地域の力で地域を支える街づくり

石巻市包括ケアセンター・長純一所長の挑戦
地域の力で地域を支える街づくり
マルチチャネル3.0研究所 主宰 佐藤 正晃

2011年3月11日の東日本大震災から5年が経過した。被災地の復興は着々と進んでいる
が、その一方で地域医療の現場は年を追うごとに様々な課題に直面している。石巻市包
括ケアセンターの長純一所長は、地域の医療・介護問題の最前線で日々奮闘する一人だ
。同氏は、震災に伴う地域コミュニティーの崩壊がもたらした影響は極めて甚大だと強
調する。加えて、「地域の力で地域を支える街づくり」をいかに成功させるかが、今後
の地域包括ケアを占う試金石だとの認識を語ってくれた。今回は、石巻市の地域医療を
どう再生するかについて現地からリポートする。

地域医療の経験を活かす

佐藤 先生は長野県の佐久総合病院での経験が長いとうかがっています。そこでの経験
を踏まえて石巻に来られたということですが、まず最初に、この地域に接する中で肌で
感じたことを率直に語ってください。

長 私は、もともと長野県南佐久郡の中山間地区で診療所を中心とする地域医療に長く
携わってきた。当時は村や町全体の保健医療や地域の将来像を考えながら地域の医療を
どうすべきか考え続けた。こうした経験を活かせると私は考え、東日本大震災で被災し
た石巻にやってきた。東北は一言でいうと医療が過疎化し、人口が減少するような右肩
下がり社会の典型的な地域だ。都市型の復興を目指すことは難しい。むしろ私の経験を
活かすことが相応しいと考えた。

実際に被災地である石巻にくると、医療機関の仕組みはあるのだが医療を受けようとし
ない人大勢いた。このため、まずは医療を受ける前の保健活動など、高齢者の健康状態
を維持する活動に注力した。自分の意識としては常に現場を見渡しながら全てのことに
かかわってきたと自負している。震災に伴って特殊な状況もあった。いまは行政の仕事
をしているのだが、私が南佐久農村部診療所長時代に経験した行政とも違うところが沢
山ある。石巻の地域性には想像した以上だ。特に女性が表に出ない社会だと感じた。ジ
ェンダーの問題が復興の中で大きな課題だったことは間違いない。

佐藤 それはもともと女性の社会進出の話なのか、震災という地域性の問題なのか、先
生の分析はどうですか。

長 女性が進出しにくい環境であったことが、むしろソーシャルキャピタルが高いとい
うことにつながったのではないかと感じた。明らかに都会型とは違う。そこの問題点と
同時に、地方の特性として、高齢者のケアや子供の教育などは女性的な仕事だと感じる
。震災によって街のコミュニティーが壊れた中で、この部分が急速に落ちたことは無視
できなかった。我々が石巻で取り組む地域医療とは、社会システムとして医療や介護を
支える都市型もモデルに加えて、コミュニティ力を合わせて地域医療を支えるという発
想だ。だからこそ女性目線で復興を考えないといけない。予想はしていがが、実際は本
当に厳しいと感じた。

佐藤 ソーシャルキャピタルのレバレッジの中で、ある意味、男性と女性を比較できな
いが、能力として得意・不得意があり、そこがキャピタルの活かし方ではないかと思う
。石巻に来てレバレッジを意図的にかけようとした事例はありますか。

長 これまでも様々な提言をしてきた。医師はともかく、看護、介護は女性の多い職種
だ。その人達がより元気になって、発言権が維持されるようにならないといけない。た
だ、復興という視点でモノをみると、物事の決まり方が、街づくりは土木建築関係が中
心で、女性の発言権が弱いというのが実情だ。街のコミュニティーや高齢者のケア、教
育などについて、それなりに女性の識者もいるが、国の優先順位が元々低い。社会的共
通資本になっておらず、後回しで復興が進んでいる感じだ。そこを改善したいと思った

佐藤 女性活用の視点はこれまであまり聞いたことが無かった。むしろ社会システムの
方でなんとかしなければいけないものだと考えていた。先生の話を聞いて、やはりケア
や教育という視点をもっと活かさなければいけないということですね。

長 そうです。石巻に限らず、被災地は震災で大事なものを失ってしまった。我々も提
言したが、まずは既存のものを活かすという発想を大切にすべきだ。脆弱な社会システ
ムの中で何故、地方の方がケアの質が高かったのか?子供の数も多いのか?そこは社会
システムとしてのコミュニティーが高かったからではないかと考える。

