国会議事堂3階にある衆院第一委員室。政治とカネや増税などをめぐり、攻防が繰り広げられてきた。戦後政治の歴史が刻まれている。新たな安全保障関連法案を審議する特別委員会浜田靖一委員長)の論戦の舞台も、この部屋である。これまでの質疑で気になった点をあげてみたい。

まず、ペルシャ湾での機雷掃海。安倍晋三首相の説明では、紛争が発生してホルムズ海峡が機雷封鎖され、日本に中東の原油が届かなくなれば「存立が脅かされる」から、集団的自衛権を行使して自衛隊掃海艇が出動、機雷を除去する可能性があるという。機雷封鎖が続けば「日本国内で消費する原油のうち8割が滞る」そうだ。

一方、外務省によると機雷封鎖によって中国も4割の原油が来なくなる。多くの国が深刻な影響を受ける。国際社会全体の問題となるのだ。国連も動くだろう。各国が協力して停戦を実現し、その中で日本が掃海艇を出す場面もあるかもしれない。それは集団的自衛権というより、国際的な枠組みでの自衛隊の活動となる。特別立法が必要となるが、与野党が対立して成立に手間取ることはないだろう。半年分ある石油備蓄が枯渇するとは思えない。

次に後方支援。法案では、日本の安全のために活動する米軍などへの後方支援が可能になる。これまでは「非戦闘地域」といった制限があったが、こんどは「現に戦闘をしている現場」以外なら活動できるようになる。

新しい日米ガイドライン(防衛協力の指針)の英語版では、「後方支援」を「logistic support」と記している。通常は「兵站(へいたん)」と訳される。武器・弾薬の補給や兵士の輸送をする任務だ。日本側は、前線から離れた「後方」で支援するから安全だと強調するが、米国は前線への補給を続けてくれる「兵站」と受け止めている。そんな言葉の使い分けがまかり通っているように思える。

自衛隊の安全は確保できるのか。国連のPKO(平和維持活動)などでの経験が豊富な伊勢崎賢治・東京外大大学院教授によると、最近の紛争地では前線よりも後方が格好の標的になるケースが多いそうだ。さらに伊勢崎氏は「紛争地では各国の軍隊の宿営地に住民が逃げ込み、それを武装勢力が追いかけてくることがしょっちゅうある。自衛隊の宿営地でそんな事態が起きたらどうするのか」と心配する。

国際情勢を冷静に分析し、日本の貢献策を練り上げる。そんな構想力が安保法案には欠けている。

そして、法案が抱える最大の問題点は国民の理解があまりにも不足していることだ。自民党で安全保障問題に長年取り組んだ山崎拓・元副総裁から、こんな経験談を聞いた。

安保法案の説明に来た防衛省の担当者が、ため息まじりで打ち明けたという。「自民党の会合で法案の説明をした時、『この法律が成立したら、自衛隊が北朝鮮に乗り込んで拉致被害者を奪還できるのか』という質問が出た。それも一度ならず、数回あった。我々が『できません』と答えると、議員たちはがっかりした様子だった」。政治家が法案の内容を分かっていないのだから、有権者に理解しろと言っても無理な話だ。

11本の法案が提出されている。1年に1本、10年以上かけてじっくり審議してもおかしくない重いテーマだ。拙速な審議や採決は将来に禍根を残す。

衆院第一委員室といえば、こんな思い出がある。1988年2月6日。土曜日だったが、当時は国会審議をしていた。予算委員会が開かれていて、私は記者席にいた。夕刻になって突然、浜田幸一委員長が暴言を吐き、委員会が大混乱。浜田氏は辞任に追い込まれた。くしくも、特別委の浜田靖一委員長は幸一氏の息子。これまでのところ「委員会運営は紳士的で公平」と与野党から評価されている。

国会は何が起こるか分からない。