を盛んに強
調し、未来志向を強めている。戦後「平和国家」として努力してきたわが国だ。その視
点は大事だが、歴代積み重ねてきた歴史認識を首相特権で薄め、変更することがあって
は国の針路を危うくする。賢明な判断を求めたい。
首相談話に関して有識者懇談会で議論を始めた。最大の焦点は、戦後50年に当たり
「過去の植民地支配と侵略への痛切な反省と心からのおわび」を明記した村山富市首相
談話(1995年)がどう盛り込まれるか否かである。これは戦後60年の小泉純一郎
首相談話(05年)でも同様の文言が継承された。
しかし、安倍首相は村山談話の表現を変更する可能性を示唆している。何度も「引き
継ぐ」と述べながら「全体として」という前提条件を付け、過去の談話の文言を盛り込
むかどうかは「こまごました議論」と言い切った。かつて国会で「『侵略』の定義は学
界的にも国際的にも定まっていない」と断言しており、自らの表現にこだわり続ける。
当然、懇談会で議論の対象となるだろうが、菅義偉官房長官は懇談会を「談話を書く
ことを目的にしたものではない」として、政府が内容を検討するため幅広い「意見を聞
く」場と位置づける。出た意見は「尊重する」と言うが、あくまで談話を書くのは首相
自身、議論の結果がどう反映されるかは分からない。
村山談話の核心部分である「植民地支配と侵略」は歴史の事実であり、日本外交の基
盤にもなっている。首相は「侵略」明記に難色を示しているとされるが、疑義があるな
ら懇談会でも客観的に徹底議論するべきだ。首相独自の歴史観でフリーハンドを行使す
れば、それこそ「歴史修正主義」と批判されかねない。
与党公明党の山口那津男代表も「極めて大きな意味を持っている。それを尊重して意
味が伝わるものにしなければならない」と明確に述べている。与党内、国会で議論する
のが筋だ。
懇談会は多様な人材16人が参加しているが、過半数は自民党政策に親和性があるメ
ンバーと目される。「結論ありき」の批判を避けるアリバイづくりであってはならない
。首相談話は国際社会も注視しているが、大切なのは「外交的配慮」ではなく、われわ
れ自身のたどった苦難の道、国の立ち位置をどう見定めるかだ。
大手紙の中には「首相談話を出すたびに、大戦への謝罪を続けることが適切なのか」
と疑問を投げ掛ける論調もある。懇談会には大手2紙がメンバーに加わっている。極め
て安倍色の強い「首相の私的諮問機関」に、権力をチェックすべきメディアが加わる違
和感がぬぐいきれない。
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