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2015年5月18日
――今回の新たな安保法案は問題山積だと思いますが、最も危惧されていることは?
今度の安保法案では、憲法9条が自衛隊にできないことの限界を定めているという枠組み自体は、これまでのものが継承されています。だから、原則、武力行使はできないが、例外的にできる場合があり、それを広げる。加えて、そもそも武力行使には当たらないという範囲も広げる、ということです。しかし、日米ガイドラインに記されたような「グローバルな日米同盟」を実現するのは、この枠組みでは無理なんです。それなのに、できないはずの内容を無理やり入れている。
本来なら条約改定の手続きを踏まなければならない内容です。78年と97年のガイドラインの際も、条約手続きを踏まないことが議論になりましたが、それに慣れてしまって、もはや臆面もなく「(岸田外相は)新たな一章」などと言う。憲法73条の3号で、条約については「事前または、時宜によっては事後に、国会の承認を経ること」という憲法上の規定がある。「新たな一章」とか「歴史的な転換点」というのであれば、国会の承認が必要な条約改定で行わなくてはなりません。
■手続きの順序がメチャクチャ
――憲法があって、日米安保条約があって、その下にガイドラインがあるはずなのに、順序が逆じゃないですか。
――そういう政府のやり方は許しがたい。
やっぱり権力って、やろうと思えば何でもできてしまう。だからこそ、きちんとした手続きを取らなければなりません。手続きすら踏まない、というのは、権力を行使する方法として、中身の問題とは別に批判されるべきだと思います。
――新たな安保法案について、国会で福島瑞穂議員が「戦争法案」だと指摘したところ、自民党が議事録から削除しようとしました。しかし、青井先生がおっしゃったように、米国のケリー国務長官は、新ガイドラインについて「歴史的な転換点」という言葉を使ったほどで、新たな日米安保体制で、米軍と自衛隊はより一体となって活動する。どうも、日本国内で政府与党が国民に説明していることと、本当の実態が乖離しているように思うのですが。
――先日、内閣官房の審議官に初の制服組が就きました。日米の軍事一体化がさらに進むということは、日本が武力行使をするのかどうかなど、実質的には米軍と自衛隊で決めていくことになりませんか?
軍事が一体化するということは、平時か、緊急時か、有事か、という「事態」の認識も一体化させなければいけない。それを判断するのは制服組です。今度のガイドラインで日米で「調整メカニズム」というのが常設化される。これって3・11の時に初めて動いた有事のためのメカニズムなんです。常設化が図られるというのは、まさに運用面で本当に日米で統合的に動かせるようにしていく、という強い決意の表れでしょう。閣議決定では内閣がNSC(国家安全保障会議)の審議等に基づき主導することになっていますが、日本のNSCが、果たしてどこまで関われるのか。ちょっと悲観的にならざるを得ません。
日本の場合、憲法9条があるので、そもそもできることには限界がある。米国のように、軍事力を国益だけでなく私企業の権益を守るためにも使います、とハッキリ打ち出している国とは違うのですが、安倍政権は米国と同じような軍隊の使い方ができる国にしたいのではないか。できること、できないことがあって、できる範囲でやるのではなく、とりあえず何でもできるようにして、その中から政策判断で何をやるかをピックアップできる国にしていきたい。それは9条を改正しないと無理な話なのですがね。できないことは、できない。そういう歯止めがなければ、憲法が意味のない紙切れになってしまいます。
――とにかく、国民に対しての説明があまりにも不足しています。
具体的に私たちの生活にどういう影響が及ぶのか。自衛隊は自国の防衛のための必要最小限度の実力のはずです。しかし、米国とともにグローバルに活動するなら、規模を拡大することになるのかどうか。そうした時に日本の社会にどのような変化があるのか。日米ガイドラインにしても、これから日本がどういう国家になっていくのか、国民の代表機関である国会に提示して、意思決定を経てから外交に反映させていくべきなのに、情報を小出しにして、全体像を見せない。米国のような事実上の軍隊になったとして、これをどう統制していくのか、という議論は全くないに等しい。グローバルな活動に行かされる自衛隊員の問題もあります。安全を守りますと言うが、具体的にどういうことなのか。抽象的な言葉ばかりで、私たちの社会や生活が本当にどうなっていくのかが示されていません。
国会議員が持っている憲法上の権限はすごく大きい。国民の代表という重みを十分に発揮していただきたいと思います。これまでも、国会で答弁を引き出したことで、それが歯止めになってきました。周辺事態法では「地球の裏側は想定されない」という答弁を引き出した。実質的な歯止めを引き出すということで、国会での審議が深められる。修正も可能ですし、通さないということだって、もちろん可能です。あくまでも憲法上、立法権を持っているのは国会ですからね。いくらガイドラインがあるからやりたいと言っても、国会を通らないとできないわけですから。何事も諦めてはいけない、ということを強調したいですね。
▽あおい・みほ 1973年生まれ。国際基督教大卒。東大院法学政治学研究科修士課程修了、博士課程単位取得満期退学。成城大法学部准教授などを経て、11年から現職。主な研究テーマは憲法9条論。著書に「憲法を守るのは誰か」など。「立憲デモクラシーの会」「国民安保法制懇」メンバー。
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