消費増税がやはり延期されるべき現実的な理由

山崎元のマルチスコープ
【第419回】 2016年3月30日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]

新聞を見ていると「延期」だが…
そうならなければ株価は暴落する

消費増税延期は「期待」(≒予想)として既に相当織り込まれている

2017年4月に予定されている消費税率の10%への引き上げが、延期されるのではないか、という観測が方々で流れている。一国民としては、消費税率が「どうなるのか」を予想しなければならないし、同時に「どうすべきなのか」を考えて、声を上げるなり、投票行動に反映させるなりしなければならない。

まず、「どうなるのか」に関して、筆者は「政府によって延期されるだろう」と予想している。政治と経済の状況から見て、前々から、「延期だろう」と思ってはいたが、確信を深めたのは、3月18日(金)の新聞を見た時だった。

この日の朝刊、『読売新聞』は1面トップで「消費税先送り検討 首相 経済減速に配慮」という見出しの記事を載せた。『朝日新聞』には、消費税に関する政府関係の記事は全くなく、『日本経済新聞』は首相官邸が米国から招いたスティグリッツ教授の意見を「マイナス金利効果に限界 成長を促す財政支出を」という見出しで2面に紹介していた。

朝日新聞社には申し訳ないが、「読売が書いていて、朝日が書けていない安倍官邸ネタは、近い将来、読売が書いた通りに実現する」というのが、筆者が当面意識している「経験則」である。その後、『朝日新聞』も「首相、消費税先送り検討 サミット前後判断か」という見出しの記事を1面トップに載せたのだが、これは、読売に遅れること実に8日目の3月26日(土)の朝刊である。

新聞は比べて読むと役に立つ。消費税率引き上げの延期が実現したら、筆者は、ますますそう思うようになるのだろう。

もちろん、新聞読みの経験則は、そうなるはずだという「根拠」になるものではない。しかし、(1)スティグリッツ氏やクルーグマン氏を呼んで話を聞いておきながら、消費増税を「予定通り実施」というのでは格好がつかないし、(2)与党側としては野党・民進党が消費増税反対であることとの政治的利害のバランスを考慮しなければならないだろうし、そして何よりも、(3)「消費増税延期」が市場関係者の「期待」(≒予想)として相当程度織り込まれていることを考えると、「消費増税延期は無し」というのは、事実上もう無理だろう。脅すわけではないが、株価は暴落し、参議院選挙で与党は苦戦するだろう。

経済は「期待」に基づいて動く
早く決めたら「ベア」も違った

「いや、消費税率の引き上げを予定通りに行える経済状況を実現するためにも、財政支出を伴う経済対策を用意しているのだ」と考えている人がいるとすれば、これは現実的でない。そもそも、需要不足を補うために財政支出を行うのであって、そのすぐ翌年に需要の吸収である消費増税を行うのでは、つじつまが合わない。

もっとも、「第一の矢が金融緩和で、第二の矢が財政出動、第三の矢が成長戦略」と言っていたはずのアベノミクスで、2014年に消費税率を5%から8%に一気に3%も上げて、いわば第二の矢を逆方向に打ってしまった愚挙の実績があるので、すっかり安心してはいけないのかもしれない。

また、一時的な財政支出による景気対策と、継続的に税率が上がって将来にわたって需要を吸収し続ける消費税率引き上げとは、少なくとも単年度の金額だけで同列に比べられるものではない。

仮に、消費増税がもっぱら消費に影響するのだとすれば、向こう何年もの消費が圧迫されるのだから、消費財を製造する企業は設備投資に慎重になるはずだ。消費財販売業者や消費者向けのサービス業者は正社員の採用に対して慎重になるだろう。

あらゆる経済主体は、将来そうなるだろうという「期待」に基づいて、自分の行動を決める。

消費増税の少なくとも延期が、せめて今よりも2、3ヵ月前に決められていれば、もっと良かったはずだ。プラスだったとはいえ前年よりも大幅に抑えられて、いかにも渋かった春の賃金交渉の「ベア」は、もっと上がっていたのではないか。アベノミクスの第一の政策目標である「デフレ脱却」のためには、賃金の上昇が重要であることは、首相官邸でも十分理解しているところだろうが、2017年の増税予定は、既に悪影響を及ぼしていることにも早く気づくべきだった。

政治的センスを欠く民進党の批判
「正しい野党」なら何を言うべきか

先頃、民進党として合流した民主党と維新の党は、それぞれに2017年の消費増税は行うべきではない、という方針を持っていたのだから、例えば、安倍政権が増税延期を早く決めないことが既に悪影響を及ぼしていることを批判しても良かった。

加えて言うなら、野党側の増税延期論に対するメディアの扱いは、おそらく意図的に小さく抑えられてきた。

政権に対して「硬派な」(「批判的な」というほどでもないと筆者は思った)報道番組のキャスターが交代するような時世であるから、政権に気を遣う大手メディアは、選挙において野党が有利になるような情報の報道を控えめにしているのだろう。野党は、もっと声を大にして消費増税延期論を述べないと、メディアが作る世論的には、それは安倍政権の政策であり、首相の判断だということになるだろう。

民進党の新代表に決まった岡田氏は、スティグリッツ教授との面談の後で、「現在、安倍首相が言うような重大事態が発生しているとは思えない。こうしたなかで、引き上げを再延期するならば、国民に対して『アベノミクスが失敗したので、引き上げられない』と正直に言うべきだ」「安倍首相が『増税延期』を打ち出すとすれば、選挙対策以外の何物でもない」と述べた。

しかし、この発言は、(1)自分たちが消費増税に賛成であるかのように聞こえかねない、(2)そもそもアベノミクスは「不十分」なのであって、民主党時代のデフレ的政策よりも「まし」であると国民が思っていることに気づいていない、という2点において、著しく政治的なセンスを欠いている。

岡田氏としては、リーマンショック云々という安倍首相の発言を前提として論理的に批判した(要は「揚げ足取り」だが)つもりだろうが、国民から見た印象として、安倍政権の立場を、自分たちよりも増税延期論寄りに見せている点で失敗している。野党は、それこそ「選挙対策」をもっとまじめに考えた方がいい。政党が選挙に熱心で恥ずかしいことは何もない。

より正しい政策を
少しでも早く打ち出せ

より正しい政策を実現してくれるなら、その主体は、与野党どちらでもいいが、理想的な立場を示す責任が、野党の側により重いとすれば、民進党がやるべきことは、(1)民主党政権時代に消費税率引き上げを決めた自分達への反省と自己批判、(2)2017年の消費税率引き上げを即刻延期すべことの強調、そして、より効果的な提案として(3)消費税率の(せめて)5%への引き下げだ。

(1)(2)(3)を率直に打ち出すなら、支持する国民は多いのではないか。筆者もそれがいいと思う。

そして、もちろん、こうした方向性の政策を打ち出すのが、安倍政権の側であっても構わない。「デフレ脱却」に向けて、今は、正念場である。「期待」(言葉の意味としては経済の文脈では「予想」に近い)が果たす役割を考えると、少しでも早い方が良い。

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