毎日新聞 2015年08月16日 東京朝刊
終戦記念日は、戦没者の追悼のあり方が問われる時でもある。
戦後70年にあたり、首相談話をめぐる議論が注目される一方で、この問題はあまり顧みられていない。真摯(しんし)な議論を求めたい。
全国戦没者追悼式では天皇陛下がおことばで「さきの大戦に対する深い反省」に、この式典では初めて言及された。そのうえで「戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心からなる追悼の意」を表明された。
戦没者の追悼を考える際に、避けて通れないのは政治と靖国神社の関係をめぐる問題である。
安倍晋三首相は今年も靖国神社への終戦記念日の参拝を見送った。自民党の萩生田光一総裁特別補佐を通じて私費で玉串料を奉納し、安倍内閣の3閣僚が参拝した。
靖国神社には戦後の極東国際軍事裁判(東京裁判)で戦争を指導した「平和に対する罪」で有罪となったA級戦犯が合祀(ごうし)されている。
首相は就任1年にあたる2013年12月に参拝し、中国、韓国など近隣諸国の反発に加え、米国の失望を招いた。首相参拝は「東京裁判を否定し、戦後の国際秩序に挑戦するのではないか」との疑念を生むだけに、外交的に損失だ。これまでと同様、「8・15参拝」を見送ったのは当然である。
だが、首相に近いとされる閣僚や議員らは参拝を続けている。首相が再度の参拝を図れば外交問題化する構図は温存されている。
それだけに、追悼施設の議論を続ける必要がある。これまで自民党には靖国神社と別の国立の追悼施設を建設することや、靖国神社からA級戦犯を分祀することなどで問題を解決しようとする動きもあった。だが、安倍政権の発足以来、こうした声はあまり聞かれなくなった。
気になる動きもある。自民党は、東京裁判や連合国軍総司令部(GHQ)による占領政策などを検証するための党内機関を近く発足させる予定だという。
稲田朋美政調会長は「反省すべきことを反省する」組織だと説明している。歴史修正主義にくみしたり、ひいては靖国神社への首相参拝の正当化に利用したりするような疑念を国際社会に広げてはなるまい。
首相は戦後70年談話で「国内外にたおれたすべての人々の命の前に、深くこうべを垂れ、哀悼の誠をささげます」と語った。海外の戦没者、国内の空襲などによる犠牲者の追悼という課題もあるはずだ。
終戦から70年経ても追悼のあり方をめぐり、共通認識が得られないような状況は残念だ。国民がわだかまりなく戦没者を追悼できる環境を整えることこそ、政治の責務である。