放送法4条は番組に「政治的公平」などを課している。表現や言論の自由を保障する憲法のもとで、報道内容にまで及ぶ、例外的な規定だ。慎重に扱わなければならない条文で、放送局が自らを律する倫理規範と考える法律関係者が多い。

だが、高市早苗総務相は衆院予算委員会で、放送局が4条に繰り返し違反し、改善しない場合には電波停止もありえると答弁した。民主党議員の「恣意(しい)的に運用されれば、政権に批判的な番組を流しただけで業務停止が起こりうる。4条違反での停波はしないと明言してほしい」との質問に、「放送事業者の自律が基本」としながらも「将来にわたってありえないとは断言できない。その時の総務大臣が判断する」と答えた。

高市氏はこれまでも4条は倫理規範ではないとし、「罰則規定も用意されていることによって実効性を担保する」と語っている。だが放送法は、表現の自由の確保や民主主義の発達に資することが目的だ。「政治的公平」のように、いかようにも判断できる条文について罰則を持ち出すのはふさわしくない。

民主党政権も同じ判断だったと高市氏は言う。確かに2010年の参院総務委員会で、当時の片山善博総務相は、行政処分をする権限があるとした。だが同時に「表現の自由、基本的人権にかかわる。極めて限定的、厳格な要件、謙抑的でなければいけない」とも述べた。

現政権下で自民党は「放送の自律」を軽視する態度を続けている。テレビ局の幹部を呼んで個別番組について事情を聴き、選挙報道で「公平中立、公正の確保」を求める文書を送った。「マスコミをこらしめる」などの発言もあった。NHKの新年度予算案を審議する総務会では「解説委員が無責任な評論家、コメンテーターのような発言をしている」と放送内容に干渉するような批判も出た。自民党のこうした振る舞いが続く中での総務相の停波への言及は、放送への威圧とも受けとれる。

この春、報道番組のキャスター、国谷裕子氏、岸井成格氏、古舘伊知郎氏が降板する。政権にはっきりものを言う看板番組の「顔」の交代に、報道の萎縮を懸念する声も上がっている。各局は番組を通して、それを払拭(ふっしょく)してもらいたい。

「政治的公平」は、政治権力と向き合い、それとは異なる意見にも耳をすまして、視聴者に多様な見方を示すことで保たれる。報道機関である放送局が萎縮しその責任から後退したら、民主主義の土台が崩れる。