4日の衆院憲法審査会で、参考人として呼ばれた憲法学者3人全員が、新たな安全保障関連法案を「憲法違反」と指摘した。法案の根幹を揺るがす発言は、法案審議に影響を与えるとともに、国会のあり方にも問題を投げかけた。

■自民の推薦者も批判

Q 衆院憲法審査会で憲法学者たちが招かれた「参考人」ってどういう人?

A 国会では審議や調査の参考にするため、有識者らを招いて意見を聴く仕組みがある。その人たちを参考人と呼んでいる。国会議員や閣僚だけの議論では、視野が狭くなりがちだから、専門的な見地から幅広く意見を聞く狙いがある。それぞれの政党が参考人を推薦して呼ぶのが慣例になっている。

Q 今回の参考人たちの意見で、どうして波紋が広がったの?

A 安倍内閣憲法9条の解釈を変えて集団的自衛権を使えるようにしたことを、憲法学者全員が「憲法違反」と述べたからだ。特に自民党は、自分たちが推薦した長谷部恭男・早大教授も憲法違反と明言したことに衝撃を受けた。

Q なぜ衝撃を受けたんだろう?

A 政党は自分たちの考えを補強してもらえる参考人を推薦するのが普通だからだ。4日の審査会はもともと9条ではなく、憲法が制定された過程や、憲法改正には限界があることなどをテーマとしていた。長谷部氏は憲法のあらゆる問題に精通し、憲法学界でも「本流」と呼ばれる存在だ。自民党は長谷部氏を2013年の特定秘密保護法案の審議で参考人として推薦した。長谷部氏はこの時、同法案に賛成意見を述べた。だから自民党は、憲法の様々な問題を語ってもらうのには長谷部氏が適任だと考えた。

Q なぜ憲法9条や安全保障の話になったの?

A 審査会の途中で民主党中川正春氏が安保関連法案は「憲法違反だと思うか」と質問。維新の党の小沢鋭仁氏、共産党の大平喜信氏も続いて質問したからだ。議題になかった同法案に焦点が移ったことに、自民党は「予想を超えたところがあった」(船田元・審査会幹事)との反応だ。しかし、憲法9条の解釈を変えたことは、憲法の根幹に関わる。憲法審査会で質問したり、答えたりするのは当然のことだ。

■政権「考え方が違う」

Q 安倍内閣から強い反発が出たね。

A 菅義偉官房長官は「違憲との指摘はあたらない。全く考え方が違う」と反論した。これに野党は「国会の参考人が違憲と言ったものを、政府が間違っていると言うのは、問題発言だ。国会の参考人の陳述は重く受け止めるべきだ」(維新の党の今井雅人政調会長)と批判した。行政府(内閣)が立法府(国会)で述べられた意見に聞く耳を持たない姿勢でいいのか。権力を持つ機関がお互いをチェックする「三権分立」につながる問題提起でもある。

Q 自民党も反発した。

A 佐藤勉国会対策委員長は「憲法学者が決める話ではない」と反発し、「参考人を甘く見る傾向があった」と述べた。佐藤氏は、省庁の幹部を呼び集め、国会の参考人を選ぶ時は、政府・与党の方針に沿った考え方の人を選んでほしいとも要請したんだ。

Q 参考人は政党が選んで推薦するんじゃないの?

A 今回の憲法審査会は政党が選んだが、政府の法案を審議する委員会では、実は法案を成立させてほしい省庁が参考人を選び、与党推薦としているケースがある。だから佐藤氏は、重要法案が山場を迎える後半国会に向けて省庁幹部に念を押したんだ。

参考人制度のあり方は、与党が採決前に「参考人の意見を聴きました」とアピールする「アリバイ作り」に使われているとの指摘もある。

Q 制度が形骸化しているね。

A 国会での議論を軽視している、と言われても仕方がない。

政党は自らの方針と異なる考え方の参考人を選んでもいいし、他党が選んだ参考人の異なる意見にも耳を傾けたほうがいい。国会の外で活動する多様な人たちの意見を聴いて参考にすることが、国会論戦を活発にするからだ。

■審議、大きな転換点

Q 「違憲」と指摘した憲法学者たちは、どういう点を問題にしているの?

A 安保関連法案の根本にかかわることだ。安倍内閣は昨年7月、憲法解釈を変更して集団的自衛権を使えるようにする閣議決定をした。この決定が法案の出発点だ。

一方で、内閣の決定だけで憲法の重要な解釈を変えていいのかが、大きな論点になった。

自民党推薦の長谷部氏が安倍内閣のやり方を否定しただけではない。民主党が推薦した小林節・慶大名誉教授は、憲法改正すべきだという立場では自民党と同じだ。その学者たちが、真正面から異論を唱えたことに重みがあった。

Q 週明け以降の国会審議に影響はあるの?

A 憲法学者たちの指摘が法案審議の大きな転換点になったといえる。野党は法案を審議する5日の特別委員会でも、憲法問題に質問を集中させ、法案の撤回を求めた。

朝日新聞の5月の世論調査では、法案を今国会で成立させる「必要はない」とした人が60%で、「必要がある」の23%を大きく上回った。指摘が、世論に影響を与える可能性もある。

(鶴岡正寛)