2015年4月28日05時00分
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18年ぶりに改定された「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)とはどういうものなのか。一問一答形式で読み解いた。▼1面参照
■もとは防衛の役割決める文書
Q ガイドラインってそもそも何なの?
A もともとは日本が外国から攻められた時、同盟国の米軍と自衛隊がどんな協力をして敵を排除するのか、その役割分担を約束しておく文書だよ。
Q 米国は日米安全保障条約で日本を守ってくれる約束だったよね。ガイドラインと条約は別のもの?
A 1960年に結ばれた今の安保条約は、米国が日本を守る代わりに、日本が米軍に基地を提供するのが基本だ。ガイドラインは条約には書かれていない日米の軍事協力の内容をまとめたもので、78年に日米が合意した。東西冷戦の時代、旧ソ連が日本に攻め込んでくると想定し、米軍と自衛隊がどうやって一緒に戦うかを決めたんだ。
■「米と約束」理由に法整備も
Q 条約ほどの重みはないってこと?
A そうとも言えない。ガイドラインは条約と違って、国会での承認手続きはなく、両政府が法的な義務を負うこともない。でも日本政府はこれまで、ガイドラインで米国と約束したことを理由に、安全保障の法律を見直したり自衛隊を整備したりしてきたんだ。
Q これまで内容を見直したことはあるの?
A 改定は今回が2回目で、最初の改定は97年。冷戦が終わったけれど、90年代には北朝鮮の核開発疑惑や弾道ミサイル発射実験があり、その脅威に備えるためだった。朝鮮半島での戦争を想定し、日本が直接攻撃されていなくても、自衛隊が米軍の活動を後方で手伝う内容が盛り込まれた。
Q 今回の見直しはどんな内容なの?
A 政府は、平時から戦争までのあらゆる状況で「切れ目のない対応」をめざすと説明している。平時でも敵の攻撃が予想される状況(グレーゾーン)や、日本の危機に直結する場合に自衛隊が集団的自衛権を使う場合でも、日米が軍事的に助け合うことができるようになった。範囲も日本周辺に限定せず、自衛隊は世界中で米軍の後方支援ができるようになった。さらに宇宙空間やネット空間の安全を守るための協力も盛り込まれた。
(今野忍)
■<考論>政府方向性、国民意識とずれ
植木千可子・早稲田大教授(国際安全保障) 多くの国民は今回の見直しについて、日本人の命や領土がよりしっかりと守られるために必要だと考えていたのではないか。しかし、新ガイドラインは自衛隊が米軍と国際的な安全保障協力へ踏み出すもので、日米政府の方向性と国民の意識にはずれがある。
台頭する中国を念頭に「切れ目のない対応」を掲げているが、事態が緊迫した際の判断基準が明確でない。日米両政府は、中国がどんな行動をしたら許容できないのか。その一線をはっきりさせることが、誤認に基づく状況悪化の抑止につながる。米中間では海上での衝突を防ぐ安全行動規範の覚書があるが、日中間にはない。日中双方の信頼を醸成するためには、日本政府が中国にも丁寧な説明をしていくべきだ。平時における武器等防護が明記されたが、自衛隊には明確な交戦規定がない。現場の自衛官が判断するのか、政府が判断するのかなど不明瞭な点が多い。
(聞き手・三輪さち子)
■<考論>世界の安保、役割果たす機会
日本国際問題研究所のマルタ・マクレラン・ロス客員研究員 前回見直しの1997年以来、安全保障環境は大きく様変わりした。新ガイドラインで日米同盟は運用面でも強化されることになる。米国は日本に、地球規模の安全保障問題でより緊密なパートナーになってもらうことを期待している。米国は軍事予算の削減問題に直面しているが、国際社会で積極的な役割を求める声はなお強い。日本は経済面でも、途上国援助の面でも世界で主導的立場にあり、地球規模の安全保障問題でもっと大きな役割を果たす能力もある。今回の見直しは、日本がこれから地球規模の安全保障にもっと深く関わる機会になるだろう。
米国が日本に対し、将来的にどんな要請をするかを予測するのは難しい。過去の事例に照らせば、米国が日本に期待するのは、湾岸戦争時の後方支援やアフガン戦争時の米艦への給油活動のような活動だろう。ただし、いかなる要請についても、実行すべきかどうかは、日本自身が国内法に基づいて、ケース・バイ・ケースで判断すべきことだ。
(聞き手・園田耕司)
■2プラス2共同発表(骨子)
日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)共同発表の骨子は次の通り。
【積極的平和主義】 米国は、(集団的自衛権行使を認めた)昨年7月1日の閣議決定、防衛装備移転三原則、特定秘密保護法など、日本の最近の重要な成果を歓迎し、支持する
【尖閣諸島】 尖閣諸島が日本の施政下にあり、日米安保条約の適用範囲に含まれることを再確認
【普天間】 普天間飛行場の代替施設を辺野古に建設することが、運用上、政治上、財政上、戦略上の懸念に対処し、普天間飛行場の継続使用を回避する唯一の解決策であることを再確認
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ガイドラインってなに? 日米防衛協力のための指針改定
2015年4月28日05時00分
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18年ぶりに改定された「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)とはどういうものなのか。一問一答形式で読み解いた。▼1面参照
■もとは防衛の役割決める文書
Q ガイドラインってそもそも何なの?