佐藤 なるほど。“街づくり”というキーワードは非常に重要だと思います。ここに若
手の医師や医療者がどう関わるべきか見解をお聞かせください。

長 私の知る限り、最近の若い医師も日本の社会保障制度が行き詰っていることに危機
感を感じ始めている。社会そのものの先行き不透明感も強まっている。人のため、社会
のために貢献したいと思い医師を目指す医学生も多いが、その一方で若手医師のロール
モデルがないことへの不安も高まっている。その結果、一部の医師がコンサルティング
業のような我々とかけ離れた別の道を歩もうとする場面に出くわすことも少なくない。
私は日本という国には、“命の問題はお金の問題にすべきでない”との考えが根付いて
いるのだと思う。いまの医学部に魅力を感じない学生も多いのではないか。医学部にい
る肝心の教員がこうした社会の時流を見ていない。私のような立場の人間から言うと、
より一層、本当の社会ニーズに応えられるかという課題と真正面から向き合わなければ
ならないのだ。若手医師の仕事も流動化するなかで、社会ニーズとミスマッチしたこと
ばかり教えると、大学の医学部に魅力を感じなくなる人も増えるのではないか。ここ数
年ぐらい感じることだ。

地域コミュニティーの底上げを呼びかけ

佐藤 石巻市包括ケアセンターでは研修医をうけ入れていますか。

長 現在、総合診療医を目指している後期研修医3名を受け入れている。短期の研修を
含めるとこれまで約300名の医師を受け入れてきた。

佐藤 先生の平均的な一日のスケジュールを教えてください。

長 いまは特殊事情がある。今年夏の石巻市立病院の再開までは一時的に医師が余って
おり、丸一日行政の仕事をしていることも多い。きょうも認知症の相談と訪問看護ステ
ーションの運営委員会に出席した。行政の会議に参加したり、来訪者への対応をしたり
ということが多い。地域住民向けに懇談会も行っている。ここでは皆で支えあう社会づ
くりの話をする。地域包括ケアをやろうと呼びかける。多職種連携もサポートしている
。なにより地域のコミュニティーの底上げをしなければいけないという意識で地域住民
や諸団体と一緒に活動を行っている。

佐藤 仮設住宅の住民とのコミュニケーションはいかがですか。

長 認知症など住民からの直接的な相談もあるが、今後は国が示している在宅医療介護
支援連携センターと同様に仕組みをつかって、地域医療の課題を解決しようと考えてい
る。石巻の場合は、包括ケアセンターのスタッフやケアマネさんが医療面で困ったとき
に解決できる医師を含めたスペシャルチームを作る事を考えている。このことはコメデ
ィカルと医師の連携を促進し早期診療につながる。職種を揃えて、電話相談を受けるだ
けでなく解決できるようなことをやる。例えば前期高齢者へのバックアップも行ってお
り、より専門性の高いことが要求されている。住民からの相談というより、閉じこもっ
ている高齢者に対する健康維持のための方策の検討や、体を動かす意義などスタッフに
加え私も医師という立場で住民に働きかけている。いまはラジオ体操の実践を通じてコ
ミュニティーを活性化するようなことも行っている。

佐藤 なかなかそこまでやっていただける医師は少ないですよね。

長 それができるのは行政の医療機関だからだ。もちろん開業医でもできるが、まった
く金にならない。だからこそ石巻市に働きかけて診療所を作って欲しいと働きかけて実
現した。いまは被災地の自治会長の集まりを応援している。実際には5年、10年かかっ
てから医療にお金が回ってくるのだろう。いまはむしろ生活困難な問題などがあり、こ
れが医療現場に持ち込まれている状況にある。コミュニティーをこれからもつくらない
といけない。企業にも協力を求めたい。何の貢献ができるかを考えて欲しい。

佐藤 助け合いのベースは地域にあるということですね。

長 地方では医療や介護は社会システムだけで乗り切ることは困難である、地域のコミ
ュニティの力を合わせる事で健康維持、増進をさせてきた。ところが震災によりコミュ
ニティーが壊れた。これを修復することは容易ではないが、ちょっとでも良くできるよ
うに取り組まねばならないと思う。

