あなたの個人情報が丸裸… 大丈夫?マイナンバー

 大切なものほど奪われたときのリスクは大きい。生涯不変の12桁の番号が国民一人一人に付けられたマイナンバー制度。運用が始まってまもなく2カ月を迎える。現在は税と社会保障、災害対策の3分野に限られるが、将来的には1枚のカードに銀行預金やクレジットカード、指紋などの生体認証など、さまざまな個人情報が結び付けられるという。この制度が本当に必要なのか、立ち止まって考えてみたい。【石塚孝志】

「成長戦略」で民間に開放/「治安管理に利用」懸念も/主要国で例なし

 「不思議ですね」。マイナンバー制度について、水永誠二弁護士は皮肉を込めて言う。「制度はプライバシー権を侵害し、憲法違反だ」として昨年12月、国に個人番号の収集や利用の差し止めなどを求める訴えを東京地裁に起こした原告弁護団の一人だ。「国は『便利な制度ですよ、個人番号カードを持ちましょう』と言い、国家公務員の身分証明書や健康保険証など用途をどんどん拡大しようとしている。ところがカードの裏には、他人に漏れたら悪用されかねない番号が載っていて、持ち歩けば持ち歩くほど危険が高まる。根本的な矛盾を抱えているんです」

 既にマイナンバーの流出については、なりすまし犯罪の増加などの恐れが指摘されている。

 それだけではない。「見過ごせないのは、民主党政権が検討を始めたマイナンバー制度の性格が、第2次安倍晋三政権になってから完全に変わったことです」。そう指摘するのは、「共通番号・カードの廃止をめざす市民連絡会」の世話人、白石孝さんだ。

 民主党政権は、社会保障制度の効率化と税の公平性確保を目的に2012年、国会に法案を提出したが、11月の衆院解散で廃案に。翌13年、安倍政権が国会に再提出し、成立させた。政府は、個人の特定が容易になり、役所などでの各種手続きが大幅に短縮される−−などのメリットを強調。今年1月からは希望者を対象に、顔写真やICチップを載せた「個人番号カード」交付も始まった。

 白石さんは「法案が通るまでは『税と社会保障』にしか使わないと言っていたのに、『IT戦略』をアベノミクスの成長戦略に位置づけてから、広く民間に開放する方針に転じた」と指摘する。

 楽天の三木谷浩史会長兼社長が代表理事を務める新経済連盟は昨年4月、「マイナンバー制度の利活用徹底に関する工程表の作成」など5項目の提言を発表。翌月には自民党の委員会で「マイナンバー制度を活用した個人・法人の円滑な電子署名と電子認証の実現」など総額150兆円の経済効果を見込む政策を提案した。

 「ITだから大きな箱物を造るわけではありませんが、数年ごとに機器やシステムを更新する必要があり、半永久的に仕事を確保できるほか、さまざまなビッグデータをもとに新たなビジネスを始めることができる。しかし、プライバシーに関わる個人情報の利活用は慎重に考えるべきだ。本人の同意なく収集・利活用されることは、プライバシー侵害にとどまらず、人格権も侵害するからです」(水永弁護士)

 政府や企業にとって、IT戦略成功のカギを握るのが「個人番号カード」の普及だ。03年に交付が始まった住民基本台帳カードは、個人情報流出の懸念に加え、住民票の写しの取得など利用範囲が限定されていたことで広まらず、昨年末で発行は終了し、普及率は約5・5%にとどまった。だが個人番号カードの申請は9日現在、既に820万枚に達している。

 白石さんが「よもや、ここまで考えているとは思わなかった」と話すのが、昨年5月、自民党が政府のIT総合戦略本部の分科会で示した「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(案)」だ。20年の東京五輪に向け、マイナンバー制度をどのように整備していくかを描いている。

 それによると、今年から19年初めまで、1枚で多くの機能を持つ「ワンカード化」を促進し、同年3月末には8700万枚の普及を目指すとしている。そのためにICチップを民間に開放して、民間企業の社員証やポイントカードに利用してもらうほか、クレジットカードや診察券としての利用(17年)、運転免許証や学歴証明書との一体化や健康保険証・お薬手帳としての活用(18年)も挙がっている。そして東京五輪。顔写真や指紋などの生体情報と個人番号をひも付けしておけば、会場への入場の際、何も持たなくても本人確認が可能というのだ。「安全安心な東京五輪を開くためとして、マイナンバーを治安管理の道具にしようとしている」(白石さん)

 「国民を管理したい政府と金もうけをしたい資本による支配が強まりかねない」と懸念するのは、近く「『マイナンバー』が日本を壊す」を出版するジャーナリストの斎藤貴男さんだ。「例えば顔認証付きの監視カメラとマイナンバーが結びつけば、どんな人間が、いつ、どこに、誰といたかまで彼らの監視下に置かれてしまう。国の政策に異議を唱える人物を丸裸にしてしまうこともできるわけです。さらにマイナンバーを使って利益を上げられる企業だけが成長し、それ以外の国民は置き去りにされる。監視社会化、格差社会化で国民が分断される。そんな社会にしてしまっていいのでしょうか」

 海外の事情はどうか。白石さんは言う。「官民共通か、住民登録制度に番号付けするのか、強制か任意かなど各国で違います。マイナンバーのように官民共通で強制的に住民登録制度に番号を付ける制度を持つのは、軍事政権時代に住民登録制度を作った韓国と、福祉国家として大きな政府を目指すスウェーデンなど一部しかありません。主要8カ国でマイナンバーと同じ制度を持った国はなく、ドイツやイタリアでは納税分野に限定しています」

 韓国では度重なる法改正で、当初の治安分野から行政分野、民間分野と利用範囲が拡大したが、一方で個人情報の大量流出に悩み、規制を検討している。

 日本弁護士連合会の情報問題対策委員会前委員長、清水勉弁護士は「全国民にナンバーを付けて検索しやすくするなんて、国防上問題です。国を滅ぼしかねません」と憤る。国民や企業の情報を他国に奪われて研究されれば、政治や経済でも常に相手に先手を打たれ、国の発展が抑えられてしまうという。社会保障番号が民間で自由に利用される米国では、なりすまし犯罪が急増し、国防総省は11年に独自の本人確認番号に変えた。

 「外国は、政府の肝いりで軍隊が専門部隊を設け、他国の情報を盗むというサイバーテロの時代に、こんな“おいしいもの”を作っていいのか。なぜほとんどの国でこのような制度を作らないのかを改めて考えるべきです」

 マイナンバー制度の可能性と、その裏にある危険性を、私たちはどこまで想像できるだろうか。


マイナンバー制度の主なスケジュール(検討中を含む)

2015年10月 マイナンバー法施行

         「通知カード」発送開始

  16年 1月 マイナンバー制度の運用開始(税、社会保障、災害対策の3分野)

         特定健診(メタボ健診)で利用開始

         希望者に「個人番号カード」交付

         国家公務員身分証明書一元化開始

      4月 ICチップの民間開放(民間企業の社員証やポイントカードなど利用検討)

   17年1月 マイナポータルの運用開始(ネットで自分のマイナンバー利用状況の確認が可能)

         クレジットカード、キャッシュカードとして利用検討

      2月 確定申告に利用開始

      7月 国の機関間や地方自治体との情報連携開始

         健康保険証として利用検討

   18年   預貯金口座へのひも付け開始

   19年以降 戸籍事務、パスポート申請での利用検討

   20年   東京五輪

   21年以降 預貯金口座へのひも付け義務化目指す

 ※内閣府の資料などを基に作成

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