毎日新聞2016年1月24日 東京朝刊
国際原子力機関(IAEA)の専門家チームが、原子力規制委員会について「正しい道をたどっている」とする暫定報告書を公表した。
報告書は、4年前に発足した規制委には独立性と透明性があり、東京電力福島第1原発事故の教訓を規制の枠組みに迅速で効果的に取り込んだと認めた。事故後の規制強化措置が国際機関から一定の評価を得た形だ。一方で、原発などに対する検査制度の見直しや規制委の職員の能力向上なども求めている。
原発の安全に「絶対」はない。詳細な内容を含む最終報告書は約3カ月後に日本政府に提出される。規制委は指摘を真摯(しんし)に受け止め、原子力安全の強化に向けて、不断の努力を重ねていく必要がある。
IAEAは原子力の平和利用を目指す国連機関で、160カ国以上が加盟する。加盟国の要請に基づき、原子力安全や放射線防護に関する規制や取り組みを評価している。
日本の原子力規制機関が調査を受けるのは2007年以来だ。その時は、規制委の前身である旧原子力安全・保安院を、法令で経済産業省から分離するよう助言を受けていた。
専門家チームは今回、規制委の取り組みに調査対象を絞った。経産省や文部科学省など関係機関からも意見を聞き、福島第1原発などの現地調査も実施した。その結果、課題として浮かんだのが原発の施設などに対する検査制度で、関連法令の改正を提言した。
規制委によれば、日本の検査制度は決められた時期に決められた項目を調べるチェックリスト方式で、柔軟性に欠ける。重要度の高い分野を重点的に検査したり、検査官が自由に現場に立ち入って検査したりする仕組みが、法令で明示されていないことが改善点とされたようだ。
実は、07年のIAEAの評価でも同じ問題が指摘されていた。規制委は対応を急ぐべきだ。
検査を効果的なものとするには、制度を見直すだけでなく、検査にあたる規制委の職員の能力向上も欠かせない。そもそも、原子力施設の安全確保の第一義的な責任は、電力会社など事業者にある。事業者は、検査に合格すればよしという認識を改め、常に安全性の向上に取り組む必要があることを忘れてはならない。
今回は、原発事故時の住民避難など政府全体の対応は調査の対象外となった。規制委ではなく、内閣府などが担当しているためだ。
だが、原発の再稼働が進みつつある現在、原子力防災に関する客観的な評価を受ける必要性は高い。内閣府はIAEAの調査団受け入れ準備を速やかに整え、問題点の洗い出しを進めてもらいたい。
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