「テロとの戦い」に加わるな!日本には別の役割がある

山田厚史の「世界かわら版」
【第98回】 2015年12月10日 山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

オバマ大統領は、テロとの戦いが「新たな段階に入った」と国民に呼びかけた。戦いの場はアメリカ本土まで広がった、ということである。世界各地で「ホームグロウン・テロリスト」が動き出した。一匹狼のような攻撃。シリア空爆への報復だという。

イラクとシリアでは、米軍主導でISに対する空爆が行われている
Photo:AP/AFLO

無防備な市民を無差別に襲うテロは、許されるものではない。だが空爆もまた無防備な人々を殺傷する。テロは武力で無くなるのか。ハイテク兵器を駆使して殲滅を図っても、更に手強い敵が現れるだけだろう。威勢いい掛け声に釣られ、憎悪と報復が連鎖する戦いに日本が首を突っ込むのはバカげている。この国が問われているのは「中東で手を汚していない大国」という貴重な立ち位置を活かす知恵ではないだろうか。

ISは「イラクの混乱が父、
シリアの内戦が母」

テロの犠牲者を悼むとき、なぜテロが起きたのか、考えたい。「IS(通称イスラム国)」が背後にある。どうしてこんなに過激な武装組織が生まれたのか。中東を研究する高橋和夫さんは「イラクの混乱が父親で、シリアの内戦が母親」という。混乱と内戦の中で支持を広げた。他に選択肢は無かったのかもしれないが、絶望的な境遇がISの背後に広がっているのだろう。

シリアでアサド政権と戦う武装組織はたくさんある。米国が支援する自由シリア軍やアルカイダ系とされるヌスラ戦線ではなく、ISが領土を持つに至ったのは、それなりの理由があるのだろう。800万人が暮らし、徴税も行われている、という。

かつて内戦の中国に生まれた毛沢東の人民解放軍が、先進国が支援する蒋介石の国民党軍を打ち破った。共産主義思想を掲げ、国際的な孤立をはねのけ今や大国になっている。アメリカもそうだ。武器を取って英国の植民地から独立した。初代大統領ジョージ・ワシントンの掲げた理念は、宗主国からみれば危険思想だった。ISと敵対するイランも、アラブの産油国を震え上がらせたイスラム原理主義革命で誕生した。

国家という枠組みが解体した混沌から、新たな秩序を生み出すには、過激で分かりやすい思想や血なまぐさい闘争が伴う。ISが歴史の審判に耐えるかは分からないが、中東の現実が生み出した産物であることは確かだ。

パリの惨劇は「シリアに目を向けろ」という強烈なメッセージだった。「テロリストの論理に乗るな」という声が聞こえそうだが、シリアで日常化している悲劇は「今世紀最大の人道危機」という使い古した言葉で済ますわけにはいかない。パリのように、凄惨な現場がメディアによって報じられることはない。遺族の悲しみもの伝えらえない。死んだ人の数さえ数えてもらえない。その空爆にフランスは加担している。爆弾が落とされた下でどのような悲劇が起きているか。パリ市民に限らず、平和に暮らす先進国の人々は関心の外に置いてきた。テロは許されないが、テロリストにも一分の理はある。

未来の展望なき攻撃と破壊が
イラクに混乱をもたらした

中東研究者の酒井啓子氏は、空爆を繰り返する先進国には「テロとの戦い」という錦の御旗はあっても「攻撃と破壊だけ。攻撃のあとにどういう未来を、平和を約束するのかへの言及は、ない」と指摘する。

イラク侵攻もそうだった。アメリカ率いる有志連合がバクダッドを攻めサダム・フセインの政権を崩壊させた。「大量破壊兵器を隠している」という口実は事実ではなかった。独裁を打倒してイラクをどうするか、というビジョンがないままの「攻撃と破壊」だった。

米軍制圧下で民主的な選挙が行われ、多数派であるシーア派政権が誕生する。旧政権は少数派のスンニ派支配。抑圧されてきたシーア派が政権に就くと報復が始まった。宗派対立からクルド族問題まで、フセイン政権が抑え込んできた紛争の種が一気にはじけた。凄惨な内戦の中で、旧政権の残党である軍人や官僚を吸収したスンニ派過激組織が台頭する。イラク破壊の行き着いた先がISだった。

処刑されたサダム・フセインはかつてはアメリカの協力者。イスラム革命のイランを牽制するためアメリカはフセインと手を組んだ。1980年から始まったイラン・イラク戦争は先進国やアラブの産油国がフセインのイラクを応援した。対イラン包囲網の先端にイラクを置いたのである。米軍の支援を受けイラクは軍事国家として増長し、クウェートの石油利権を狙い、湾岸戦争の口火を切った。

アメリカはイラクを叩いたが、サダム・フセインを追い落すことはしなかった。より大きな脅威であるイランを無視できなかったからである。父ブッシュが大統領だったころのアメリカは、中東情勢に注意深かった。息子ブッシュの時代になって、西部劇のようなイラン攻撃が開まる。騎兵隊がインディアンを攻める映画のように、イラクは混沌へと突き落とされた。アメリカ原住民にとって騎兵隊は侵略の尖兵だった。イラクから見れば米軍は「組織されたテロ集団」だろう。

