著書『格差社会の衝撃』の中で、
「所得格差が大きいほど、暴力が広がっていくことを
明らかにした研究論文はたくさんあるにもかかわらず、
その理由について示したものはほとんどない。
しかし、暴力に関する文献を見れば、明らかに最も頻繁に
暴力を引き起こすのは、軽蔑されたと感じたり、
脅迫されて面子を失うと感じた人々である」
(ウィルキンソン 2009:148)
と指摘し、その上で犯罪学者のジェームズ・ギリガンの
次のような言葉を引用している。
「私はこれまで、恥をかかされたり、屈辱を与えられたり、
軽蔑されたり、嘲(あざけ)られたりせずに引き起こされた
暴力を見たことがないし、
たとえ死刑になろうとも『面子を失うこと』
を防ぐために行われたのでもない暴力を見たことがない。
彼らが『誇りや尊厳や自尊心を持たずに生きるよりも、
殺すか殺されるかだ』と言うときに、
彼らが文字通りそのことを意味しているということを
理解できないなら、彼らを誤解しているのは我々の責任である。
彼らは文字通り、不名誉よりは死を選ぶのである」
(ウィルキンソン 2009:149)
こうした話題は一見極限的でネガティブな事例を扱ったものの
ようにも響くかもしれないが、しかし根底にあるのは、
ここで述べているような「承認」欲求ということ
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逆に言えば「承認されない」ことが人間にとってもつ否定的な意味
ーーー
が、前述のようにその中身は多様であっても、
人間にとって基底的かつ普遍的なものとしてあり、
またそれは「ケア」と表裏のものであるということである。
以上、講座ケア「ケアとは何だろうか」ミネルヴァ書房
広井良典編著 21ー22ページ より
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