====

石巻市立病院の今夏再開で地域医療がさらに変わる

佐藤 石巻市の地域医療の今後の進め方について教えてください。

長 石巻市立病院が今夏に再開する。被災前はもともと急性期病院だったが、病床数を
ダウンサイジングして再建する。病院機能としては、亜急性期、慢性期、 1.5次救急、
在宅医療をやることになった。石巻赤十字病院に急性期は集約することになった。在宅
医療が入ったことで私が市立病院に採用された。

近く総合診療医が制度化される。東北は家庭医、総合医の育成拠点が少ない。ところが
実はもっともニーズが高い地域でもある。医療崩壊している地域であるこ とを考える
中で、東北でプライマリケア医を育成できる拠点を作りたいということを当初から考え
ていた。なかでも在宅ケアを含む社会ニーズに応える医師の育 成だ。コミュニティー
、公衆衛生、認知症と在宅は非常に大きい。そこを担い、公衆衛生的な地域づくり、保
健予防を意識できる医療者を育成したいと考え、こ の呼びかけに若い医師が3人集ま
っている。指導医も3人にいる。総合診療を一つの目玉にして若い医師を育成していき
たい。

地域をみるということ が総合診療医に求められている。相当難しいことだ。これをよ
く理解している人は少ない。超高齢社会のケアの問題や高齢者爆発に伴う町の衰退など
を考えなけ ればいけない。その中で適切な社会保障の仕組みや行政との連携をどうす
るか、などを勉強するのに被災地ほど適したところはないだろう。石巻に止まらず、東
北の被災地の復興の中で医療の重要性が高まるなかで貢献していきたい。これはまさ
に長野県佐久地区がやってきた地域医療の考え方だと思う。

佐藤 まさにプライマリケアの中心になるという発想ですね。

長  いまは地域包括ケアが石巻市の最重要政策の位置づけになっている。在宅医療連
携モデルとして厚労省や内閣府から支援を受けている。いまは地域創生のモデ ルにも
なっている。政治的には地域包括ケアだ。絶対的に地方の医師不足は加速する。本腰を
入れて総合医を育てなければならない。

地元のケアマネや看護師から学ぶことも多分にある

佐藤 多職種連携の中で製薬企業は果たす役割はあるのだろうか。

長 市民向けというと認知症の関係で複数の製薬会社がやっている。非常に重要なこと
だと思う。ただ、当該企業の医薬品との直接関係がある無いに関わらず、今後は地域包
括ケアの推進のために、医師会の勉強会や生涯教育の中で製薬企業がバックアップして
くれることを望む。

ただ、正直、地域の医師会が勉強するテーマは最先端の医学ではない。明らかに地域包
括ケアや在宅医療だ。このため勉強会の講師は大学の教授でなく、地元の ケアマネや
看護師がやるべきだと思う。製薬会社の思惑もあるかもしれない。自社の薬を売る、教
授を味方につけるという狙いもあるのかもしれないが、あえて 最先端の学者だけでな
く、地域医療の現場で活躍する多職種の方々をサポートしてもらいたい。特に地域包括
ケアであるならば、総合医として地域医療に取り組 んでいる方を講師にするなど一考
だ。決して直接的な企業の利益にならないかもしれないが。会社のブランド価値はあが
るのではないか。

佐藤 社会的に製薬企業は地域に貢献していると思われていないと感じる。もう少し何
とかならないかと思うところだ。本質的な議論をしないまま医師と製薬企業の 接触も
奪われている。あらためてお見合いの場があってもいいのではないかと思う。襟を正そ
うかとしているのではないか。

長 大学の教授と 製薬会社は良い悪い含め過度に関係を持ちすぎた歴史がある。製薬
企業も変わってきていると思うが、できればお抱え学者でない、実践的な医師にフォー
カスを して欲しい。最先端の医療を学ぶことが本当のプライマリケアに必要かという
と、決してそうではない。地域医療のシステムを作ろうとしている医師や医療者に も
っとフォーカスして欲しい。むしろ地域の医療ニーズを理解していると話が出来ると思
う。一方、医師側もそうした情報をキャッチアップするようにならない といけない。

佐藤 きょうは長期時間にわたり貴重なお話をありがとうございました。

(2016年3月1日、石巻市医師会にて取材)

https://www.mixonline.jp/tabid/55/artid/53918/page/1/Default.aspx
https://www.mixonline.jp/tabid/55/artid/53918/page/2/Default.aspx

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace

Categories 自治

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