特定の人種、民族への憎悪をあおるヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)の対応策を検討してきた大阪市の有識者審議会が、橋下徹市長に答申を出した。

答申によれば、法律の専門家で構成する常設の第三者機関をつくり、表現行為をヘイトスピーチと認定すれば、事実関係や改善措置を公表する。被害を受けたとする人が訴訟を起こす時は、市が費用を支援することも盛り込んだ。

市は答申をもとに、近く全国で初めての条例を制定し、実行にうつす方針だ。

7万人を超す在日韓国・朝鮮人が暮らす大阪市では、深刻なヘイトスピーチが後を絶たない。法規制がないなか、自治体が対策に乗り出す意義は大きい。効果に注目したい。

条例化にあたって、指摘しておきたいことがある。

まず憲法が保障する表現の自由との兼ね合いだ。

何がヘイトスピーチにあたるのか、第三者機関は公平、中立に審査すべきだ。答申はその定義について、特定の個人、集団を社会から排除したり、権利・自由を制限したりするなどの目的をもった表現行為とした。

定義をもとに厳格に判断するのは無論だが、思想・信条の自由を保障したうえで、多くの人が納得できる認定を求めたい。言うまでもないが、権力に対する健全な批判や、民主的なデモは「ヘイト」ではない。

条例に罰則は盛り込まれない方針だ。ただ、答申は、市が公共施設の利用を制限することもありうるとした。橋下市長は「最高裁判例の範囲で利用を断れる文言を入れたい」と話す。

実効性を高めたいという思いはわかるが、公共施設は開かれた表現の場だ。過度な制約にならないよう、慎重に検討していくべきだろう。

ヘイトスピーチをめぐっては、国連人種差別撤廃委員会が昨年8月、日本政府に「毅然(きぜん)とした対処」を求め、法整備を促す見解を示した。年末には、神奈川県や鳥取県、堺市など多くの議会で、国に早急な対応を求める意見書が可決された。

国レベルでも与野党が検討を始めているが、安倍首相は先月、「現行法の適切な適用と啓発活動が重要だ」と国会で述べ、新たな立法には慎重な姿勢を崩さなかった。

一方で多くの人の人権が脅かされている現実がある。議論を加速させるため、政府はまず被害の実態調査をしてはどうか。

国も地方もできる手立てを講じることで、ヘイトスピーチへの包囲網を狭めていくべきだ。