橋下徹大阪市長が18日の任期満了で退任した。大阪府知事に就任してからほぼ8年で、政界からいったん退くことになる。

タレント弁護士から政治家へ。人気は今も根強いが、過激な言動は批判も浴びた。

相手を攻撃し、注目を集めながら支持を広げる。その政治手法は、有権者に改革の期待を抱かせる一方、異論を排する強引さと隣り合わせでもあった。

功を挙げるとすれば、地方自治に納税者感覚を持ち込み、問題点をわかりやすく示したことだ。知事就任後、府職員に「みなさんは破産会社の従業員」と言い、財政危機に自覚を促した。予算編成の過程も公開し、納税者が納得できない支出は認めないとの姿勢を貫いた。

橋下氏は退任会見で「自分は『転換』ばかりしてきた」と振り返った。高齢者向けのサービスを縮小し、現役世代への予算配分は厚くした。人口減少時代に限られた財源をどう使うか。今後の政治を考えるうえで、問題提起となったことは確かだ。

12年には日本維新の会を旗揚げした。地方が中央にお願いするのではなく、国会に直接乗り込む。地方から政治を動かす新たな手法を開拓した。

だが、維新が国政に進出してからの3年間は、強引さが裏目に出ることが目立った。国会での勢力拡大に重きを置くあまり、維新は2度の分裂劇を演じた。大阪市議会では他党と衝突を繰り返し、しこりを残した。

大阪都構想の是非を問うた5月の住民投票で過半数の賛同を得られなかったのは、合意形成が不十分なまま推し進めようとした姿勢への批判が大きい。

スピード重視の「決められる政治」は爽快だ。だが、ときには時間もかけないと、問題解決がかえって遠のくこともある。重い教訓といえよう。

社会の閉塞(へいそく)感が強まり、有権者の不満が高まると、わかりやすく攻撃的な主張に支持が集まりやすい。橋下氏の政界復帰待望論が強いのは、こうした時代の空気と無縁ではない。

しかし劇場型の政治には、もう終止符を打つべきだ。冷静な政策論議と合意形成への努力こそ、本来の政治の姿だ。

橋下氏は今後、党の法律政策顧問になるという。会見で「弁護士としてかかわる」と強調したが来夏の参院選では自公両党と合わせ、憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を獲得することに意欲を示した。安倍政権との協力も取りざたされる。

政界復帰の意思があるなら明言すべきだろう。黒幕的な存在にはなってもらいたくない。