英国離脱が引き金を引くEU崩壊と世界経済混乱

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【第423回】 2016年4月5日 真壁昭夫 [信州大学教授]

ロンドン在住アナリストが
危惧している欧州の情勢

日本では英国の国民投票について、EU離脱を選択することはないという楽観的な見方が多いが…

最近、ロンドン在住のアナリストの友人が東京に来た。目的は、今後の日本企業の業績見通しを企業経営者にヒアリングすることだ。

彼は日本企業に関して、「企業業績は欧州の投資家が見ているほど悪くはないが、これから為替が円高方向に動くと厳しい」との印象を持ったようだ。恐らく、その見立ては、他の海外投資家とほぼ同じだろう。

それよりも気になったのは、彼の欧州情勢に関する話の内容だった。足元の情勢を考える上で最も重要なポイントは難民問題だという。シリアなどから欧州諸国に大量の難民が押し寄せているため、社会全体が不安定化している。

特に、フランスやベルギーなどで、過激なテロ事件が発生し、フランスやドイツをはじめ多くの国が深刻に頭を悩ませる問題になっている。

問題の根源には、原油安などに起因する中東地域の経済低迷や、米国の政治力低下によるロシアなどの存在感の高まりなどの要因が複雑に絡んでいる。その意味で欧州地域が抱える難民問題は、世界的な構造変化の歪みが顕在化しているとも言える。

歪みの一端は、世界的な政治情勢の変化にも見て取れる。ドイツでは、難民の受け入れに反対する勢力が台頭している。米国の大統領選挙の候補者選考の過程では、いずれも候補者の主な論点は米国国内に目が向いている。

世界経済が過剰生産能力を抱える中で、国民が自国の利益を優先する姿勢は仕方がないのだろう。しかし、目先の利益だけではなく、長い目で見た利益を目指すことを諭すのが政治の役目だろう。最近、そうした政治の機能は明らかに低下している。

6月23日、EUの将来に
重大な懸念発生の可能性

日本から眺めていると、6月23日に行われる英国の国民投票はどうしても対岸の火事のように見える。「最終的に英国民はEU離脱を選択することはないだろう」という、楽観的な感覚を持っている向きが多いだろう。

しかし、英国の事情に近い人たちに話を聞くと、国民投票の結果予想についてはあまり楽観的ではないことが分かる。むしろ、EU残留にNOの回答が出る可能性は高まっている。

元々、英国の国民には、EU加盟で国や通貨の主権が低下することに危惧を抱く人は多かった。英国内でも、アイルランドやスコットランドの独立に対する意識は高く、人々の“自分の国”への帰属意識はかなり強い。

それに加えて、最近の難民問題の発生がEU残留反対派の勢いを増すことになっている。英国内の世論調査でも、残留賛成・反対はほぼ拮抗の状況から、やや反対派が上回るとの調査もある。

仮に、6月の国民投票で残留派が敗れることになると、影響は小さくない。その結果によって、深刻な財政問題に悩むギリシャや一部地域の独立問題を抱えるスペインなど、EU離脱派が勢いを増しそうな国や地域は多いからだ。

国民投票で残留派が敗れたとしても、EUからすぐに離脱するとは限らない。英国としては、より有利な条件を引き出すことで残留することになる可能性もある。

ただ、経済や社会事情が異なる複数の国を束ねるEU、特に単一通貨を使うユーロ圏には、ドイツのように経済的に強い国とギリシャのように弱い国が共存する問題点がある。それを、同一の金利・為替で経済運営を行わなければならないという一種の矛盾を抱える。

経済状況が良いときであれば、そうした矛盾は水面下に隠すことはできるだろう。しかし、いったん、現在のように経済状況が悪くなると、その矛盾は顕在化し、国民から不満が出ることは避けられない。

