軍事援助で途上国を次々取り込む中国の世界戦略

莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見
【第266回】 2015年11月26日 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]

海外出張の準備をしているさなか、携帯電話に「内戦が続くシリアと隣国トルコとの国境付近で、トルコ軍が、シリアの上空6000メートルを飛行していたロシアの爆撃機スホイ24を領空侵犯したとして撃墜した」という緊急ニュースが入った。

これを受けて、ロシアのプーチン大統領はただちに、「テロリストの手先がロシアの爆撃機を背後から襲った」とトルコを強く非難した。ロシアとトルコの2国間関係に一気に緊張が高まっている。

インターネットをチェックすると、このニュースの転載や続報などが続くなかで、ロシア軍用機とトルコの軍用機の性能などについての議論もだいぶにぎやかに行われている。そこで最近読んだ中国の兵器輸出関連のニュースを連想し、中国系のメディアの報道などを中心に、今度の原稿にまとめてみた。

インドネシアと中国は
軍事協力で“蜜月”状態

ロシアの軍用機を購入する国が多い。しかし最近、面白い現象が出ている。

インドネシアやマレーシアなどの国々が最近、相次いでロシアのスホイ30MK戦闘機を購入した。しかしその後、インドネシアのこうした軍用機の飛行訓練が中国で行われ、そのメンテナンスも中国で行われている、と言われている。

インドネシアが中国を選んだ理由は、中国での訓練が「半ばプレゼント」のようなものだからだ。インドネシアのパイロットは形ばかりの宿泊費と光熱費を負担するだけでいい。中国と関係が良好なパキスタンでもここまでの待遇ではなかった。では、今回なぜ中国はインドネシア空軍に対してこれほど気前がいいのだろうか。

中国とインドネシアとの軍事関係は特別なものである。近年、インドネシアは中国のC-705、C-701対艦ミサイルを相次いで購入しており、さらに両国はSLR-66海上OTHレーダー、水陸両用装甲車、C602A長距離対艦ミサイルなどの輸出についても交渉中であるといい、すでに中国はインドネシアの重要な武器輸入元4ヵ国のうちのひとつとなっている。

近年、インドネシアは東南アジア諸国のニュースターとなっている。東南アジア一の大国であり、また世界で4番目に人口の多い国でもある。しかも、4つの海上戦略要衝の中央に位置し、極めて重要な戦略的ポジションにある。豊富な自然資源と巨大な市場潜在力を持ち、産油国でもある。地域内で比較的高い発言権を持つため、アメリカ、日本、ロシアがなんとか味方に引き入れようと試み、アメリカとロシアはインドネシアに武器輸出の特別ルートを拓こうと競い合っている。

だが、国家の安全と戦略上の利益からインドネシアは中国との提携も強化し、アジアインフラ投資銀行や高速鉄道プロジェクトなどでも最終的にインドネシアは中国を選んだ。インドネシアは東南アジア諸国で最も早く中国と合同軍事訓練や軍事演習を行った国でもあり、中国とインドネシアの軍事関係の緊密さがうかがえる。

中国製兵器に依存する
スリランカは「第2の解放軍」

このほか、東南アジアではカンボジアやラオスなどが中国から大量の軍事援助を受けている。

2010年と2014年に中国はカンボジアに対して数度に分けて軍用車約300台、軍服4万着、対化学器材、工事車両、特殊作戦装備などを軍事援助の一部として提供しており、カンボジアは数少ない中国製軍事装備一色の国となっており、軍事指揮官の多くが中国の軍事学校で訓練を受けている。

また、ラオス初の通信衛星「ラオス1号」も11月21日に中国で発射されたばかりだ。「中国とこの地域の軍事交流は外部が知るより遥かに緊密である」と中国系メディアが指摘している。

また、現在スリランカは南アジア地域でパキスタンに次いで2番目に中国から武器を購入している国であり、メディアから「第二の解放軍」と呼ばれている。近年は中国の81式自動小銃、63式装甲兵員輸送車、WZ551装甲兵員輸送車を購入し、さらには中国製K-8初等練習機、JJ-5中等練習機、J-7戦闘機、Y-8中型輸送機を配備し、海軍は海南型哨戒艇(037型駆潜艇)を購入している。

機動力や破壊力の高いJ-7戦闘機のおかげで、スリランカ政府軍は長年失われていた制空権を最新の武器を持つタミル人テロ組織から奪回したと海外メディアは見ている。また、スリランカ政府軍は中国から高射機関砲・地対空ミサイル部隊で中低空目標指示に用いられるJY-113D空中監視レーダーを購入したことで、進撃能力を大いに強化したとインドのメディアは伝えている。

30以上のアフリカ諸国に
人材養成を行う中国軍

兵器の輸出だけではなく、中国はこれまで外国軍戦闘員と指揮官を大量に養成し、親中派の高級士官や高級官僚をも大量に養成してきた。

たとえば2008年に、ナミビアの元大統領サム・ヌジョマ氏は北京オリンピック観覧の機会を利用し、母校の南京陸軍指揮学院を訪問している。また、コンゴ民主共和国のジョゼフ・カビラ大統領もかつては中国人民解放軍国防大学にて研修を受けている。

中国は外国軍の人材を養成しつづけることで、より多くの国々に中国と中国軍について理解してもらっているのだと海外メディアは見ている。現在、中国はアフリカの30あまりの国々の軍事的人材を養成している。

南京陸軍指揮学院で学んだ外国人のうち、5名が大統領、1名が副大統領、1名が総理、8名が国防省長官となっている。中国軍の対外開放の窓口として、南京陸軍指揮学院は毎年、数十ヵ国100名あまりの軍事留学生の研修を請け負っており、一部の国では軍事戦術思想から兵士の戦闘動作に到るまで中国軍を全面的に模倣している。

例えば、東アフリカのタンザニアは武装部隊の装備、訓練、戦略戦術いずれもが人民解放軍に相似しており、「東アフリカ解放軍あるいは第二の解放軍」と称されている。また、解放軍の軍事訓練方法を全面的に受け入れており、タンザニアは東アジア屈指の軍事大国ともなっている。ウガンダとの戦争では、中国製の兵器を大量に装備したこの「東アフリカ解放軍」がいともたやすくその領国とリビア軍を打ち破った。

ここで紹介されている中国の兵器輸出事情は氷山の一角と言ってもいい。その輸出先もまだ第三世界の貧しい国々に限っているような感じだが、兵器輸出も中国の経済、外交を支える重要な一翼になりつつあることは間違いないと思う。

Categories 中国

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