A もともとは日本が外国から攻められた時、同盟国の米軍と自衛隊がどんな協力をして敵を排除するのか、その役割分担を約束しておく文書だよ。
Q 米国は日米安全保障条約で日本を守ってくれる約束だったよね。ガイドラインと条約は別のもの?
A 1960年に結ばれた今の安保条約は、米国が日本を守る代わりに、日本が米軍に基地を提供するのが基本だ。ガイドラインは条約には書かれていない日米の軍事協力の内容をまとめたもので、78年に日米が合意した。東西冷戦の時代、旧ソ連が日本に攻め込んでくると想定し、米軍と自衛隊がどうやって一緒に戦うかを決めたんだ。
■「米と約束」理由に法整備も
Q 条約ほどの重みはないってこと?
A そうとも言えない。ガイドラインは条約と違って、国会での承認手続きはなく、両政府が法的な義務を負うこともない。でも日本政府はこれまで、ガイドラインで米国と約束したことを理由に、安全保障の法律を見直したり自衛隊を整備したりしてきたんだ。
Q これまで内容を見直したことはあるの?
A 改定は今回が2回目で、最初の改定は97年。冷戦が終わったけれど、90年代には北朝鮮の核開発疑惑や弾道ミサイル発射実験があり、その脅威に備えるためだった。朝鮮半島での戦争を想定し、日本が直接攻撃されていなくても、自衛隊が米軍の活動を後方で手伝う内容が盛り込まれた。
Q 今回の見直しはどんな内容なの?
A 政府は、平時から戦争までのあらゆる状況で「切れ目のない対応」をめざすと説明している。平時でも敵の攻撃が予想される状況(グレーゾーン)や、日本の危機に直結する場合に自衛隊が集団的自衛権を使う場合でも、日米が軍事的に助け合うことができるようになった。範囲も日本周辺に限定せず、自衛隊は世界中で米軍の後方支援ができるようになった。さらに宇宙空間やネット空間の安全を守るための協力も盛り込まれた。
(今野忍)
■<考論>政府方向性、国民意識とずれ
植木千可子・早稲田大教授(国際安全保障) 多くの国民は今回の見直しについて、日本人の命や領土がよりしっかりと守られるために必要だと考えていたのではないか。しかし、新ガイドラインは自衛隊が米軍と国際的な安全保障協力へ踏み出すもので、日米政府の方向性と国民の意識にはずれがある。
台頭する中国を念頭に「切れ目のない対応」を掲げているが、事態が緊迫した際の判断基準が明確でない。日米両政府は、中国がどんな行動をしたら許容できないのか。その一線をはっきりさせることが、誤認に基づく状況悪化の抑止につながる。米中間では海上での衝突を防ぐ安全行動規範の覚書があるが、日中間にはない。日中双方の信頼を醸成するためには、日本政府が中国にも丁寧な説明をしていくべきだ。平時における武器等防護が明記されたが、自衛隊には明確な交戦規定がない。現場の自衛官が判断するのか、政府が判断するのかなど不明瞭な点が多い。
(聞き手・三輪さち子)
■<考論>世界の安保、役割果たす機会
日本国際問題研究所のマルタ・マクレラン・ロス客員研究員 前回見直しの1997年以来、安全保障環境は大きく様変わりした。新ガイドラインで日米同盟は運用面でも強化されることになる。米国は日本に、地球規模の安全保障問題でより緊密なパートナーになってもらうことを期待している。米国は軍事予算の削減問題に直面しているが、国際社会で積極的な役割を求める声はなお強い。日本は経済面でも、途上国援助の面でも世界で主導的立場にあり、地球規模の安全保障問題でもっと大きな役割を果たす能力もある。今回の見直しは、日本がこれから地球規模の安全保障にもっと深く関わる機会になるだろう。
米国が日本に対し、将来的にどんな要請をするかを予測するのは難しい。過去の事例に照らせば、米国が日本に期待するのは、湾岸戦争時の後方支援やアフガン戦争時の米艦への給油活動のような活動だろう。ただし、いかなる要請についても、実行すべきかどうかは、日本自身が国内法に基づいて、ケース・バイ・ケースで判断すべきことだ。
(聞き手・園田耕司)
■2プラス2共同発表(骨子)
日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)共同発表の骨子は次の通り。
【積極的平和主義】 米国は、(集団的自衛権行使を認めた)昨年7月1日の閣議決定、防衛装備移転三原則、特定秘密保護法など、日本の最近の重要な成果を歓迎し、支持する
【尖閣諸島】 尖閣諸島が日本の施政下にあり、日米安保条約の適用範囲に含まれることを再確認
【普天間】 普天間飛行場の代替施設を辺野古に建設することが、運用上、政治上、財政上、戦略上の懸念に対処し、普天間飛行場の継続使用を回避する唯一の解決策であることを再確認