英国の離脱とEU崩壊で始まる大混乱
利害調整が困難な“多極型”世界構造

国民からの不満が高まると、政治としても何らかの手立てを講じざるを得ない。国民の不満を放置しておいては、基本的に選挙に勝つことができず、政治家の地位も危うくなる。

欧州諸国の政治情勢を見ると、その兆候が見え始めている。フランスではテロ事件の発生以降、極右政党が勢いを増している。ドイツでの地方選挙の結果を見ると、メルケル首相に対する支持率に陰りが出始めている。そうした兆候は、他の欧州諸国にも見られる。

その意味で、6月23日の英国の国民投票は重要だ。英国民のEUに対するNOが、長い目で見ると、EU崩壊のスタートになる可能性は高い。仮に、EUの結束にひびが入ると、世界の実体経済や金融市場には大きな波が押し寄せることになる。

EU崩壊の可能性が高まると、まず通貨ユーロに対する信認が低下するだろう。ひょっとすると将来なくなるかもしれない通貨を、保有したいと考える投資家は少ないはずだ。ユーロの価値が不安定化すれば、中長期的に加盟国の経済にもマイナスの影響が出る可能性が高い。

大きな規模を誇る欧州圏経済が低迷すると、世界経済の足を引っ張ることになる。そうなると、世界的に株式市場の動きは不安定になり大きな混乱が発生する可能性が高い。それと同時に、為替市場も大きく揺れるはずだ。

問題は、そうしたリスクに対応できる世界的な協調体制ができるか否かだ。既に米国にはかつてのような圧倒的な発言力はない。中国が経済的に台頭し安全保障面でもその存在感を高め、ロシアもプーチン大統領の下で対米国の存在感を高めている。

世界の権力構造が米国一国中心型から、いくつかの極を持つ“多極型”に変質している。そうした状況下、主要国の複雑な利害調整を行うことは至難の業と言わざるを得ない。

必要不可欠な協調体制の構築
政治の内向き志向で不安を拭えず

足元の世界経済の状況を概括すると、過去約20年間にできた三つのバブルの影響もあり、全般的に供給能力が需要を上回るデフレギャップが発生している。

例えば、わが国は長く続いたデフレから完全に脱却することができず、中国では鉄鋼やセメントなど在来産業分野で生産能力の過剰感が高まっている。欧州でも、デフレ圧力の高まりから消費者物価が低迷気味に推移している。

それに対し主要国は、積極的な金融緩和を実施して景気刺激を図っているものの、期待されたほどの効果が出ていない状況だ。今後、世界経済を下支えするために最も重要なポイントは、主要国が結束して世界的な協調体制を作ることができるか否かだ。

世界経済のグローバル化が進むと、一つの国にとってベストの政策が、世界レベルでの有効策になるとは限らない。特定の国が景気対策を打っても、他の国がそれを打ち消すような政策運営を行うと、全体としての効果は相殺されてしまうからだ。

そうした政策の協調体制を作ることは口で言うほど容易なことではない。協調体制下で実施する政策が、短期的に特定の国に痛みの効果をもたらすこともあり得る。そういう状況でも、協調体制を維持することは鍵になる。

痛みを伴う政策を実施するためには、政治が国民に対して理解を得なければならない。それこそ、政治のリーダーシップの真骨頂ともいうべき部分だ。

しかし、最近の主要国の政治を見ていると、どうしても心配になってしまう。米国の共和党のトランプ氏の言動は、まさに内向き=自国利益至上主義の様相だ。6月の英国の国民投票でEU離脱派が多数となる場合には、そうした内向きの政治がさらに勢いを増すかもしれない。

主要国の政治機能の内向き志向が強まると、世界の協調体制を作ることは難しくなるだろう。そうなると、世界的な供給能力過剰の状態を解消するためには、企業が淘汰されたり、自発的に設備を廃棄したりすることを待たざるを得ない。それには長い時間がかかる。そう考えると、世界経済の先行きにあまり楽観的になれない。

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