9・11に始まる「テロとの戦い」が
ホームグロウン・テロリストを生むまで

発端は9・11。ニューヨークの金融街を攻撃した同時多発テロがアメリカを動転させた。第二次世界大戦でも無傷だった本国がイスラム過激派にやられた衝撃は深刻だった。

アルカイダを率いるオサマ・ビン・ラディンにも米国と手を組んだ過去がある。アフガニスタンでソ連と戦った時だ。サウジアラビアで富豪の息子として育ったビンラディンはイスラムの大義に立ち、応援に駆け付けたといわれる。米国はイスラム戦士に武器を渡しソ連追い出しにかかった。過酷な戦闘を通じてビンラディンは先進国の狡さを身をもって知ったのだろう。

ビンラディンはパキスタンに潜伏中、米軍の特種部隊に急襲された。映像はホワイトハウスに送られ、映画のような戦闘シーンをオバマ大統領らが見守った。

アルカイダが米国高官を襲ったら、テロと非難されるだろう。裁判にもかけず容疑者を殺すというやり方は、アメリカなら正当化される。アルカイダやISの要人を探りだし、遠隔操作でドローンからミサイルを発射する。それも「テロとの戦い」である。罪なき人が巻き込まれてもやむを得ない出来事となる。シリアは内戦が起きてから4年半で25万人が死んだ。3分の1が民間人だという。町が破壊され、住む場所さえなく難民となる。

戦場となったシリアには破壊と死と絶望が渦巻き、内戦に加担する先進国は平和と繁栄を享受し無関心が根を下ろす。シリアは他人事で、難民が押し寄せる事態に困惑するだけ。だが一皮剥けば、植民地時代の負の遺産が社会を分断している。

アルジェリア、マリ、シリアなどから移住した異邦人は、二級市民同然の扱いだ。学歴があっても就職は困難で、貧困は世代を超えて受け継がれる。自尊意識を持てず、鬱々とする自我に、過激思想による扇動が注ぎ込まれるとヒトが変わる。

ホームグロウン・テロリストを産む土壌はフランスばかりではない。日本でもオウム真理教に若者が走った。心の空洞は豊かな国の人々の内に潜んでいる。シリアの現実に思いをはせれば、理不尽さに身が震えるナイーブな青年は少なくないだろう。

英仏米の思惑に翻弄された
中東の悲劇の歴史

西欧が中世の闇に沈んでいた頃、イスラム文化はペルシャやトルコで花開いた。中東の苦難は西欧近代化とオスマン帝国の衰退が交差する時の流れによってもたらされた。

第一世界大戦でドイツ・オーストリア側についたオスマン帝国は敗戦で中東の領土を失う。まだ交戦中に、英仏は秘密協定を結び、シリアはフランス、イラクはイギリスが支配することを勝手に決めた。1916年のサイクス・ピコ協定だ。

戦後、イギリスはイラクで少数派だったスンニ派のハーシム家を担ぎ出し、支配権を確立。1932年にイラク王国として独立させた。目を付けたのは地下に眠る油田の権益だった。フランスはシリアで、差別的な扱いを受けていたアラウィー派(シーア派系)を取り込み、多数派であるスンニ派を支配した。宗派対立を巧みに利用する植民地統治は、アラウィー派を継承するアサド政権下で起こる凄惨な内戦の原因にもなった。

秘密協定で領土を手に入れ、内部を対立させて支配権を握る。中東は英仏の草刈り場だった。第二次大戦後はユダヤ人国家イスラエルが建国され、石油時代の訪れでアメリカが乗り出した。紛争や政変の陰にいつも先進国がいた。そんな中で怨念の塊ともいえるアルカイダ、タリバンそしてISが生まれたのである。

テロとの戦争はいずれ膠着
その時こそ日本の出番だ

兵器の在庫一掃を思わせたアフガニスタン攻撃でタリバンは散り散りになったが、また息を吹き返した。中枢を失ったアルカイダはアメーバのように地域で生息している。DNAはISにも受け継がれた。

米仏英露が近代兵器を使って攻撃すれば、ISは消滅するだろう。ロシアは潜水艦からミサイルを撃ってISを攻撃した、という。巻き添えで死ぬ人が大勢いることだろう。怒りは増幅され、テロの火種は散らばる。より強烈な原理主義や残酷なテロ組織を生むに違いない。

先進国の生んだ火花は下層に喘ぐ異邦人をテロリストに仕立てる。テロは戦って粉砕できるものではない。政治家も分かっているだろう。だがうろたえる国民に「威勢のいい姿勢」を見せなければ権力は維持できない。

「テロは世界の敵」という言葉がある。世界とはどこの誰なのか。安倍首相は、民主主義、法治、市場経済を共通の価値観として挙げる。近代の西欧で生まれた価値観に同調しない者は敵なのだろうか。

人権などなく、聖戦を高らかに主張する過激派イスラムは、厄介な存在だが武力では消せない。9・11後の世界で何が起きたか。フランスはその轍を進もうとしている。日本は尻馬に乗ることだけは避けたい。

中東で手を汚していない、という貴重な無形資産を日本は持っている。この立場を棄損しないことが国益である。日本ほどテロに脆弱な国はない。安全が当たり前の日本がテロの標的にならないよう注意深く振る舞うことを安倍首相に求めたい。

「一国平和主義」と非難されても、アメリカの子分と見られることだけは避けたい。

地域紛争に詳しい伊勢崎賢治さんは「テロとの戦争はいつか膠着する。その時に停戦・和平に持っていけるよう関係国とともに環境をつくる。長期的な視点をもって国づくりに関与する」それが日本の役割だという。うまくいくかは分からない。だが、その方向を目指すしかないだろう。日本の立ち位置は欧米と違う。突破口はそこにある。

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