「日本のメディアは最悪」-邦人人質事件から/米NY・タイムズ マーティン・ファクラーさん

IROHIRA

神奈川新聞 3月3日(火)13時23分配信

★時代の正体<71>「イスラム国」は問う(6)
「日本のメディアは最悪」-邦人人質事件から/米NY・タイムズ マーティン・ファ
クラーさん

過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件で2人が殺害されてから1カ月が過ぎた
。テロを含めた国際情勢にどう向き合っていくのか-。米有力紙ニューヨーク・タイム
ズ東京支局長のマーティン・ファクラーさんは、日本が重大な局面を迎えているにもか
かわらずさほど論議が交わされていないことが不思議でならない。その背景にメディア
が機能していないことを指摘する。

ジャーナリストの後藤健二さんの殺害映像がインターネットに流れた約1週間後の2月
8日、ニューヨーク・タイムズは1枚の風刺画を掲載しました。

タイトルは「Could ISIS Push Japan to Depart
From Pacifism?」(「イスラム国」は平和主義から日本を離脱させら
れるか?)。テロの脅威で国民をあおり、憲法改正という政治目的の達成へ進む安倍晋
三首相が描かれていました。

正確な数は分かりませんが、風刺画はツイッターだけでも何千とシェアされました
。リツイート(拡散)している多くは米国人ではなく日本人です。なぜか。邦人人質事
件をめぐる政府の対応や思惑について、関心を持っているからです。

しかし、こうした風刺画や論評が外国の新聞に掲載され、日本の新聞には載らない
のはなぜでしょうか。日本のメディアは一体何を報じてきたのでしょうか。

■「列強」への道

日本はいま、重大な局面を迎えています。平和主義を守り続けるのか、米国や英国
のように「列強」としての道を歩むのか。その判断を突きつけられたのが、今回の事件
だったのです。

安倍首相が望んでいるのは後者です。かねて「積極的平和主義」を掲げ、米国の有
力な同盟国として、国際社会の一員として、役割を果たすことの必要性を強調してきた

今回の中東諸国訪問は、安倍政権の姿勢を世界に示す大きなチャンスと考えていた
のでしょう。湯川遥菜さん、後藤さんの殺害が予告された後も、安倍首相は「テロに屈
しない」と強硬姿勢を崩さず、最終的に2人は殺害されました。

私にとって、政府がテロリストとの交渉を拒んだことは、何の驚きもありませんで
した。安倍首相は今回の事件を「国民が犠牲になったが、テロリストとは交渉しなかっ
た」と米国や英国にアピールする材料にするつもりだろうと思っていました。

日本はこれまで「八方美人」でした。どこの国とも仲良く、その代わり、どこにも
敵をつくらない姿勢を貫いてきた。安倍首相が描く国家像は真逆です。米国との同盟を
強化し、国際社会における存在感を強めようとしている。当然、リスクは増え、敵も多
くつくることになるでしょう。

今回の事件でイスラム国のテロリストは「日本の首相へ。おまえはイスラム国から
8500キロ以上離れているが、イスラム国を掃討する十字軍に進んで参加することを
誓った」と言っている。繰り返しますが、安倍首相はこれまでの日本とは全く異なる国
家をつくろうとしている。日本はそういう岐路に立っているわけです。

国家として重大局面を迎えているにもかかわらず、なぜ日本のメディアは国民に問
題提起しないのでしょうか。紙面で議論を展開しないのでしょう。国民が選択しように
も、メディアが沈黙していては選択肢は見えてきません。

日本のメディアの報道ぶりは最悪だと思います。事件を受けての政府の対応を追及
もしなければ、批判もしない。安倍首相の子どもにでもなったつもりでしょうか。保守
系新聞の読売新聞は以前から期待などしていませんでしたが、リベラル先頭に立ってき
た朝日新聞は何をやっているのでしょう。もはや読む価値が感じられません。

私がいま手にするのは、日刊ゲンダイ、週刊金曜日、週刊現代といった週刊誌です
。いまや週刊誌の方が、大手紙より読み応えがあるのです。

安倍政権になり、世論が右傾化したという人もいますが、私はそうは思いません。
世論はさほど変わっていないでしょう。変わったのは、メディアです。

■批判こそ役割

米国のメディアもかつて失敗を犯しました。米国は2001年、同時多発テロとい
う国家を揺るがす危機に直面しました。約3千人が亡くなり、政府は対テロ戦争に乗り
出した。03年には「イラクが大量破壊兵器を隠し持っている」という情報を根拠にイ
ラク戦争を始めた。

米国の主要メディアはブッシュ政権の決断を後押ししました。後にそれが大きな誤
りだったと気が付くのですが、国家的危機を前に国民だけでなく、権力の監視を託され
ているはずのメディアも冷静さを失ってしまったのです。

イラクに大量破壊兵器などありませんでした。誤った戦争だったのです。翼賛体制
に協力したメディアは戦争に加担したのです。

この大きな反省から、メディアは権力監視の役割を果たすことの重要性、権力と距
離を保つことの必要性を学びました。二度と間違いを犯さぬよう、日々、現場で実践し
ようと努力しています。

「国家の危機」はメディアを機能不全に陥らせる怖さを潜んでいます。今回の邦人
人質事件でも「国家の危機に政府を批判するとは何事か」「テロを容認するのか」とい
う声が一部で上がりました。筋違いな話です。

今回、日本メディアはあまりにも簡単に批判をやめてしまった。しかし、2人死亡
という事態で沈黙してしまったら、国内で数千人が犠牲になるようなテロが起きた際、
一体どうするのでしょうか。

国家の危機にこそ、メディアは権力が暴走しないよう目を光らせなければならない
。冷静さを保ち、建設的な議論を展開しなければならない。

日本のメディアには一刻も早く目を覚まし、本来のメディアとしての役割を果たし
てほしいと思います。さもなければ、メディアとして語る資格はもはやないでしょう。

=====

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out /  Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out /  Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out /  Change )

Connecting to %s

%d bloggers like this:
search previous next tag category expand menu location phone mail time cart zoom edit close