「忘災」の原発列島 福井・高浜再稼働、地裁決定三つの疑問 時代遅れの「危険無視」?

関西電力高浜原発3号機の再稼働に向け、機器を操作する同電力社員(左)=同号機の中央制御室で2016年1月29日午後5時(代表撮影)

高浜原発の再稼働を容認する福井地裁決定を受け、抗議する運転差止の申立人ら=福井市内で2015年12月24日、森園道子撮影

 関西電力高浜原発(福井県高浜町)3号機が先月29日に再稼働した。4号機も今月中の再稼働を目指すという。福井地裁が昨年暮れ、両号機の運転差し止め仮処分を取り消す決定を出したのを受けての動きだ。だが、この決定の論拠に対し、専門家から疑問の声が上がっている。三つの点を追及した。【高木昭午】

元裁判官「政治的問題は現状維持」 常識から懸け離れ

 決定は、高浜原発の危険性が「社会通念上無視し得る程度にまで管理されている」と認定し、それを理由に再稼働を認めた。

 「『無視し得る』という言い方は、時代遅れの観があります」。そう指摘するのは、創英国際特許法律事務所会長の塚原朋一(ともかつ)さんだ。仙台地裁判事だった1994年、東北電力女川原発の運転・建設差し止め訴訟の裁判長を務め、「社会観念上、無視し得る程度を超える」事故の恐れはない、として原告の請求を棄却した。

 当時、国や電力会社は「原発の大事故は起きない」と言い、信じる人も多かった。塚原さんも事故を心配していなかった。ところが、2011年の東日本大震災で東京電力福島第1原発が爆発し、女川原発にも津波が迫った。「実は具体的危険があった。私の認識は間違っていました」

 そもそも「社会通念」とは何か。決定文は定義していないが、広辞苑に「社会一般で受け入れられている常識」とある。近年の報道機関の世論調査では、原発再稼働「反対」が「賛成」を上回る。原子力規制委員会の田中俊一委員長も「(原発が)安全だとは申し上げない」と繰り返し述べている。原発事故のリスクは小さくても無視できないというのが今の「常識」だろう。だからこそ塚原さんは、福井地裁の認識を「時代遅れ」と言うのだ。

 では、なぜ地裁は、このような理論を用いたのか。

 「使える法理論がこれしかなかったのでしょう」と塚原さん。どういうことか。

 「再稼働容認」の結論は、従来通り「無視し得る」と言えば導きやすい。一方、今の常識を取り入れ「無視し得ない危険性はあるが再稼働していい」と論じるには、前例のない法理論が必要だ。「仮処分審理などの短期間には考え出せないし、上級審で争点にもなりかねない。だから古い理論に頼ったのでしょう」

 そして塚原さんによると、原発のような政治的問題の場合、多くの裁判官は世論がよほど偏らない限り現状維持を選ぶ。与党が再稼働に賛成し経済界の要望も強い情勢も勘案する。今回の福井地裁も、こうした決定文に出てこない論理で「容認」の結論を先に決めたと見る。

規制基準あいまいさ容認

 今回の重要な論点の一つは、原発が耐えるべき地震の揺れの強さを示す「基準地震動」を巡る国の規制のあり方だった。原子力規制委が定める規制基準は、基準地震動を算出する電力会社に「最新の科学的・技術的知見の反映」や「(揺れの予測の)不確かさの適切な考慮」を求めている。

 しかし福井地裁の決定は、知見の内容や不確かさの考慮法について、規制基準の記述は「抽象的」だと指摘する。

 さらに、昨年5月7日付の当欄(特集ワイド)記事「政府と規制委の『弱点』」にある、藤原広行・防災科学技術研究所社会防災システム研究領域長の「基準地震動の具体的な算出ルールは時間切れで作れず、どこまで厳しく規制するかは裁量次第になった」との発言も引用している。藤原さんは規制委に招かれ、基準作りに携わった人だ。

 つまり決定は、基準のあいまいさを批判したのだ。ところが結論は「基準に不合理な点はない」。「専門性と識見を有する規制委が個別的、具体的に審査」するから、問題ないというのが理由だ。

 基準はあいまいでも、プロが審査するから大丈夫?

 新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)は「規制委は(再稼働を進める)政権に顔が向き、厳しく規制するとは思えない。そもそもあいまいなルール作りで済ませたのは規制委自身です」と、決定の「規制委まかせ」を危惧する。

 藤原さんも「現基準で、きちんと規制ができているかは検証されていない。本来ならどこかの原発で実験的に基準を適用し、妥当な基準地震動が導かれるかを検証して施行すべきだった」と話す。藤原さんは13年6月、規制委の会合で、この「実験的適用と検証」を提案している。だが規制委側は、予想される安全審査申請への対応を急ぐ必要を理由に退けた。

根拠の「強い揺れ確率」も怪しく

 問題はまだある。「基準地震動の年超過確率」という難解なデータが、決定の論拠になっていることだ。この数字は従来、「基準地震動を超える揺れが原発を襲う確率」と説明されてきた。決定は、関電の計算結果が「10のマイナス4乗からマイナス5乗/年(1万ないし10万年に1回程度)と極めて低い」ことなどを根拠に、地震による危険を「無視し得る」とした。

 だが、この数字は地震学者に信用されていない。国内のどの原発も、年超過確率を「1万分の1以下」と発表しているのに、実際の地震の揺れが基準地震動を超えたケースが、05年8月以降の約10年間に5回もあるからだ。商用原発がある場所は全国17カ所。甘めにみても延べ約200年で5回だ。「1万年に1回」とは全く合わない。

 08年まで気象庁地震火山部長を務めた浜田信生さんは「(年超過確率は)もっともらしい数字で社会を欺いている」と憤る。浜田さんは13年9月の日本地震学会ニュースレターで、基準地震動を超える揺れの実際の確率を「1000年から100年に1回程度」と述べた。他の学者は「(年超過確率は)科学的に意味の無い数値」と断じた。

 原発耐震に関わってきた香川敬生・鳥取大大学院教授(地震工学)は「地震波などの記録は長く見ても100年分しかない。そのデータから10万年、100万年のことは分からない。でも、エネルギーのよりどころが他になかったから、分からなくても判断せざるを得ず、原発を動かしてきた」と話す。

 一方、日本原子力学会で揺れの確率の算出などを手がけてきた高田毅士・東大大学院教授(耐震工学)は「年超過確率の『1万分の1』は『1万年に1回』と説明されがちだが、違う。不正確な説明をするから、現実と合わないと批判される」と語る。この数字は統計理論や複数の仮定から算出されるもので、単純に「何年に1度」とは読み替えられず、今回の決定の「1万ないし10万年に1回程度」との記述も不適切だという。

 では高浜原発などの「1万分の1」は実際は何年に1回のことなのか。高田さんは「各原発とも超過確率の算出過程は非公表で判断しにくいが1万年に1回より大きい場合も考えられる。算出法の改良が必要だろう」と言う。

 決定は結局、危険に目をつぶっただけではないのか。課題を認め「それでも動かしてよい」と言うなら別だが、粗雑な論理では納得されないだろう。

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